新海誠や岩井俊二といった海外でも高い人気と評価を得ている映画作家との作品を重ね、静かな佇まいのなかに輝きを増し続けている松村北斗。やはり国内外から注目を集める三宅唱監督の『夜明けのすべて』で演じるのは、パニック障害を抱えたことで人生が一変した青年・山添くん。松村の存在を幅広い世代に知らしめた朝ドラ「カムカムエヴリバディ」で共演した上白石萌音とのW主演で、人生を照らす光を見つめさせてくれる。難役と言えるはずの役も驚くほどの自然体で演じた松村。今、その胸にあるのは?(文・杉谷伸子/写真・野口貴司(SanDrago/デジタル編集・スクリーン編集部)

松村北斗 プロフィール

1995年6月18日生まれ。静岡県出身。B型。2020年、SixTONESのメンバーとしてのCDデビュー以前から、俳優としても活躍。

NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(2021)で幅広い世代の人気を得るとともに、『ホリック xxxHOLiC』(2022)で第46回日本アカデミー賞新人俳優賞、声優に挑戦した『すずめの戸締まり』と合わせての話題賞をW受賞。2月からはSixTONES初の4大ドームツアーがスタートする。

松村北斗インタビュー/日常を紡ぐ想い

──山添くんを演じるにあたって、大切にされたのはなんですか。

原作でもすごく感じたのが、パニック障害であることや生きづらさを押し付けてこないところだったんです。役についての解釈みたいな答え方になっちゃいますけど、変な話、序盤は“ほんとにパニック障害なのか?”と思われるぐらいでもいいというか。

ただ、山添くんは自分がパニック障害で生きづらさを抱えていることだけは認めてないけど、それによって出てきた自分の変なところは、“だって、こういう人間だもん”みたいな感じで別に隠さない。そこのバランス感みたいなものは、すごく大事にしながらやっていました。

山添くんは実は悲観的ではないというか、なんとか自分の中にいろんなことを閉じ込めておこうとする人物。藤沢さんがそれを解放していく話なんだろうなとは思っていました。

──その解放のきっかけとなるのが、藤沢さんが山添くんの伸びた髪を切ってあげようとするシーンですよね。作品の中で実際に自分の髪を切られることはなかなかない経験だと思いますが、撮影はいかがでしたか。髪にハサミが入る瞬間はジャキッととてもいい音がしていました。

実は『カムカムエヴリバディ』の撮影で上白石さんに髪を切られる可能性があったんですよ。確か上白石さんは、バリカンの練習もしてたはず。結局、撮影順の関係もあって実現しなかったんですけど、僕としては髪を切られる心構えはできていたというか。

藤沢さんの行動はかなり強引ですけど(笑)、そういう経緯もあって、今回は“漸くだな”と思いながら撮っていましたし、“大丈夫か。いいのか、俺?”みたいな心配は全くなかったですね。うろ覚えの話ですけど、髪を切る時の音は、実際の現場の音らしいんですよね。

──原作では髪を切るシーンは、映画で描かれている先のやりとりも綴られています。和田清人さんと三宅唱監督が書かれた脚本段階からあの先は描かれていなかったんですか。

そうですね。映画ではあそこであのシーンのクライマックスは来てる感じがしますよね。絶妙な脚本ですよね。

──この作品を通して、人と人との関わりにおいて改めて感じたことはありますか。

山添くんがまさしく台詞で言ってたことなんですけど、“助けられることはある”というのがすごい響きました。そうなんですよ、助けられることはある。助け方はさまざまあって、山添くんにとっては藤沢さんの行動が助けだった。でも、最初のうちの山添くんは自分で問題を乗り越えようとしてるから、助けを必要としていない。

だから、なんでも手を差し伸べることばかりが救いとは言わないけど、絶対忘れちゃいけないのはどんな間柄や状況であろうと助けられることはあるということ。それが自分の中では大きなポイントになりましたね。

hair&make/朝岡美妃(Nestation)  styling/ Shohei Kashima(W)

夜明けのすべて

画像: 夜明けのすべて

月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さん(上白石萌音)は、ある日、同僚・山添くん(松村北斗)のとある小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。

だが、転職してきたばかりだというのに、やる気が無さそうに見えていた山添くんもまたパニック障害を抱え、様々なことを諦め、生き甲斐も気力も失っていたのだ。

職場の人たちの理解に支えられながら、やがて二人の間には友達でも恋人でもないけれど、どこか同志のような特別な気持ちが芽生えていく。

「そして、バトンは渡された」で2019年本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの原作小説を、『ケイコ 目を澄ませて』が国内外で称賛を浴びた三宅唱監督が映画化。原作にオリジナルの要素を加え、二人の交流が少しずつお互いの殻を溶かし合っていく姿を、彼らの見つめる日常の美しさや季節の移ろいと共に捉えている。

山添孝俊(松村北斗)

画像: 山添孝俊(松村北斗)

以前は恋も仕事も順調だったが、パニック障害を抱えたことで人生が一変。電車に乗れなくなったことで退職を余儀なくされ、栗田科学で働き始める。生き甲斐も気力も失い、最初は職場での人間関係も避けていたが、PMSを抱える藤沢さんとの間に同志のような気持ちが生まれていく。

『夜明けのすべて』
日本/2024/1時間59分/配給:バンダイナムコフィルムワークス=アスミック・エース
監督:三宅唱
脚本:和田清人、三宅唱
原作:瀬尾まいこ
出演:松村北斗、上白石萌音、渋川清彦、芋生悠、藤間爽子、久保田磨希、足立智充、りょう、光石研

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