昨年末に行われた『オッペンハイマー』の記者会見はクリストファー・ノーラン監督をはじめ、主要キャストたちも一堂に会した貴重なものに。彼らは何を語ったのか、その模様をレポートします。(文・斉藤博昭/デジタル編集・SCREEN編集部)
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欠陥もあるキャラクターを映画の題材に好んで選んできた

オッペンハイマー』の日本での劇場公開が正式にアナウンスされたのが昨年の12月。そのタイミングで行われたオンラインの会見で、クリストファー・ノーラン監督は、日本に向けて次のように喜びを語った。

「すでに日本以外の世界中で上映され、その評価を聞いた日本の人たちの観たいという思いに応え、こうして公開が決まったのは適切な判断です」

ノーランの過去の作品に比べ、『オッペンハイマー』はあらゆる面で異色という印象だが、ノーラン本人にとって、この主人公は自身のフィルモグラフィーに通じるものがあったことを明かす。

「これまでも私は人間くさく、欠陥もあるキャラクターを映画の題材に好んで選んできたつもりです。バットマンも、アメコミヒーローの中では矛盾や葛藤を抱えた最も人間らしいキャラクターですよね?

オッペンハイマーは公の場で発言したことと、本心からの行動が必ずしも一致せず、その二面性に私は魅せられました。科学における成功をなしとげながら、その発明が世界の未来を大きく変えたわけで、罪悪感にどう対処したのかが、映画の主人公として描きがいがあると信じたのです」

脚本の段階からのこだわりが、キャストとの関わり方にも反映されたことを、ノーランは次のように説明する。

「実在の人物を複数組み合わせる方法は、こうした映画ではよくありますが、それは避けることにしました。マンハッタン計画に多くの研究者が関わったことを描くうえで、わずかなエネルギーをもたらす人物のキャスティングも大切にしました。

その結果、最高の俳優たちが揃い、撮影現場で私は彼らに積極的に自分のアイデアを出すように促し、即興も多用しました。デイン・デハーンやジョシュ・ハートネットが持ち込んだスタイルには特に感動しましたね」

『 オッペンハイマー』を観た人に何を受け止めてほしいか

画像: プレミアに出席した(写真左から)ロバート・ダウニーJr.、キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、クリストファー・ノーラン監督 Photo by Pierre Suu/WireImage

プレミアに出席した(写真左から)ロバート・ダウニーJr.、キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、クリストファー・ノーラン監督

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そんなノーランの演出にメインキャストはどう応えたのか。会見に同席した3人の俳優は、自らに課したチャレンジを振り返る。オッペンハイマー役を任されたキリアン・マーフィーは最も苦心が多かったはずだ。

「世界を変えた、文字どおりのアイコン的な存在を演じることに、大きな責任を感じました。でも私はプレッシャーのかかる仕事が大好き。クリス(ノーラン)の現場は、多くのチャレンジを受け入れる雰囲気が満ちているのです。

オッペンハイマーは若い頃から自分を神格化しており、帽子やスーツ、パイプなどで自らイメージを演出していました。衣装や小道具で役になりきることが重要だと、私は撮影前のテストの段階で実感していたんです」

外見から役になりきったことは、オッペンハイマーの妻キティを演じたエミリー・ブラントも同意する。

「クリスはウィッグが好きではないので、私はキティのスタイルを自分の髪で再現しました。演技の多くは内面から出るものですが、服や靴によって姿勢が変わり、自分が別の人間になったと感じることもあります。今回は、そういう瞬間が多かったですね。

キティの性格には攻撃的で毒舌な部分もあり、アルコール依存とも闘っていました。そのうえで周囲への献身や愛を表現するという演技は難しかったです。私は当時のロスアラモスに関する文献を参考に、彼女の特殊な立ち位置にアプローチすることにしました」

そしてロバート・ダウニーJr.は、オッペンハイマーと対立もするストローズ役ということで、演技にもかなり戸惑いがあったことを打ち明ける。

「ストローズ自身は尊敬されるべき資質をもち、生涯にわたって国民に仕える立場を自覚していたのでしょう。しかし作品の中では悪役の面もあり、いろいろと彼の情報を集めても、表現しづらいキャラクターだと感じたのは事実です。

でも私はクリスとエマ(プロデューサーのエマ・トーマス)から呼ばれ、初めて脚本を最後まで読んだとき、この役は俳優にとって最高のギフトだと感じたので、その困難に立ち向かいました。クリスがなぜ私を選んだのか、今でも不思議ですが(笑)」

この『オッペンハイマー』を観た人に何を受け止めてほしいか。その質問にクリストファー・ノーランは、自身で映画化したいと思った“初心”を重ねながら答えた。

「『インターステラー』(2014)で出会ったノーベル賞受賞者のキップ・ソーンによって、私は量子物理学への興味を募らせ、今回のプロジェクトへ導かれました。アインシュタインの相対性理論の後、オッペンハイマーや同時代の人たちによる科学への取り組み方はとても急進的で強力だったこと。それが世界中の人間の思考も大きく、劇的に変えたことを、この映画から知ってほしいと思います」

画像: 『オッペンハイマー』撮影現場で

『オッペンハイマー』撮影現場で

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『オッペンハイマー』
2024年3月29日(金)公開
アメリカ/2023/3時間/配給:ビターズ・エンド
監督:クリストファー・ノーラン
出演:キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニーJr.、フローレンス・ピュー

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