第96 回アカデミー賞で作品賞を含む5部⾨ノミネートしたフランス発の心理スリラー『落下の解剖学』が2月23日(⾦・祝)よりTOHOシネマズ シャンテ他全国で順次ロードショーとなる。この度、本作の監督であるジュスティーヌ・トリエと、ともに脚本を手掛け、トリエの実生活パートナーでもあるアルチュール・アラリのインタビューが到着した。

⼈⾥離れた雪⼭の⼭荘で、男が転落死した。はじめは事故と思われたが、次第にベストセラー作家である妻サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)に殺⼈容疑が向けられる。現場に居合わせたのは、視覚障がいのある11歳の息⼦だけ。事件の真相を追っていく中で、夫婦の秘密や嘘が暴露され、登場⼈物の数だけ〈真実〉が現れるが・・・。カンヌ国際映画祭で審査員⻑を務めた奇才リューベン・オストルンド監督から「強烈な体験だった」と破格の称賛を得たヒューマンサスペンスがいよいよ日本上陸する。

トリエ監督が反復してきた<夫婦関係>というテーマに更に別のテーマを重ねた

ジュスティーヌ・トリエ/© Yann_Rabanier

アルチュール・アラリ/Photo by Amanda Edwards/Getty Images

まるで<夫婦を解剖>していくような本作。アイデアが⽣まれたきっかけの⼀つとして、ジュスティーヌ・トリエ監督は「最初は悪夢を語るというアイデアから始まった。もし⾃分の苦しさが誰からも理解されずに社会から取り残されてしまったら、どんな⼈⽣になるだろうっていう考えからね」と⾃らの記憶を辿る。

画像: トリエ監督が反復してきた<夫婦関係>というテーマに更に別のテーマを重ねた

トリエ監督と共に脚本を⼿がけ、第96回アカデミー賞にノミネート、実際の⽣活でもパートナーであるアルチュール・アラリも「<夫婦>のアイデアは最初からあったよ。というのも夫婦関係はジュスティーヌの映画で反復的に扱われるテーマでもあるからね。そこにいろいろ重ねたって感じかな」と付け加えるている。つまり、「夫婦関係」というトリエ監督が扱ってきたテーマを描きつつ、さらにそこに複数のテーマが重なっているのが本作『落下の解剖学』なのだ。

重要なキー<言語>が主人公や物語へ大きな影響を与える

本作の主⼈公サンドラはドイツ語を⺟国語とするが、彼⼥は夫の出⾝地のフランスで暮らしており、家の外ではつたないフランス語で、家族とは英語でコミュニケーションをとる必要がある。本作の中では<⾔語のすれ違い>も重要な要素のひとつであり、夫婦⽣活、家族、裁判など、あらゆる物事のなかで、<⾔語>が重要なキーにもなっていく。

画像: 重要なキー<言語>が主人公や物語へ大きな影響を与える

「例えば<ロスト・イン・トランスレーション(通訳の過程で⼤事な要素が⽋けてしまう)>のような葛藤があると思いますか︖」という質問に対してトリエ監督は「書き始めた当初から、ザンドラが外国⼈であることは、この映画の中でとても⼤切な要素だった」とコメント。

そしてサンドラについて「フランスに住む外国⼈の役で、作家であり、物を書く仕事をしている。実際、これは彼⼥にとっては負担であって、⺟国語以外の2つの⾔語を話すことで、彼⼥は⾮常に複雑な重荷を余計に背負わされている」「彼⼥はフランス語で堂々と⾃分の考えを表現しなければいけないし、同時に、複数の⾔語を話すことで、ある種の仮⾯を持つことにもなる」と、それらが引き起こす葛藤と影響について⾔及している。

また物語への効能として「⼝論の中⼼は⾔語なわけだから、本当に⾯⽩い要素だと思った。2⼈の⼈物が、普段はお互いにとっての第⼆⾔語である<英語>で話しているけれど、諍いの際は、そのことについてでも衝突してしまう」「とにかく、すべてのシーンにおいて、この夫の第⼀⾔語である<フランス語を話さないといけない>そして<英語に切り替えることもできる>っていう、⼆重の精神的ストレスを彼⼥に付け加えることが、とても興味深いと思ったの」と語っている。

最初に思い付いたのは<何かが⽋けている>こと

「⽬に⾒えないものについて描かれていて、⼦供が視覚障がい者であるという事実も本作では重要な意味を持つ」「映画監督として<⽬に⾒えない真実>を映像で描くということにどうやって取り組んだのか︖」という質問を受けたトリエ監督。

画像: 最初に思い付いたのは<何かが⽋けている>こと

「(本作の脚本は)アルチュールと私は、コロナ禍の最初の隔離期間の1週間前からこの脚本を書き始めたの」と振り返り、そして「ともすれば、ジャンル映画に分類されがちな作品だけど、配信プラットフォームにたくさんあるスリラー映画やフィクション映画とは⼀線を画して、⾃分が本当に望んでいるものを形にしたいっていう欲求が⽣まれてきた」と当時を思い返しながら「それで最初に思い付いたのが<何かが⽋けている>ということ。今回で⾔うと、視覚的要素の⽋落、映像の⽋落です」「このアイデアは、これまでの裁判を描いた映画の、おそらく正反対をいくものだと思った」と、述懐する。

続けて、「通常、裁判シーンを描いた映画では視覚でフラッシュバックを⾒せたり、夫婦の⼈⽣の回想シーンが繰り広げられたりするでしょ︖そうする⽅が私にとってはずっと簡単だけど、別の⽅法を考えたかった。そこで思い付いたのが<⽋けている>ことから始めること」「だから今回、事件の第⼀発⾒者となる⼦供は視⼒が悪い。盲⽬じゃないんだけど、よく⾒えていない。つまり視覚映像が⽋落してる」と、劇中に登場する視点の⼀つ<⼦どもの⽬線>についても⾔及。

加えて「そして映画を⾒ている観客も、⼦供や陪審員と同じ状況、つまり視覚と⾔う要素が⽋落した状況に置かれることになる。だから裁判があって、何が⽋けているのかっていう錯乱状態の後で、すべてがつながっていくことになるのよ」と本作を読み解くヒントを提示した。

第76回カンヌ国際映画祭で<最⾼賞>パルムドールを受賞、第81回ゴールデン・グローブ賞では、並み居る競合を抑え、脚本賞と⾮英語作品賞の2部⾨を獲得。先ごろノミネートが発表された第96回アカデミー賞では、作品賞、監督賞(ジュスティーヌ・トリエ)、脚本賞(ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ)、主演⼥優賞(ザンドラ・ヒュラー)、編集賞の5部⾨で⾒事ノミネートを果たし、本国フランスでも瞬く間に動員130万⼈超えの⼤ヒットを記録した本作『落下の解剖学』は2月23日(金・祝日)公開。

『落下の解剖学』
2月23日(⾦・祝)TOHOシネマズ シャンテ他全国順次ロードショー
配給︓ギャガ
©2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

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