すっかり日本に定着した“韓流ドラマ”だが、ここ数年、新たなブームを巻き起こしているのが“タイ流ドラマ” だ。なかでも人気を牽引しているのがプーンパット・イアン=サマン(愛称Up /アップ)。2021年「Lovely Writer The Series」で自分の感情を表に出すのが苦手な小説家のGeneを時にコミカルに、時に繊細に演じて高い評価を受けた。そんな彼が初挑戦したホラー映画が『フンパヨン 呪物に隠れた闇』。島にある寺院で僧侶と住民たちに巻き起こる凄惨な事件を描いている。Upは過去の作品で見せたような爽やかでチャーミングな魅力を封印して、自閉症の青年という難役を見事に演じきった。(取材・文:村上淳子、写真:久保田司)

“怖がりでホラー映画はあまり見ないのですが、最初に脚本を受け取って読んだときはワクワクしました”

──本作はたんなるホラーではなくタイ独自の文化や、タイに実在するフンパヨン(※1)について理解が深まる作品でもありますが、最初に脚本を読んだ印象はどうでしたか。

※フンパヨンは、釈迦の時代から存在する一種のお守り。神聖であると同時に恐ろしいものでもあり、この人形には死霊術師の強力な呪文がかけられている。フンパヨン人形にはさまざまな流派があり、身を守るものもあれば破滅を招くものもある。

画像1: “怖がりでホラー映画はあまり見ないのですが、最初に脚本を受け取って読んだときはワクワクしました”

「実は怖がりでホラー映画はあまり見ないのですが、最初に脚本を受け取って読んだときはワクワクしました。すごくチャレンジングな役だからぜひ自分で演じたいと。監督から直接連絡をもらってオーディションに行く決断をするのは全く難しいことではなかったです。でもタイではオーディションの時の映像を監督だけでなくプロデューサーや映画の出資者に見せて、この役者が本当にこの役を演じることができるのかを確認した上で選ばれるんです。だから最終的に決まったときはとっても嬉しかったです」

──Upさんが演じる「テ」役は心優しい自閉症で複雑なキャラクターですが、役作りはどのようにされましたか。

「どの作品でも準備には力を入れるのですが、今回、とりわけ撮影に入る前からかなり長く準備しました。まず、タイの自閉症の子供の財団に行って子供たちとたくさん話をしました。聞いたことは全てノートに書き込み、子供たちがどんな様子なのか、何を考えているのか、身体的表現はどんな風にするのか、たくさんの情報を得ました。

画像2: “怖がりでホラー映画はあまり見ないのですが、最初に脚本を受け取って読んだときはワクワクしました”

それぞれ素晴らしい能力を持っているのですが、1人として同じ人はいない。一般の人たちとは違う特徴を持っているにしても違うんです。なかには絵を描くのがとても上手な子供もいました。そういう子供たちと話ができたことが貴重な体験で、財団の理事長とも話をしてこういう子供たちの考え方のプロセスというものがある程度わかりました。調べる作業はとても有意義な時間でした。そうして持ち返った情報からアクティングコーチと監督と何度も相談して少しずつ『テ』のキャラクターを作っていきました。自閉症の人はそれぞれ違うっていうことがわかったので、彼もそういうキャラクターにしたかったのです」

──「テ」は自閉症で強いこだわりを持つキーパーソンでもありますが、彼とUpさんが重なる部分はありますか?

「彼と僕は違うところのほうが多い。ひとつ例をあげると僕は手を汚すことがすごく嫌なんです。でも演じている時はそんなことは全く気にしなかったんです。でも家に帰ってシャワーを浴びたとき爪を見て“最悪!”と思いました(笑)。監督からは後半の彼の行動を意識しないで演じてほしいと言われたので、そのときどきの『テ』の自然な感情の流れに沿って演じました」

“ロケ先では怖くて眠れなくて、トイレにもひとりでいけなかったんです”

──撮影でいちばん苦労されたことは?

「ほぼすべての撮影が大変でした。なぜかというとタイ東北部ブリーラム県にあるワット・クロックケオがメインのロケーションでしたが、移動が大変な場所だったからです。車に乗って数時間でたどり着いて、さらに船に乗り換えて行く場所もありました。また、森はあまり好きではないんですが森の中の撮影では虫がたくさんいて刺されたりもしました」

画像1: “ロケ先では怖くて眠れなくて、トイレにもひとりでいけなかったんです”

──森のなかの寺院はセットではないのですか?

「監督(ポンタリット・チョーティグリッサダーソーポン)は、お寺に寄進したり参拝したりするのがすごく好きで、偶然このロケ地に出会って、怖くていい雰囲気だからぜひ映画を撮りたいと思ったそうです」

──実際にあの場所での撮影だと怖いのが苦手なUpさんは辛かったのでは?

「ロケ先では怖くて眠れなくて、トイレにもひとりでいけなかったんです。マネージャーも怖がっていて、怖さ2倍でした(笑)。撮影中は森のほうを見ないように、コンタクトレンズも外して演じました。変なものが見えたら嫌だったので(苦笑)。ロケ地には本物のフンパヨンが置いてあったのでとても怖かった。その代わり、役に入り込めました。でもどんなに疲れたとしても、どんなに大変だったとしても、役者もスタッフも精一杯頑張っていたので撮影現場がとても楽しかったです」ロケ先では怖くて眠れなくて、トイレにもひとりでいけなかったんです。

画像2: “ロケ先では怖くて眠れなくて、トイレにもひとりでいけなかったんです”

──タイの映画には呪いをテーマにしたものも目立ちますが、信じている人が多いのでしょうか。

「この作品に出るまで僕自身はフンパヨンのことを知りませんでしたし、知らない人も多いかもしれません。ほとんどのタイ人は悪事を働いたらそれが自分に戻ってくると思っています。ほとんどの人は呪物も含めて信じていると思います。ただ、うちの家族は仏教でお坊さんのほうを信じています。呪物は黒魔術のイメージがあって密かに恐れています」

──「得を積む」と言うセリフもよく出てきますね。

「個人的にはタンブン(※2)や寄進をするのは、自分の気が楽になるからです。例えば僕は教育に関するタンブンをすることがあって、地方の学校を支援しています。地方で教育の機会がない子供たちに教育のチャンスを与えるとか。でも僕のお母さんの場合はとっても優しいんですけど、身近な人を助けることでタンブンをしているんですね。徳を積むという考え方は人それぞれだと考えています」

※タンブンとは善行を行う、徳を積むこと。タイの国民の多くは仏教徒。徳をたくさん積むことで、自分も自分の家族も幸せになれると考えられている。

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