日本でも反響を呼んだミカエル・アース監督の『アマンダと僕』などで知られるフランスの俳優、ヴァンサン・ラコスト。10代で主演映画デビューを果たし、早くから才能に注目が集まっていた彼だが、その後の活躍も目覚ましく、いまやフランスのアカデミー賞に当たる「セザール賞」ではノミネート常連俳優となっている。30代を迎えさらなる飛躍が期待される彼が、3月に開催された<横浜フランス映画祭2024>で来日。同映画祭でオープニング上映された最新主演映画『愛する時』について本人にいろいろと語ってもらった。

“俳優にとって、新たなチャレンジができる役は大きな魅力”

――はじめに、今回の作品への出演の決め手はどこでしたか?

まず、タイトルの『愛する時』は、ダグラス・サーク監督の『愛する時と死する時』からとられています。つまりメロドラマの巨匠と呼ばれた彼へのオマージュが込められた作品で。実際にシナリオに目を通してみると、その敬意が伝わってくる、まったく陳腐ではない、いい意味でのメロドラマになっていると感じられました。ある男女の人生が移り変わっていく様子が、まるでフレスコ画のように描かれていくというか。壮大で美しいロマンが溢れる物語になっている。しかも、フランスの戦中戦後であまり触れられていない事実に焦点を当てている。これらを合わせてひじょうにオリジナリティのある提案だと思ったことが、出演を決めた一つ目の要因です。

それから、僕が演じることになる、フランソワという人物にも非常に興味を抱きました。というのも彼は、僕とは正反対の人間といいますか。まったく違った性格で、これまで僕が演じたことのないタイプの人物でもあった。俳優にとって、新たなチャレンジができる役は大きな魅力です。そのことも決め手になりました。

画像: “俳優にとって、新たなチャレンジができる役は大きな魅力”

――物語は戦後間もない1947年からスタート。裕福なインテリの学生、フランソワは、ウエートレスとして働きながら小さな息子のダニエルを育てているマドレーヌとノルマンディーの海岸で出会います。その瞬間から惹かれ合う二人ですが、実は他人には明かせない秘密を抱えています。この二人の抱える秘密はどう受け止めましたか?

まず、僕が演じたフランソワに関していうと、彼は同性愛者です。当時、同性愛は禁じられていて処罰の対象ですから、本人はカミングアウトすることも許されず、抱えこむしかなかった。その上、彼はポリオという感染症の影響で足を悪くして、戦時中、兵役に就くことができなかった。そのことの後ろめたさも抱えている。一方、マドレーヌは戦中、ドイツの占領期にドイツ兵と関係して子どもを身ごもった。

しかし、戦争が終わるとドイツ兵は去り、彼女の立場は一変。ドイツに加担した裏切り者とされ、実家はもとより親類からも見捨てられる。そうなってしまったことから息子にもうまく愛情を注げない。ですから、境遇は違えども、二人は似た者同士というか。社会的に許されない秘密を抱えていて、どこにも自分の身を置く居場所がない。その所在のなさを二人は、初めて会った瞬間に察知して惹かれ合ったのかもしれません。

フランソワたちのような家族の形を“いまの時代に提示することはすごく大切”

――二人は共に生きることを誓い、時に激しくぶつかり合いながら、自分たちなりの愛を育み、家族の形を築いていきます。

まさにそこが本作のポイントですばらしいことを提示している点だと私は思いました。たとえば、フランソワは同性愛者ですから、女性であるマドレーヌに性的なところでは興味をもてなかった。ただ、だからといって彼が彼女を愛していなかったかというとそれは違う。性的な部分ではつながれなかったかもしれないけど、彼女には他の人とは違う深い絆を感じていたし、愛情も注いでいた。息子のダニエルとの関係もそうで。フランソワとダニエルに血のつながりはない。でも、フランソワは父親としての愛情をきちんとダニエルに注いで成長を温かく見守っていた。

母親のマドレーヌが愛情を抱けない分を補うかのように、ダニエルをいろいろとフォローして、自分ができることを分け与えていた。確かに傍から見ると、彼らの家族の形はいびつに映るのかもしれない。でも、フランソワとマドレーヌとダニエルの間には確実に強い結びつきがあったし、互いへの深い愛情があった。こういう愛情の形があって、こういう家族の形があった。そのことをいまの時代に提示することはすごく大切ではないかと思いました。

画像: フランソワたちのような家族の形を“いまの時代に提示することはすごく大切”

――フランソワ役にはどのようなアプローチをしていったのでしょう。繊細な内面を表現しなければいけない役で、難しかったのではないでしょうか。

この作品の脚本は、監督を務めたカテル・キレヴェレの祖父のエピソードがモチーフになっています。肉親のことがベースにあるということで、彼女には当初からはっきりとしたビジョンがありました。その彼女のアドバイスをもとに人物像を構築していきました。まず、彼女から明確に指示されたのは10キロの減量でした(苦笑)。先ほど触れたようにフランソワはポリオを患って足に障がいを抱えている。おそらく病弱で外にもあまり出ることなく家で過ごすことが多かった。そのことを体現するような身体になってほしいということでした。ですから、最初にとりかかったのはダイエット(笑)。脂分を控えて痩せることで、青白い顔をして生命力もさほど感じられない体になるよう努めました。

それから監督からはもう一つ明確な指示がありました。それはフランソワのナイーブな面をしっかりと表現すること。フランソワは自分の心に封印するしかない性嗜好に悩み、そのフラストレーションを悶々と抱えている。そのこともあって、社会や周囲の目から逃れるように目立つことを避けてひっそりと生きているところがある。ただ、内に秘めた怒りを抱えてはいるけれども、性格は内気でインテリ学生ですから、物腰が柔らかく、怒りに駆られて声を荒げるといったことはない。そういうことも踏まえて監督から「たとえ怒っているシーンでも優しさを感じられるように演じてください」という指示を受けていました。これはなかなか難しかったのですが、自分としては監督の期待に応えられるように一つ一つ丁寧に演じていきました。自分なりにベストを尽くしました。

役所広司と一緒の時間を過ごせたのは“最高の思い出”

――では、最後になりますが、今回の<横浜フランス映画祭2024>はいかがでしたか?

最高でした。というのも役所広司さんとお会いすることができたんです。何を隠そう僕は役所さんの大ファン。今村昌平監督の『うなぎ』、黒沢清監督の作品、是枝裕和監督の作品など、役所さんの出演している作品はほとんど見ています。来日前、資料をチェックして、今回の映画祭の特別アンバサダーを役所さんが務められることは知っていました。ただ、実際に役所さんとお会いできるといった情報は一切、僕には伝えられていませんでした。そうしたら、『愛する時』の上映当日にいきなり伝えられたんです。「役所さんと(僕が)一緒の車で会場に向かってレッドカーペットを歩くことになります」と。もうびっくりでした。まさにサプライズとはこのこと。少しの時間でしたけど、ご一緒できてうれしかったです。僕にとっては最高の思い出になりました。

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Photo by Hiroki Sugiura (foto)

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