『ミッドサマー』以来、3年ぶりにアリ・アスター監督が来日!今回SCREENでは、『オカルト』や「コワすぎ!」シリーズなど唯一無二のホラー作品を手掛ける日本の鬼才・白石晃士監督を特別インタビュアーとして迎えて取材を実施!『ボー』の裏側に迫った。(interview/白石晃士 text/奥村百恵 photo/久保田司)

ホアキン演じるボーはなぜ共感性が高いキャラに?

白石晃士監督(以下、白石)「今日はお会いできて光栄に思っております。よろしくお願いします」

アリ・アスター監督(以下、アリ)「こちらこそ光栄です。よろしくお願いします」

白石「『ボーはおそれている』を拝見させていただきまして、興味深いなと思ったのが、前2作品(『ヘレディタリー 継承』『ミッドサマー』)と違い、ホアキン・フェニックス演じる主人公のボーが親しみやすいキャラクターになっていて、観客は彼の視点で不思議な旅をするような映画になっていました。前2作品の主人公とは違う共感性の高いキャラクターを意識して作っていかれたのでしょうか?」

アリ「まず、映画の性質そのものが前2作品と異なるので、必然的に主人公のキャラクターも本作ならではの描き方になっています。もちろん、『ミッドサマー』もダークコメディの要素はありますが、当然ながら本作とはトーンが全然違うわけで、今回はかなり誇張された世界観の中で物語が展開していきますよね。だからこそ一貫性があって、観客が共感できるキャラクターにしなければいけなかったんです。そうじゃないと漫画っぽくなってしまいますから(笑)」

白石「なるほど。あのぶっ飛んだ世界観の中で、ボーだけはリアリティのあるキャラクターとして作っていかなければいけなかったんですね」

アリ「1作目と2作目もかなり極端な世界を描いてはいますが、今回は登場人物が抱く感情が観客にリアルに伝わるように意識していましたね」

白石晃士

白石「それを完璧に体現したホアキンのお芝居は素晴らしかったです。資料で読んだ監督のコメントに、これまではあらかじめ俳優とカメラの位置を決めてからクランクインを迎えていたが、今回は別の手法をとったとありました。それはなぜでしょうか?」

アリ「ホアキンは、どんな些細なことでも一度疑問に感じたら納得するまでとことん質問してくる方なんです(笑)。体の使い方ひとつにしても議論を重ねて、“100パーセントベストといえる表現”を模索していました。毎回シーンの本質を考えさせられるような深い質問をされるので、常に挑戦状を突きつけられているような気分でしたね」

白石「ホアキンとはクランクイン前にも打ち合わせをされているんですよね?」

アリ「もちろんです。クランクイン前に散々話し合いましたし、何度も脚本の読み合わせをしました。ただ、僕は一人で脚本をどんどん書き換えていくタイプなので、撮影現場でも彼から質問されることが結構あったんです。おかげで新しいアイデアが浮かぶこともあって、すごく刺激になりました。僕は彼のやり方がすごく好きなので、再びタッグを組んで映画を撮ろうと思っています」

ショットリストは徹底して作成しスタッフやキャストとイメージを共有

白石「それは楽しみです。ところで、撮影の手法についてお聞きしたいのですが、ストーリーボード(絵コンテ)は毎回作成されていますか?」

アリ「ショットリスト(ロケーションやショットの種類、カメラアングルなど撮影に必要な項目をまとめたもの)は毎回作成しますが、ストーリーボードは複雑なシーンの時にしか用意しません。本作だと最後のシーンとバスタブのシーン、『ミッドサマー』は崖から老人が飛び降りるシーン、エンディング、セックスシーンだけ作成しました。なぜ必要かというと、全員が共通認識を持って、同じような映像をイメージしながら撮影しないといけないからです。ショットリストに関しては、僕自身が撮影の全てを把握できていないとスタッフやキャストと話ができないので、そこは徹底してやっています」

白石「日本は小規模の作品の場合はストーリーボードを作成しないことが多くて、僕も基本的には用意せずに撮影しています。でもショットリストを使って共通認識を持つことは大事ですよね」

効果的でなければジャンプスケアは採用しない

アリ「そう思います。白石さんはホラー映画を撮られていますよね。“恐怖”を描くことに対して何かこだわりはありますか?」

白石「僕は、なるべく観客を安心させず、定石のように見せかけて定石を破るような、新鮮な印象を与えられるようにと思って作っています。監督はいかがですか?」

アリ「『ヘレディタリー 継承』も『ミッドサマー』もホラー映画として成立させたかったので、ホラー映画の文法で撮った箇所もありますが、観客を怖がらせるだけのシーンにはならないように心がけていました。僕は何かが出現すると音で脅かすようなジャンプスケアを用いた作品が好きじゃなくて、どうしても自分の映画でそれをやらなければならない時は、本当にそれが必要なのかをよく吟味するようにしています。そのシーンが登場人物の感情とちゃんと紐づいているのか考え、効果的であれば採用する。そういうことが大切だと感じます。本作にもホラー的な要素はありますが、とてつもなく怖いことが起きるというよりは、観客の期待を煽っておいて、実は笑えるオチが待っているみたいな、そういうラストにしました(笑)」

白石「監督は観客に向けて“居心地の悪い楽しみ”を提供するのがお好きなんでしょうか(笑)」

大作オファーもあるけれどオリジナリティ重視のアスター監督

アリ「過去に『みんなが不安になってくれるといいな』と発言しているぐらいですから(笑)。白石さんは?」

白石「僕は観客に、極限状態の中であなたはどう判断するのか?を突きつけたいと思っています。最後の質問になりますが、監督はヒット作が続いているので、ハリウッドからビッグバジェットの作品のオファーがきていたりしませんか?」

アリ「オファーはきているのですが、あまり食指が動かないんです。もちろん、ハリウッド大作で好きな作品はたくさんありますが、昨今の作品にはワクワクするものがあまりなくて。僕は映画にはオリジナリティが必要だと思っていて、例えば、原作ものであっても少し脚色してからじゃないと映画化したくないんです。なのでスーパーヒーローものは作らないと思います(笑)」

画像: 24/2/16公開『ボーはおそれている』予告編 www.youtube.com

24/2/16公開『ボーはおそれている』予告編

www.youtube.com

『ボーはおそれている』公開中
2023/アメリカ/2時間59分/配給:ハピネットファントム・スタジオ
監督:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ネイサン・レイン、エイミー・ライアン、パーカー・ポージー、パティ・ルポーン
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