行方不明になったインフルエンサーの同級生をポッドキャストで配信しながら探し出し、一躍有名になったスージーが「いいね!」やフォロワー獲得に魅入られて、狂気に囚われていく。『#スージー・サーチ』は主演に『ザ・フラッシュ』のカーシー・クレモンズ、共演に『ヘレディタリー/継承』のアレックス・ウルフを迎え、現代的なテーマをポップな色彩で映し出す。本作が長編デビュー作となる新鋭ソフィー・カーグマン監督に本作について語ってもらった。

SNSは責任を持って活用することが重要


──監督デビューとなった短編「 Susie Searches(原題)」が本作の前身とのことですが、その短編作品を企画する段階で着想のきっかけとなるようなSNS体験がご自身に何かあったのでしょうか。

自分の個人的な体験があって、そこからストーリーが生まれたというわけではありません。実は、短編の「 Susie Searches(原題)」は、長編の構想を実現させるためのプルーフ・オブ・コンセプト、いわゆる試作のような感じで撮った作品でした。ハリウッドの映画業界、特に出資者はリスクを避ける傾向があり、出資を断る理由を常に探しています。まずは短編で自分の監督としての能力とこの作品のユニークなトーンの両方を同時にアピールして、マイナス要因をできる限り減らそうと思ったのです。

──本作では犯罪捜査に関するポッドキャストの負の側面が描かれています。現在こうした犯罪捜査のポッドキャストが増えていますが、監督自身はどのようにお考えですか。

人間は白黒はっきりしている存在ではありません。トゥルークライムものは人間の複雑で多面的な部分が見える格好の題材なのではないかと思っています。私は昔からトゥルークライムものが好きで、この作品は特定のポッドキャストにインスパイアされたわけではありませんが、「S-Town」、「Serial」、「DirtyJohn」、「Dr. Death」など、はよく聞いていました。みなさんがご覧になっているのかわからないのですが、殺人疑惑をかけられた大富豪ロバート・ダーストを取り上げたTVシリーズ「ザ・ジンクス」はすごく面白いです。バックストーリーも含めてリアルに人間像を描いているし、先程お話したように人間が複雑な存在だということを最後まで上手く描いているので、人間がなぜ、そういう行動をするのかをワクワクしながら考えてしまいます。企画は頓挫してしまったのですが、2018年に実際にTVシリーズの脚本を書いて、テレビ局に売り込みに行ったこともありました。

昔からこのジャンルが好きだったこともあり、玉ねぎの皮を向くように一枚一枚、人の行動を探っていくと「ああ、こういうことなのか」と共感できるのです。人間って複雑だし、欠点がたくさんあるし、難しい存在なんだなとわかるのが映画ですよね。監督をしてから、つくづくそう思うようになりました。

私は監督・脚本家として、トゥルークライムというジャンルを介して、人間の様々な側面や複雑性というものを描きたいと思っています。

──SNSは自己顕示欲を満たすドラッグのように厄介な物だと本作で再認識しましたが、監督がお考えになる、SNSの一番厄介なところはどこでしょうか。

SNSには3つの落とし穴があると思っています。まず、誤報や誤情報。次にプライバシーの危険。最後は完璧なペルソナを被り続けなければならないというプレッシャー。それは最も危険なことだと思っています。

SNSには人を集め、コミュニティを育む力がありますが、利用者がきちんと責任を持って活用することが重要です。SNSは多感な若者の心を傷つけることがあり、メリットよりもデメリットの方がはるかに大きいので、年齢制限を設けるべきだと考えています。

──スージーの歯のワイヤーは目を引きます。歯科矯正をしていることで、きちんと自分をコントロールする人物であると思える一方で、派手なワイヤーからはどこか幼さも感じるように思いました。どのような意図であのワイヤーにしたのでしょうか。

“歯の矯正をしていても、ちゃんと自分に自信も誇りも持っている人物だ”ということを描きたくて、歯科矯正をしている設定にしました。歯の矯正をしているキャラクターが登場すると、観客は自信なさげなアウェイなキャラクターだと判断してしまいがちですが、それに対するアンチテーゼの意図があります。矯正装置をカラフルにしたのは作品の色調に合わせました。

実は、撮影の段階では、スージーが大学の教授から「歯科矯正をしていると社交的に損してしまうのに、何故しているのか」と聞かれる場面がありました。そこでスージーは「本当は小さい頃に矯正をしたかったけれど、お金がなかった。自分で稼げるようになっても、病気の母の治療費にお金を回さなくてはならず、13年かけてこつこつ貯めたお金でやっと矯正することができた。だからこの矯正を誇りに思っている」と答えるのですが、編集段階で泣く泣くカットしました。

──推理小説ですぐに犯人を言い当ててしまうスージーに対して、母親が「その才能で有名になれる」と言いました。母親がスージーを信頼し、愛しているからこその言葉ですが、スージーがその言葉に縛られてしまった故に、ポッドキャストで暴走したように思えます。親が良かれと思って掛けた言葉が負担になる点について、監督はどう考えられますか。

とても面白い質問ですね。おっしゃる様に、母親はスージーのことをすごく誇りに思っていたから、「有名になるに違いない」とスージーに伝えました。

私も幼少期に両親から「すごいね!才能があるね!」と言葉を掛けられ、それを証明したいと思って育ちました。ですからスージーと自分はある意味、とても似ています。親から掛けられる言葉はモチベーションの種になり得るし、ストレスにもなり得る。諸刃の剣なのです。親が良かれと思って掛けた言葉も子どもの性質によって受け取り方が違うので、子どもの性格をよく見極めて、声の掛け方を変える必要があります。

スージーは母の思いが正しいと証明したかっただけなのに、あのような展開へと繋がっていってしまいました。母の期待に応えたいという思いから、ポッドキャストで成功してスポンサーがつき、母の治療費を手に入れたいと考えるようになる。そして、スージーの二面性が出てきたことからダークな顛末へと繋がっていってしまう。必死にパフォーマーンスをするスージーというキャラクターを描きました。

──主人公のスージーをカーシー・クレモンズさんが演じています。彼女にはスージーがどのようなキャラクターであると説明しましたか。

スージーの背負っている背景、母親との関係性、周りの人に良い自分を見せたいという心…そういった複雑でありながらも、共感を禁じ得ないキャラクターであることを伝えました。もともとはパンデミック前に撮影しようと計画していたのですが、コロナの影響で撮影が3度延期してしまったのですが、その期間に2人で外を散歩しながらじっくり話し合いを重ね、それから撮影に入ることができました。

スージーは元々、母子家庭で父親は幼い頃からから不在。家計を支えるためにバイトをしながら通学しているという設定です。自分にとって大切な存在である母親が、自分にかける期待や思いが間違っていないことを証明したいというピュアな思いからポッドキャストを始めますが、誰も聞いてくれないという散々な状況の中、スージーは被害者のいないイノセントな犯罪に手を染めてしまう。それは、自分の有能さを示したいというピュアな気持ちからきているということを話し合って共有しました。

観客の方にはキャラクターに対してジャッジをするのではなく、寄り添って理解して観てほしい。スージーの人間性は共感できる部分があると思います。この複雑で多面性を内包したキャラクターをご自分のこととして受け止めて頂けるとうれしいです。

──スージーをカーシー・クレモンズさんに演じてもらうことで、ご自身は監督に専念できました。それによって見えてきたことはありましたか。

実は短編「 Susie Searches(原題)」を撮影している段階で、長編を撮るときは監督に徹しようと決めていました。スージーは潔白ではないのにちゃんと共感できる、非常に興味深いキャラクターでした。そこに面白さを感じると同時に、人が隠したいと思う裏側の部分を監督として深めたいという欲求も生まれたのです。また、役者としてキャリアをスタートさせたので、役者の気持ちやコミュニケーションの取り方はわかっていますし、それ以外のストーリーボード、ビジュアル、色調といったことにも手応えを感じ、監督は天職かもしれないと気づいたのです。

短編「 Susie Searches」の後に、ジャスティス・スミス、 アーミー・ハマーが出演している短編「Query」を撮ったのですが、ストーリーボードを考え、カメラアングルやフレーミング、色調、衣装、音楽など各部門のチームリーダーたちと話し合うなど、監督業にはいくつもの要素があり、まさにパペットマスター。自分で全てをコントロールできますよね。そこに監督業の面白さを強く感じました。この物語は皮肉めいたコメディタッチの作品でありながら、ダークなスリラーです。長編ではそういった異なるトーンを上手く掛け合わせて描くことに挑戦しました。

──本作でキーパーソンとなるインフルエンサーのジェシー・ウィルコックスを演じたのは、次世代の注目俳優アレックス・ウルフさんです。監督からご覧になって、彼の演技はいかがでしたか。

アレックスはあの世代の中では最も優れた俳優の一人だと思います。私は彼がコメディックな役を演じるのを見たことがなかったので、非常にナイーブで軽いインスタセレブのジェシーをどう演じるだろうと楽しみにしていましたが、演技のタイミングなどのセンスが素晴らしかったです。しかも、ジェシーの心の中の裏の裏まで理解しながら掬い取って、私の期待を遥かに超える芝居を魅せてくれました。見事でしたね。

彼は徹底的に準備するメソッド演技法の役者で、役が決まるとジェシーになりきって、インスタのアカウントを作ってくれました。一般的にメソッド演技法の役者を演出するのは難しいのですが、彼はやり取りがしやすく、監督としては楽しく演出できる役者でした。演出していても刺激がありました。

カーシーだけでなく、アレックス・ウルフとも事前に綿密な打ち合わせをしてあったので、タイトなスケジュールでもテイクを重ねずにできました。

──本作を通じて、監督が伝えたかったことを教えてください。

本作では、SNSというカルチャーに対する警鐘を鳴らしているつもりです。

ジェシーというキャラクターは傍から見ると完璧な男ですが、彼の内面が少しずつわかってくると、彼もみんなと同じように悩みを抱えていて、自分に自信がないことがわかります。それはジェシーだけではありません。インスタセレブになると完璧な人間でいることが求められていると思い込みがちで、様々なプレッシャーから心を病んだり、自己肯定感に悪影響を与えたりすることが多い。これは社会的にも大きな問題です。SNSは我々を繋げてくれる素晴らしいツールですが、SNSで見たことを真に受けているのは危険だと伝えたいのです。

──今後はどのような作品を撮りたいと考えていらっしゃいますか。

内容はまだお伝えできないのですが、5つのプロジェクトがそれぞれ進行中です。どのプロジェクトが最初にはじまるかわからないので、それらを並行して進めています。うち2つについては近々お知らせできそうです。ご期待ください!

画像: SNSは責任を持って活用することが重要

<PROFILE> 
監督・原案:ソフィー・カーグマン 
ロサンゼルスを拠点に活動する監督、脚本家、俳優。 
俳優としてTVシリーズ「メンタリスト」(12)、俳優デヴ・パテルの監督作の短編「 Home Shopper(原題)」(18)などに出演。一方、映画監督としては『#スージー・サーチ』の前身となる短編「 Susie Searches(原題) 」(20)でデビュー。同作では、監督のほか脚本も手がけ、自ら主人公のスージー・ウォリスを演じた。続く短編「Query」(20)にはジャスティス・スミス、 アーミー・ハマーが出演し、トライベッカ映画祭でワールドプレミア上映され話題となった。長編デビュー作となる『#スージー・サーチ』(22)は、ワールドプレミアとなる第47回トロント国際映画祭 ディスカバリー部門正式出品を皮切りに、パームスプリングス国際映画祭、サンタバーバラ国際映画祭などで上映され注目を集めた。

『#スージー・サーチ』
8月9日(金) 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋HUMAXシネマズほか全国順次公開

画像: 映画『#スージー・サーチ』 90秒予告 youtu.be

映画『#スージー・サーチ』 90秒予告

youtu.be

<STORY> 
ポッドキャストで未解決事件の配信を続けるものの、なかなかフォロワーの増えない孤独な大学生のスージー(カーシー・クレモンズ)。 
ある日、保安官事務所でのインターン中に、インフルエンサーとして絶大な人気を誇る同級生のジェシー(アレックス・ウルフ)が、行方不明になっていることを知る。 
ジェシーがいなくなって1週間。独自の調査を始めたスージーは、なんとポッドキャストの配信中に失踪したジェシーを発見!番組は大きな反響を呼び、一躍脚光を浴びる存在になる。 
誰もが羨む名声を手に入れたスージーは、捕まっていない犯人を追って配信を続けるが、事態は思わぬ方向に転がっていき——。

<STAFF&CAST> 
監督:ソフィー・カーグマン  
出演:カーシー・クレモンズ、アレックス・ウルフ、ジム・ガフィガン 
脚本:ウィリアム・デイ・フランク  
撮影:コナー・マーフィ  
音楽:ジョン・ナチェズ  
2022年/アメリカ・イギリス/ カラー/ビスタ/5.1ch/105分/G/英語/原題:Susie Searches
配給:SUNDAE  
© 2022 Susie Production Inc All Rights Reserved.

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