名優のキャリアを中心にその道のりを振り返る連載の第37回。今回取り上げるのは、『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』『猿の惑星/キングダム』と新作が続いて公開される個性派俳優ウィリアム・H・メイシーです。(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)
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俳優、監督、演技教師など様々な顔を持つアメリカ映画界屈指の個性派スター

決して目立つ役ではないが、映画を見終わった後、観客に忘れがたい印象を残す俳優がいるが、ウィリアム・H・メイシーはそんなアクターの一人だ。

メイシーは1950年3月13日フロリダ州マイアミ生まれ。祖先にはスコットランド、ウェールズ、スイス系ドイツ、オランダ、少しだけアイルランド、スペイン、ネイティブアメリカンなどの血が流れているという。

最初は獣医志望だったが、大学で演劇に出演したことから演技の道に目覚めてしまう。そこで彼が通いだしたバーモント州のカレッジで出会ったのが、デヴィッド・マメット。劇作家で脚本家、映画監督としても活躍する彼は、戯曲「グレンガリー・グレン・ロス」(後に映画化。邦題は『摩天楼を夢見て』(1992))で若くしてピューリッツアー賞を受賞、映画は『評決』(1982)『アンタッチャブル』(1987)などの脚本を書き、『殺人課』(1991)などを監督した才人だ。

画像: 演技の師匠で友人でもあるデヴィッド・マメットと Photo by Getty Images

演技の師匠で友人でもあるデヴィッド・マメットと

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そんな彼に師事したメイシーは、マメットの書いた舞台「アメリカン・バッファロー」の1975年のシカゴ初演にも出演している。1985年にマメットとアトランティックシティ・カンパニーを設立。演技教師、俳優、演出家として活動を始めた。2人でプラクティカル・エステティックという独自の演技法も開発している。

映画初出演は1980年の『ある日どこかで』だが、やはりどこに出ているのか?という程度の脇役。マメットの監督作『週末はマフィアと!』(1988・日本はビデオ発売)『殺人課』のほかにあまりパッとした役がなかった。

そんなメイシーに幸運が巡ってきたのは1990年代半ば。『依頼人』(1994)の医師役、『陽のあたる教室』(1995)の教師役あたりから目立つようになり、1996年に出演したコーエン兄弟監督のアカデミー賞ノミネート作『ファーゴ』で演じた冴えない車のセールスマン役で同賞助演男優賞候補に。こうした上昇機運はTVシリーズ「ER緊急救命室」にモーゲンスタン医師役で1994年から出演し、人気を博していたせいかもしれない。

画像: オスカー候補になった『ファーゴ』 Photo by Getty Images

オスカー候補になった『ファーゴ』

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そこから急激にメイシーの快進撃が始まる。1997年にはハリソン・フォードが米大統領を演じた『エアフォース・ワン』で勇敢な少佐役を演じ、さらにポール・トーマス・アンダーソン監督の『ブギーナイツ』では妻の浮気に悩む男も忘れがたいし、ロバート・デ・ニーロとダスティン・ホフマンが共演した『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』にもFBI捜査官役で出演と売れっ子俳優に大変身。

翌1998年もリメイク版『サイコ』や『カラー・オブ・ハート』『シビル・アクション』と3作を掛け持ち、1999年には群像劇『マグノリア』でまたまたポール・トーマス・アンダーソンに起用される。以後も年に2~3作に出演して、名前は知らなくてもその顔は誰もが知っている俳優になった。

彼には監督としての一面もあり、自ら主演するTVシリーズ「シェイムレス俺たちに恥はない」などで何話かメガホンを取り高い評価を得ている。

一方私生活では女優フェリシティ・ハフマン(TV「デスパレートな妻たち」のリネット役)とのおしどり夫婦ぶりが有名。1997年に結婚しているが、2人の出会いはその15年前。2人はハリウッドのウォーク・オブ・フェームにそろって星形を獲得、2005年と2015年には同時にエミー賞候補になったなど、「夫婦そろって」というトリビアが話題になるほど。

画像: おしどり夫婦のフェリシティ・ハフマンと Photo by Getty Images

おしどり夫婦のフェリシティ・ハフマンと

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近年も『ルーム』(2015)『ブラッド・ファーザー』(2016)などコンスタントに出演しているメイシーだが、今年日本公開された、スーザン・サランドンの夫でありながらダイアン・キートンに恋してしまう男性を演じる『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』(2023)に続いて、久々の大作『猿の惑星/キングダム』(2024)にも出演している。

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