カバー画像:Photo by Michael Ochs Archive/Getty Images
『クソ素晴らしい!』
フェデ・アルバレス監督によるシリーズ最新作『エイリアン:ロムルス』を観た製作のリドリー・スコットが最初に口にした言葉がこれ、「Fucking Great」だったという。
何を意味しているかと言えば“とても怖い映画になっている”ということ。それこそ、スコットが求めていた「エイリアン」だからだ。
38歳のとき、『デュエリスト 決闘者』で長編デビューしたスコットは20世紀FOXに声をかけられ79年、自身にとっては2作目となる『エイリアン』を監督。まさに“SFホラーの金字塔”という形容がふさわしい絶対の恐怖を演出し、世界中を震え上がらせた。
以来、(“プレデター”との共演を加えると)8本を数える大人気シリーズとなったが、スコットが復帰したのは1作目から33年後の『プロメテウス』のとき。なぜ帰って来たかといえば「『エイリアンVS.プレデター』なんて! このままでは『エイリアン』は搾り取られ、抜け殻になってしまうと思った」からであり、「いつの間にかまるで怖くない『エイリアン』になってしまった」から。このスコットの発言があるからこそ、『ロムルス』はちゃんと怖い、深宇宙を舞台にしたSFホラーになっているといえそうなのだ。
とはいえ、スコットがメガホンを取った最近の2本、『プロメテウス』と『エイリアン:コヴェナント』の恐怖はシリーズのなかでは異色のものだ。スコットはさまざまなアイデアを温存していたようで、「あまりに世に出過ぎたエイリアンそのもののことは忘れて、新しい世界への扉を開けたい。大きな可能性を秘めたすごいアイデアがあるから」とコメント。この2本とも1作目以前の世界を舞台にし(プレデターとの共演作を除いて)人類とエイリアンの初遭遇をユニークすぎる視点で映画化している。とりわけ驚かされたのが『コヴェナント』。完全生物であるエイリアンを「美しい」というアンドロイド、デヴィッド(マイケル・ファスベンダー)が、巧みにおびきよせた人間を彼らのエサにするという驚くべき物語。しかもデヴィッドに「価値のない種(人類)に再生はさせない」という過激すぎるセリフまで言わせている。
というのも、仲のよかった実弟トニー・スコットが亡くなってからのスコット作品の多くは厭世観が充満し、そのテーマも「人間なんてロクなもんじゃない」。それがもっとも顕著なかたちで表現されたのが『コヴェナント』だったと思うのだ。本作で怖いのは、人間を襲うエイリアンではなく、人間の本質的な部分を冷め切った目で見つめているスコットの価値観、人間観のほうなのかもしれない。
また、スコットは同じく製作総指揮として本作のあと、ドラマシリーズ(FXで配信予定)という初のスタイルで「エイリアン:アース」を製作。今から70年後、2095年ごろの地球を舞台にしたドラマで、あるソースによるとウェイランド・ユタニ社とアンドロイドを巡る物語になると言われている。ユタニ社は1作目の宇宙船、ノストロモ号や『プロメテウス』のプロメテウス号等を所有。1作目のアンドロイド、アッシュや、『プロメテウス』のデヴィッドも同社が開発したという設定。シリーズには何度も登場している日系のコングロマリットだが、その実態や歴史がこのシリーズで明らかになるのかもしれない。
もうひとつ、スコットが製作総指揮を担当するのが、SF映画の常識を変えてしまった「ブレードランナー」のシリーズ初のドラマ化&配信(prime Video)。タイトルは「ブレードランナー2099」となり、何だか年代が「エイリアン:アース」と近いのが気になる。「ブレラン」もレプリカントことアンドロイドがキーになっているので、まさかスコットの2本のSFシリーズが未来の地球で合体!?
ちなみに最近、スコットの2作目では声をかけて貰えなかったというコメントをよく見るが、筆者が『コヴェナント』でインタビューしたときはそれについてこう語っていた。
「続編は(スタジオから)何も言われなかった。私よりもジム(・キャメロン)の方がもっと安く雇えると考えたのかもしれない。後日、ジムと話したとき彼は『「エイリアン」の続編は難しい。私にはあんな恐ろしい映画は作れないから、違う道を探さないといけない。だから、私は軍隊の方に行く』と言っていて、実際そんな続編を作った。とても成功した作品になったと思う」
「エイリアン」シリーズがSFだとはいえ、軍隊系になったり宗教系になったりとアプローチが異なっているのは、スコットの1作目が強烈過ぎたから。SFホラーという同じ土俵では絶対に越えられないから。だからこそ、そのスコットが絶賛する『ロムルス』に期待が膨らむのだ。