日本と台湾では画のトーンや撮り方を変えた
──藤井道人監督にとって初の国際プロジェクトです。本作の話を聞いたとき、どう思われましたか。
藤井さんのおじいさんが台湾からいらしたことは知っていましたから、そういう縁もある作品なので、最初に海外で撮影する作品としてそういう親和性も含めていいなと思いました。
──今村さんはまず脚本を読んで、そこからイメージを得ていくタイプとのことですが、本作の脚本をお読みになって、どんなイメージを得たのでしょうか。
日本と台湾、18歳と36歳。舞台も年齢も分かれて、台湾と日本を交互する話です。その辺りを映像としてどういう風に捉えるのかを考えながら読み、“主人公のジミーとって、どのような景色が見えているのか”という目線で画のトーンを決めました。
日本の風景はジミーにとって美しいけれど、目に入ってくるものはきっと色彩豊かに感じたわけではないと思うので、少し煙がかったような灰色のトーンにしました。色がはっきりしない美しさみたいなものを出せればと思っていたので、ライティングもコントラストがなくて灰色がかった映像になるようにお願いしました。撮影もジミーと一緒に歩むという撮り方ではなく、カメラはできるだけジミーから遠く離れて動かず、風景の中にジミーがいるという撮り方をしています。なるべくカメラを横にふったりすることもないようにしています。ジミーが日本の風景の中で感じている寂しさを表せていればなと。
一方、台湾パートではジミーと一緒にカメラが常に動いているという撮り方をしています。風景の色も日本と比べるとはっきりしていて、赤や黄色が目立つような映像のトーンにしました。編集の段階でも、台湾の街が魅力的に見えるようなトーンを作る後処理をやっています。
グァンハンは36歳のジミーと18歳のジミーを別人が演じているかのように、見事に演じ分けています。それと同じように僕も意識を切り替えるというか、2つの時代を違う人物が撮っているかのように撮りたかったのです。
シュー・グァンハンとの関係性が台湾パートの雰囲気に反映
──ジミーを演じたシュー・グァンハンさんとは初めてだったと思いますが、ご一緒されていかがでしたか。
先に撮った日本パートの頃はまだ関係性ができていませんでしたが、台湾パートのときは彼と僕らの距離が近づいていたこともあって、その和やかさが学生時代の楽しかった雰囲気として出ているのを感じました。
彼は僕たちと言葉が通じないので、どうコミュニケーションを取りながら撮影していくのだろうかと撮影前は心配していました。いざ撮影が始まってみると、言葉が通じなくても、芝居をしているときの彼の考えていること、例えば「次はこのタイミングで体が動き出す」「ここで感情が動き出す」ということが伝わってきたのです。それは日本の俳優とやっているときと同じくらいか、もしかするとそれ以上だったかもしれません。言葉の違いはまったく関係なく、一俳優として素晴らしいんだと思いました。
──日本から来たバックパッカーのアミを演じた清原果耶さんは藤井監督にとってミューズともいえる存在とのことですが、今村さんからご覧になって、清原さんはいかがでしたか。
清原さんに初めて出会ったのは彼女が14歳くらいのときで、それから何本も一緒に仕事をしていますが、会うたびに円熟味を増した役作りとお芝居になっているのを感じます。今回はすごく難しい役どころでしたが、感情の機微を絶妙に表現していました。
特に台湾パートでは周りの人と言葉が通じなくて、いつもお芝居をするときとは違う感覚だったと思いますが、そんなことをまったく感じさせず、役になりきっていたのです。
そんな清原さんですが、台湾でみんなと一緒に屋台に行ったとき、射的とかをやっていると普通の女の子で、役を通して見ているときと大分、印象が違いました。
──幸次を演じた道枝駿佑さんから弾けるような明るさを感じました。
幸次はこの作品の中で他の人とは大分タイプが違いますが、ジミーに大きな影響を与える重要なキャラクターです。雪原でジミーと雪を投げ合うシーンがありますが、それをきっかけにそれまでは黙々としていたジミーが無邪気だった昔を思い出したんだと思います。道枝さんがそこを引き立たせてくれたので、とてもいいシーンになりました。
道枝さんとの撮影はそんなに長い時間ではありませんでしたが、本人も役どころと同じように天真爛漫なところがありました。これからいろんなお芝居をしていく中でどういう風になっていくのか、すごく楽しみです。