『密輸 1970』は1970年代の韓国の沖合で密輸犯罪が盛んに行われていたという史実に着想を得た海洋クライム・アクション。ダブル主演を務めるのはキム・ヘス、とヨム・ジョンア。2人のファンであることを公言し、脚本も担当したリュ・スンワン監督にキャスティングや演出、撮影時のエピソードについて話を聞いた。(取材・文/ほりきみき)

俳優たちがお互いを信じて頼れる場を設けることが大切


──本作は海女チーム、密輸王、若きチンピラ、税関当局が四つ巴のスリリングな攻防を展開します。脚本開発ではどのようなことを意識されましたか。

人物のバランスを取るのが最も難しかったですね。アンサンブルの中で個性を生かしつつ、主演と助演の明確なバランスを取ることは容易ではありません。しかも、配役の関係性や細かな感情は私がどんなにしっかり脚本に盛り込んでも、結局、俳優たちがどう演じるかに掛かっています。

ですから脚本を丁寧に練り上げるだけでなく、俳優たちとのコミュニケーション、そして俳優たちがお互いを信じて頼れる場を設けることが大切です。 そうすれば役者たちが自らその場で役として生き始めますから、監督はその中で良いと思ったことを選択さえすればいいんです。


──ダブル主演を務めるキム・ヘスさん、ヨム・ジョンアさん、密輸王のチョ・インソンさん、若きチンピラのパク・ジョンミンさんをキャスティングした決め手や撮影時の印象的なエピソードをお聞かせください。

キム·ヘスさん、ヨム·ジョンアさんをはじめとするすべての俳優たちは、私が普段から好きな俳優たちであり、脚本進行段階から想像して、当て書きしていました。 幸いなことに、ほとんどの俳優がオファーを受けてくれました。

特にキム·ヘスさん、ヨム·ジョンアさんのふたりは本当に長い間ファンだったので、私の映画に出演してくれたことが本当に光栄で、まさにトキメキを抱いてのスタートでした。準備過程から撮影、ポストプロダクションまでの全てが互いの人生において良き記憶として残る経験をしました。

キャラクターを作り上げる過程については、とにかく優れた俳優たちでしたので、脚本を読み、議論を重ねながら、まるで水が流れるかのようにつつがなく進んでいきました。撮影がないときも俳優のみなさんに集まってもらい、各自の配役に合わせてお互いに対話を重ねる様子を私が書き取って脚本に落とし込み、完成させたシーンもあったほど、息の合った現場でした。

画像1: 俳優たちがお互いを信じて頼れる場を設けることが大切


──クォン軍曹とドリの一味の死闘が素晴らしかったです。どのように演出をされたのでしょうか。

観客がアクションを楽しめるように人物の動きが明確に見え、同時にその時どんな感情なのかがよく伝わるようにするというのが私のアクション演出の持論です。この作品も基本同じで、その前提のもと、映画的個性とキャラクターを引き立たせる方法を見つけ、この結果を生み出しました。

画像1: “俳優たちがお互いを信じて頼れる場を設けることが大切”ー『密輸 1970』リュ・スンワン監督インタビュー
画像2: “俳優たちがお互いを信じて頼れる場を設けることが大切”ー『密輸 1970』リュ・スンワン監督インタビュー

──作品内に使われていた大衆歌謡がとてもレトロな感じで、聞いているうちに気持ちが1970年代に引き寄せられました。実際に韓国で当時、流行っていた曲を使っているのでしょうか。

今回使った曲は、私が子どもの頃に流行し、今でも覚えている歌謡曲です。 脚本の段階で、すでに選曲をしていました。その選曲の雰囲気でオリジナルスコアを作らなければならなかったので、音楽監督は当時の音楽の雰囲気をよく知っているミュージシャンのチャン·ギハさんにお願いしました。

──水中アクションシーンがとてもリアルで驚きました。海の中の風景をそのまま再現できる水深6メートルの巨大な水槽のセットを作り、海女さん役のキム・ヘスさん、ヨム・ジョンアさんも、専門家の指導のもとで3ヵ月間の水中訓練をした上で、撮影に臨んだそうですね。ご苦労も多かったのではないでしょうか。

今後、もし、海へ出て水中撮影を行う計画がある映画仲間がいたら、「できれば水で撮影しないでください・・・」と伝えたいです。


──水中は本来、音が聞こえませんが、効果音と劇伴が見事に調和し、緊張感が高まりました。ここでの音の使い方について、どんなことを意識して作られたのでしょうか。

水中シーンのサウンドのコンセプトとデザインは、全面的に私の長年のパートナーであるサウンドデザイナーのキム·チャンソプの功績です。断言しますが、彼は最高のアーティストであり、いつも私の映画を豊かに完成させてくれます。本作も彼の努力の結果です。

画像2: 俳優たちがお互いを信じて頼れる場を設けることが大切

<PROFILE>  
監督:リュ・スンワン  
1973年12月15日生まれ。96年、初の短編映画『変質ヘッド(原題)』を制作。パク・チャヌク監督『三人組(原題)』(97)の演出部で働くなど長い下積み後に、インディーズで制作した『ダイ・バッド~死ぬかもしくは悪(ワル)になるか~』(00)で青龍映画賞新人監督賞を受賞。16mm作品でありながら、韓国アクション映画ファンに衝撃を与え観客が殺到、35mmにブローアップして拡大公開するというセンセーショナルなデビューとなった。以来、ジャンルの枠に閉じ込められない新鮮な発想と、社会に投げかける鋭い視線で、名実ともに韓国ジャンル映画を代表する監督として活躍している。   
主な作品に、『血も涙もなく』(02)、『ARAHAN アラハン』(04)、ベルリン国際映画祭に正式出品された『生き残るための3つの取引』(10)、『ベルリンファイル』(13)、『ベテラン』(15)、『モガディシュ 脱出までの14日間』(21)など。 本作では、大鐘映画祭監督賞のほか、青龍映画賞最優秀作品賞を受賞した。

画像3: 俳優たちがお互いを信じて頼れる場を設けることが大切

『密輸 1970』7月12日(金)新宿ピカデリー 他 全国ロードショー!

画像: 『密輸 1970』予告編(7.12公開) youtu.be

『密輸 1970』予告編(7.12公開)

youtu.be

<STORY>  
1970年代半ば、韓国の漁村クンチョン。海が化学工場の廃棄物で汚され、地元の海女さんチームが失職の危機に直面する。  
リーダーのジンスクは仲間の生活を守るため、海底から密輸品を引き上げる仕事を請け負うことに。  
ところが作業中に税関の摘発に遭い、ジンスクは刑務所送りとなり、彼女の親友チュンジャだけが現場から逃亡した。  
その2年後、ソウルからクンチョンに舞い戻ってきたチュンジャは、出所したジンスクに新たな密輸のもうけ話を持ちかけるが、ジンスクはチュンジャへの不信感を拭えない。  
密輸王クォン、チンピラのドリ、税関のジャンチュンの思惑が絡むなか、苦境に陥った海女さんチームは人生の再起を懸けた大勝負に身を投じていくのだった……。

<STAFF&CAST>  
監督:リュ・スンワン   
出演:キム・ヘス 、チョ・インソン、パク・ジョンミン、キム・ジョンス、コ・ミンシ   
脚本:リュ・スンワン、キム・ジョンヨン、チェ・チャウォン   
原題:밀수/英題:SMUGGLERS/2023年/韓国/韓国語/129分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/字幕翻訳:根本理恵  
配給:KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス  
© 2023 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & FILMMAKERS R&K. All Rights Reserved.

This article is a sponsored article by
''.