監督した長編映画は『ボーはおそれている』を入れても僅かに3本。にもかかわらず恐怖と狂気で世界を圧倒するアリ・アスター。キャリアと作品テーマをたどると、〝怖い〞だけではない、彼の作品に魅せられる理由が見えてきます。(文・アナイス/デジタル編集・スクリーン編集部)

『ボーはおそれている』に至るまでの作品たち
アリ・アスター過去作解説

画像: 『へレディタリー』 イベントでのアスター監督 Photo by Nicholas Hunt/Getty Images

『へレディタリー』 イベントでのアスター監督

Photo by Nicholas Hunt/Getty Images

タブー、家族、ヌード、語り手を優先する物語。アスター作品共通のテーマはすでに短編映画に散りばめられていた!

『Herman's Cure-All Tonic』(2008)

監督のみ担当した初期作。薬局に勤める男は父・ヘルマンの開発した商品を買い求める客から常に嫌味を言われ、父からも圧をかけられていた。しかしある日、眠る父から謎の体液が漏れ出ていることに気づく。

『The Strange Thing About the Johnsons』(2011)

息子の自慰を目撃した父親とジョンソン家に起きる悲劇の物語。近親相姦とレイプというタブーを扱うと同時に家族間の異常な愛情を描き、観る者を不安にさせる。AFIの卒業制作であり、本作で監督は注目を浴びる。

『TDF Really Works』(2011)

アメリカ独特のCMに見立てた下ネタコメディ。アスター本人が出演し、おならで笑いを取ろうとした友達を詰める内容に感じる狂気。彼が勧める商品の詳細は言葉にするのも憚られるため、是非ご自身で確かめてほしい。

『Beau』(2011)

『ボーはおそれている』の前身。母親に会いに出かけようとするも、自室の鍵と荷物を盗まれてしまったボーは攻撃的な隣人と侵入者に怯える。大量の処方箋と黒幕の正体によって、複数の解釈ができるラストは必見。

『Munchausen』(2013)

「ミュンヒハウゼン症候群」の意を持つ題名から内容を察してしまう本作は、家を出て大学へ行った息子を寂しがる母親の想いをサイレント映画として描く。セリフに頼らずビジュアルで語る、アスターの手腕を感じる一作。

『Basically』(2014)

LAに住む女優が家の中やそこにいる人間を紹介しつつ、両親の愚痴や恋人への想いなど頭の中の考えを観客に語りまくる。そこから彼女の人生が見えてくるのが面白く、物語そのものを完全に語り手に託した作品だ。

『The Turtle’s Head』(2014)

セクシーな依頼人の相談を下心で受けてしまった探偵。しかし、捜査を進めていくと徐々に彼の性器が縮んでいく。文字通り、「亀頭」についてのコメディ。アスターの男性器に対する異常な執着が感じられる。

『C'est La Vie』(2016)

LAの路上生活者の独白で構成される本作は『Basically』と同じ手法でありながら、対とも言える作品。後期は語りに任せる短編が多く、今後の映画の方向づけを感じさせる。次作への思わぬ布石にも注目。

『ヘレディタリー 継承』(2018)

画像: 『ヘレディタリー 継承』(2018)

祖母の死をきっかけに、さらなる不幸が家族を襲う超自然ホラー映画。クラフトマンシップ溢れるビジュアルと、トニ・コレットやアレックス・ウルフの怪演が素晴らしい。後半の怒涛のたたみかけはトラウマ級。

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画像1: 映画監督アリ・アスターの軌跡/恐怖と絶望、そして居心地のよさ

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発売元:カルチュア・ パブリッシャーズ
販売元:TCエンタ テインメント

© 2018 Hereditary Film Productions,LLC

『ミッドサマー』(2019)

画像: 『ミッドサマー』(2019)

家族を失ったダニーと彼女を厄介ぶる恋人、その仲間が特別な夏至祭が開催されるスウェーデンの村で恐怖を体験する。フローレンス・ピューの出世作であり、観る者の立場によっては格別なカタルシスが味わえる作品だ。

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発売・販売元:TCエンタテインメント

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