作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。この猛暑で盛んに近所で啼いていたウグイスが一斉にいなくなった。寂しいかぎり。

斉藤博昭
映画ライター。アイスランドのバルタザール・コルマウクル監督の『Touch(原題)』でKoki,の俳優覚醒を目撃。

まつかわゆま
シネマアナリスト。『フォールガイ』の役名は映画人へのオマージュ満載。女プロデューサーがゲイル、とか笑える!

土屋好生 オススメ作品
『幸せのイタリアーノ』

大きな幹から枝葉を刈り込んでいくよう人間性の真の輝きに的を絞っていく

画像1: 土屋好生 オススメ作品 『幸せのイタリアーノ』

評価点:演出4/演技4/脚本3/映像3/音楽3

あらすじ・概要
 49歳、独身でハンサムのジャンニは有名な靴ブランドのトップなのだが、彼はある日ヴァイオリニストで車椅子テニスもこなす女性キアラに出会い、思わず心が惹かれてしまう…。

 いつか見たアメリカ映画風で脆弱な感じは否めないが、どうしてどうして一皮むけばそこは典型的な恋愛映画の世界。結構真面目な男と女の世界が現出する。

 主人公は女性好きのやり手経営者。やりたいようにやり生きたいように生きるといえばかっこいいが、世の中そんなに甘くはない。彼が恋したのは車椅子に乗ったヴァイオリニストだった。ここで注目すべきは障がい者と健常者の関係。というよりズバリ健常者が障がい者をどこまで深く理解し得るのかという根源的な問いかけである。監督は洗練されたコメディーセンスで映画全体を覆っていく。

イタリア映画界の重鎮リッカルド・ミラーニ監督は大きな幹から枝葉を刈り込んでいくように手を加え、本当に大切なもの=監督のいう人間性の真の輝きに的を絞っていく。あたかも細部まで手をかけた枝ぶりのいい盆栽(ちと古いか)のように。

画像2: 土屋好生 オススメ作品 『幸せのイタリアーノ』

 1人舞台の観ありのベテランのピエルフランチェスコ・ファビアーノに、車椅子のヴァイオリニストを演じたミリアム・レオーネら俳優陣が素晴らしい仕事ぶり!

公開中、オンリー・ハーツ配給

©2020 WILDSIDE-VISION DISTRIBUTION

斉藤博昭 オススメ作品
『デッドプール&ウルヴァリン』

「自分が救った人から、逆に救われる」という最後のメッセージが胸アツだったりも

画像1: 斉藤博昭 オススメ作品 『デッドプール&ウルヴァリン』

評価点:演出4/演技4/脚本5/映像4/音楽4

あらすじ・概要
大切な仲間との生活を守りたいウェイド=デッドプールは、TVA(時間変異取締局)からの任務で、別のバースを訪ねウルヴァリンを発見。2人はチャールズ・エグゼビアの双子の妹で強大なパワーを持つカサンドラと戦う。

 上映時間2時間8分とは思えない“物量作戦”。ストーリー自体はもちろんのこと、デッドプールのセリフ量(必然的に笑えるネタ激増)、カメオ出演の数々……と、そのサービス精神に頭が下がる。もはや全部をちゃんと受け止めきれなくても、半分くらい理解すれば満足という異例の感覚。そうなると必然的にリピート鑑賞したくなる、というもの。

 予想してた以上に濃かったのはタイトルロール2人、および演じるライアン&ヒューの親密関係。これは絆を通り越して、真剣な愛というレベルか!?『グリース』の「愛のデュエット」を流しながらの対決シーンは、2人の激しい動きが歓喜と化し、劇中でも最高の幸福感。

画像2: 斉藤博昭 オススメ作品 『デッドプール&ウルヴァリン』

 ディズニーのフォックス買収で、MCUとのリンクが目立つようになったが、あえてフォックス時代の「忘れられたヒーローたち」を押し出すところは、へそ曲がりのデップーらしくて微笑ましく、今回はそこをエンドロールの感動で締めて意外な後味。「自分が救った人から、逆に救われる」という最後のメッセージを、本作のいろいろな箇所に当てはめると胸アツだったりする。

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公開中、ウォルト・ディズニー・ジャパン配給

©2024 20th Century Studios / © and ™ 2024 MARVEL.

まつかわゆま オススメ作品
『ぼくの家族と祖国の戦争』

目の前にいるのは敵か人間か。戦争は個人に究極の選択を否応なく迫る

画像1: まつかわゆま オススメ作品 『ぼくの家族と祖国の戦争』

評価点:演出4/演技4/脚本4/撮影3/音楽3

あらすじ・概要
 敗走ドイツの市民は占領下デンマークに避難。彼らを押し付けられた大学長は、飢えと病に倒れる人々を見捨てるか、裏切り者と呼ばれても助けるか、選択を迫られる。12歳の息子を通して語られる物語。

 1940年、中立国なのにナチスに侵攻されたノルウェイとデンマークは明暗を分けた。ノルウェイは63日間抗戦後占領、デンマークは侵攻当日降伏し占領された。その違いは両国の犠牲者数に明らかである。占領された国ではレジスタンスが起こる。が、レジスタンス参加者は一割程度で抵抗をしない人が圧倒的多数だったとフランスでは言われている。自分も家族も抵抗しなければ生き残れるからだ。不都合な事実なので触れたくないし隠したい。おそらくデンマークもそんなものだろう。

 本作に描かれたドイツ難民と地元の人々の葛藤という事実はデンマークでもあまり知られていないという。一般の人は見ないことにできても、徴用された施設の責任者はそうはいかない。自分も彼らも兵士ではない。目の前で死んでいく人々は敵なのか人間なのか。人道を選べば家族まで裏切り者とされる…。

画像2: まつかわゆま オススメ作品 『ぼくの家族と祖国の戦争』

 21世紀に入って欧州に世界の”戦争難民”が押しかけ、彼らを排斥しようという人々も増え問題が起こっている。デンマークは北欧の中でも一番難民に厳しい国だそうで、監督はそんな今を反映させ、問いかけたのである。

公開中、スターキャット配給

© 2023 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

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