〜今月の3人〜
土屋好生
映画評論家。今年もまたゆっくりサクラを味わっている暇もなし。ウグイスの鳴き声がやけに胸に響く今日このごろです。
金子裕子
映画ライター。ドラマで惚れたイーボーの初出演映画に大満足。次作『ボーン・トゥ・ビー・フライ』も楽しみ!
北島明弘
映画評論家。四十数年前に買った積読本を読みだしたら一折落丁していた。こんなに古くても出版社は取り換えてくれるかな。
土屋好生 オススメ作品
『人間の境界』
ポーランドへ向かう難民たちの味わう過酷な真実に迫る名匠ホランド監督の問題作
評価点:演出5/演技4/脚本4/映像4/音楽3
あらすじ・概要
豊かで自由なEU圏への脱出を夢見て生きてきた難民たち。しかし現地で待っていたのは荷物のように扱われる過酷な運命の日々。時には国境の最前線で、また時には深い森の中でどう生きていけばいいのか。
東欧のベラルーシからポーランドへ。さまよう難民らが直面する濃厚な人間ドラマ。いや、ドラマというより食料も水もない厳しい現実を克明に再現する、強烈なドキュメンタリーの精神が躍動している。
ひと口に難民問題といっても描き方によって様々な切り口が存在する。ここでは、難民として右往左往するシリア人家族を中心に、非常事態宣言下のポーランドの国境警備隊や支援の活動家ら複数の観点から一連の悲劇の真相に迫っていく。
その悲劇とは国境警備隊らによるむごたらしい仕打ちに加えて、難民への道を閉ざされ虐待される暴力と迫害である。難民を難民と認めない一連の非人道的な扱いに対してアグニエシュカ・ホランド監督は正面から「ノン」を突きつける。
それにしてもポーランドとベラルーシの国境で何が起きたのか。その最前線の攻防を取り上げ、難民だけでなく彼らを取り巻く周辺の人々をも活写する独自の観察眼はさすがホランド監督。ここまで踏み込んだ演出は彼女ならでは。難民の怒りと哀しみがひしひしと伝わってくる。
公開中/トランスフォーマー配給
©2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Ceska televize, Mazovia Institute of Culture
金子裕子 オススメ作品
『無名』
第二次世界大戦中の上海を舞台に展開する
スパイ攻防戦が緻密にして濃密。俳優陣も熱演!
評価点:演出5/演技5/脚本5/映像5/音楽4
あらすじ・概要
第二次世界大戦下の上海。汪兆銘政権の政治保衛部に所属するフーは、中国共産党の工作員だった男の身辺調査を行う。さらに彼は日本軍スパイの渡辺とも密談。彼の命令に従い部下のイエも諜報活動を続けていたが……。
寡作の俊英チェン・アル監督が、前作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』(2016)と同じく、第二次世界大戦中の上海を舞台に描くスパイ・ノワール。中国共産党、国民党、日本軍が陰謀をめぐらすカオスの中で、熾烈な攻防戦を繰り返す名もなきスパイたち。彼らは何のために、誰のために、何を信じて戦うのか?
伏線を散りばめながら過去と現在が交錯するストーリーは、緻密にして濃密。ただ身を委ねるばかり。政治保衛部のフーを演じるのはトニー・レオン。幾重にも重なる秘密を胸にしながら淡々と任務を遂行する姿に凄みと哀愁が漂うのは名優トニーならでは。
対する部下イエには中国ドラマ「陳情令」(2019)で大ブレイクしたワン・イーボー。こちらも無表情で引き金を引く残忍さと抑えきれない感情に涙する姿など、深い名演を披露。なにより、身長182センチで着こなすクラシカルなスーツ姿に色気がダダ漏れ。
終盤に登場する、香港アクションで鍛えてきたトニーと繰り広げるガチな肉弾戦に、息もつけない!
公開中/アンプラグド配給
Copyright 2023© Bona Film Group Company Limited All Rights Reserved
北島明弘 オススメ作品
『マイ・スイート・ハニー』
心が和らいでいくように微笑んで見られる大人の王道ラブコメ
評価点:演出5/演技5/脚本5/映像5/音楽4
あらすじ・概要
製薬会社の主任研究員がシングルマザーと出会い、正反対の性格なのに恋心が芽生える。二人の周囲の人物たちがそれぞれの思惑から起こすトラブルで、恋の行方は難航する。
見ていて心が和らぎ、見終わって微笑みが浮かぶ。そんなラブコメの王道を行く作品。チャ・チホ(45)は製菓会社で研究一筋の堅物、恋愛経験なし。イ・イルヨン(41)はシングルマザーで、ローンの取り立て係。別れた夫はとんでもない男らしい。チホが刑務所帰りの兄の借金を払いにローン会社に出向いたことで二人は出会う。
積極派のイルヨンと逡巡派のチホが、いつしか心が通い合うことになる過程を丁寧に描いていた。もっとも、そのままゴールインするわけはなく、誤解がもとで仲がこじれる。これまたラブコメの定石であり、困難があればこそ、成就した恋が燃え上がるというもの。チホと兄の泣かせる過去、親のコネで出世した上司のとんでもない行動、突然現れて消えるイルヨンの前夫、イルヨンの十代の娘と若者の恋といった脇筋も織り込まれている。
大人の恋バナらしく、艶笑ネタもあって爆笑させてくれた。チホに強面役の多いユ・ヘジン、イルヨンにTV中心で約20年ぶり銀幕復帰のキム・ヒソンが扮し、映画を支えている。
公開中/松竹配給
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