自然豊かな町にグランピング場開発計画が持ち上がる。それはコロナ渦のあおりを受けた芸能事務所が政府の補助金狙いで計画したものだった。森の環境や町の水源を汚染しかねないずさんな計画に住民たちは動揺し、関わる人々に余波が及び出す・・・。

濱口竜介監督最新作『悪は存在しない』は、『ドライブ・マイ・カー』で濱口と組んだ石橋英子からライブパフォーマンス用の映像の制作の依頼を受けたことから始まった。試行錯誤と対話の末、従来の手法でひとつの映画を完成させ、そこからライブパフォーマンス用映像を生み出すことを濱口は決断。石橋のライブ用サイレント映像『GIFT』と本作が誕生することになった。

新たな試みから生まれた本作は、第80回ヴェネチア国際映画祭では銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞、濱口に世界3大映画祭制覇の快挙をもたらし、その勢いは各国での上映や映画祭へと広がっている。今回、SCREENONLINEでは濱口監督に単独インタビューを実施。新たな試みの裏側を前後編に分けてご紹介する。(取材・文/よしひろまさみち、写真/久保田司、リード文・編集/SCREEN編集部)

ポスターのイラストは「本作のテーマが凝縮されてるような印象を受けた」

――まずシンプルな質問なんですが、ヴェネチア国際映画祭やトロント国際映画祭のときには劇中の花さんのアップスチルだったものを、このほど日本公開版ではイラストに変えられましたね。この理由は?

『悪は存在しない』ポスタービジュアル

濱口竜介(以降、濱口) 日本のポスタービジュアルは、イタリア版のポスターと同じものです。これは『偶然と想像』のポスタービジュアルと同じイラストレーターの方にお願いしました。そもそもこのイラストは劇中スチールをもとに描いていただいているんですが、そのスチールの実景よりも羽が強調されていたりして、ちょっとだけ劇的になっているんですよ。また、イラスト化することによって、より抽象的になっていて、本作のテーマが凝縮されてるような印象を受けたこともあり、イラストが納品された時に、僕もプロデューサーも、こちらのほうが最初に使っていたビジュアルよりもしっくりくるな、と意気投合したことが理由になっています。

画像: 花(演:西川玲)

花(演:西川玲)

――たしかに。私はトロントで最初に拝見したんですが、花さんのアップはインパクトが強くて驚きました。その一方で、見る前の人たちは全員、いったい何の映画か分からない謎があったんですよね。

濱口 トロントでの反応はいかがでしたか?

――プレス試写で珍しく拍手喝采でしたし、ちょいちょい会場が沸くらいに爆笑していました。

濱口 爆笑した!? なるほど、なるほど(笑)。

――グランピングサイトのプレゼン会議の辺りから、もう爆笑の連続でしたよ。

濱口 どうも海外だとそのリアクションが多いようですね。

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