キース・リチャーズ、ミック・ジャガーらがニッキー・ホプキンズを語る
本作は伝説のセッション・ピアニスト、ニッキー・ホプキンズの軌跡を、時代とともに振り返る音楽ドキュメンタリー。1960年初頭、ニッキー・ホプキンズは16歳のときにロンドンの名門・王立音楽アカデミーを自主退学し、サヴェージズのピアニストとしてキャリアをスタート。以降、30年にわたりロックンロール黄金期のミュージック・シーンに欠かせない存在に。50歳の若さで逝去するまで携わったアルバムは250以上、しかも今日に至るまで演奏される名曲の数々であることに圧倒される。
キース・リチャーズ、ミック・ジャガーをはじめ、多くのミュージシャンがニッキーの天才的な演奏、才能溢れる音楽センスを絶賛。ロックンロール、ブギウギ、ブルースと様々なスタイルを弾き、彼が手を加えると曲の幅が広がり、平凡な楽曲が特別なものになると証言する。
本作では、ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・ビートルズ、ザ・フーなど60~70年代のロックシーンを牽引した伝説のバンドや、ジョン・レノン、エリック・クラプトン、ジェフ・ベックらがこぞってニッキーを指名してきた理由を改めて検証。ニッキーの才能を高く評価する音楽プロデューサー、ともに活動してきたミュージシャン仲間らが彼の才能豊かな音楽性を語るほか、1963年にクーロン病と診断され、生涯にわたる闘病生活を強いられた実態にも迫る。
さらにニッキー自身のインタビュー、コンサートや録音スタジオでの演奏風景、参加したバンドやミュージシャンとの写真やアーカイブ映像など、ロック史を辿る貴重な資料も多数収録する。
マイケル・トゥーリン監督のオフィシャルインタビュー
──まずプロモーションビデオを撮影したそうですが、これに出演したのはどなたですか?
クリス・キムジーをインタビューし、彼が(1962年から1993年までザ・ローリング・ストーンズのベーシストだった)ビル・ワイマンに繋いでくれました。ビル・ワイマンは(レコードプロデューサーの)グリン・ジョンズと共に来ました。また、ニッキーの伝記を執筆したジュリアン・ドーソンにも連絡を取りました。そして、ちょうどロンドンに滞在していたハリー・シーラー(SPIINAL TAP)が、インタビュー撮影の話を聞きつけ、「インタビューを受けられないか」と言ってきました。我々としては大歓迎でした。そうして固めていったんです。
その後、私の友人のとても優秀な映画編集者に声をかけ、きちんとしたプロフェッショナルなプロモーションビデオが出来上がりました。そこで、資金集めを始めました。それが2020年に入った頃で、コロナ禍に見舞われ、何もかもがしばしの間停止しました。
──プロモーションビデオは、何のために作ったんですか?
目的は二つありました。まずは、スタジオの関心を引くことです。たとえば、AmazonやNetflix、BBC、Sky Artsなどのスタジオに参加してもらいたかったのです。しかし、反応は否定的でした。ニッキー・ホプキンズの知名度が低かったからで、彼らは彼について知りませんでした。
同時に、後に映画に出演してくれた多くのミュージシャンたちにも送りました。「何についての映画?ニッキー・ホプキンズか、素晴らしい。彼の作品は大好きだ」と言われて、プロモーションビデオを送ると、ミュージシャンたちはそれを見て、これはプロが手掛けるものだとすぐに察してくれ、「出演しましょう」と言ってもらえました。
ザ・キンクスのレイ・デイヴィスは、確か2、3年間誰とも会わず、自己隔離をしていました。そのため、私たちは彼に会うことができませんでしたが、その弟であるデイヴ・デイヴィスに接触することができました。そこからは、まるでドミノ、というと伝わるでしょうか?1人目、2人目、3人目とインタビューすれば、4人目に「これらの人がすでにインタビューを受けている」と伝えることができます。そうするとその人は、「それなら間違いないだろう」となり、「いいよ、インタビューを受けよう」と応じてくれるようになります。
──使用しているアーカイブ映像は、どのように見つけたのですか?
我々はイギリスとアメリカで撮影を行いました。フロリダにパートナーがいて、ロサンゼルスに行ってインタビューをしたり、サンフランシスコでのインタビューを行い、ニューヨークに行ってキース・リチャーズのインタビューも行いました。その繋がりで、サンフランシスコでのニッキー・ホプキンズとテリー・アンド・ザ・パイレーツのインタビュー、ジェシー・ブロックとのインタビュー映像が見つかりました。ジェシー・ブロックはインタビューの一部をYouTubeに投稿していました。彼に連絡すると使用の合意が得られ、使えることになりました。ですが、彼がインタビューにBGMを追加していたので、「このままでは使えないです。BGMなしの素材映像をもらえませんか」とお願いしました。すると彼からフル尺のインタビューを送られて来て、ニッキーがクイックシルバー・メッセンジャー・サーヴィスについて話している部分が見つかりました。
ニッキーがジョン・レノンとの交流について話している映像を見ました。ニッキーがさまざまなジャンルの音楽を横断して演奏することについて語り、それぞれの側面を楽しんできたと述べていて、そこには小さな発見や宝石がありました。まるで探偵物語のようでした。一つの手がかりを少し追うと、別の背景が見えてきて、それがさらに興味深いパズルの一部へと繋がっていくのです。
──他に、インタビューしたかったけれどできなかった方はいますか?
(イーグルスのギタリストの)ジョー・ウォルシュにとてもインタビューしたかったです。(ジェファーソン・エアプレインの)グレイス・スリック、クイックシルバー・メッセンジャー・サーヴィスにもインタビューしたかったです。また、チック・コリアにもインタビューしようと考えていましたが、彼は亡くなってしまい、機会は失われました。彼は、ニッキーをリハビリに入れた人物でしたからね。自身もとても優れたピアニストでした。彼のような一流のピアニストが、ニッキー・ホプキンズをどう見ていたのか知りたかったです。
──本作では、インタビューだけでなく、実際にキーボードやピアノを弾いてもらい、一般のプレーヤーの弾き方と、ニッキーがどのように演奏したのかを比較した点が面白いと思いました。
はい、使用した音楽は、ニッキーのピアノがしっかりと聞こえるものも多く選ぶようにしました。ですが、ギターや歌など他の部分も聞こえます。私は、ピアノのパートを分離して、そのパートで何が起こっているのかを深く理解してもらいたいと思いました。オリンピックスタジオのクリス・キムジーが、パディ・ミルナーがニッキー・ホプキンズに最も腕が近いピアニストだ、と言っていました。もし彼に来てもらい、ニッキーが特定のトラックでどのようにアプローチしていたのかデモストレーションをしてもらえたら素晴らしい、と思いました。
そこで彼にニッキーのトラックリストを渡しました。彼は約3時間我々と過ごしたと思います。演奏は本当に素晴らしかったです。多くの人が、私に、よく引き出した、と言ってくれました。そして、非常に効果的に、彼がどれだけの演奏をしていたかを理解する手助けになったと言ってくれました。モーガン・フィッシャーはデモンストレーションを行い、ニッキーならどうするか、ギターの演奏はどうか、他のパートがどうアプローチし彼がどう変えるかを見せてくれました。それが物語を一層興味深くしました。観客にニッキーの素晴らしさや貢献を伝える助けとなりました。
──使いたかったけれど、資金などの問題で使うことのできなかった映像や曲はありますか?
多くの映像がありました。たとえば、ニッキーがオーストラリアでジョー・コッカーと一緒にインタビューを受けている映像があり、とても気に入りました。ですが所有者が誰なのか分かりませんでした。また、北欧のどこかで行われた別のインタビューは、YouTubeにしかなく、著作権をクリアできず、品質も不十分でした。ドイツのロックパラストのコンサート、テリー・アンド・ザ・パイレーツ、グレアム・パーカーとのコンサートは使用できました。オノ・ヨーコからは、アルバム「イマジン」の制作映像の使用許可も得られました。
ニッキーがアート・ガーファンクルとジョニー・カーソン・ショーで演奏している映像、オリンピック・スタジオでのローリング・ストーンズの映像も著作権をクリアしました。
──ニッキーを知らない人に、どのように彼について伝えたいですか?
彼がどれほど素晴らしいミュージシャンだったのか、そして250枚以上のアルバムに貢献したことを知ってほしいです。その中には本当に有名な曲が含まれていて、今日でも頻繁に流れるローリング・ストーンズのいくつかの曲を聴いた時に、そのピアノの音を聴いてしばし手や足を止め、「あれはニッキー・ホプキンズだ」「あれもニッキー・ホプキンズだ」と気づいてほしいのです。彼の知名度を今からでも上げるために、我々はニッキー・ホプキンズがロックの殿堂に入ってほしいと思っています。ロックの殿堂の会長であるジョン・サイクスはこの映画を観て、ニッキー・ホプキンズの仕事を知っていますから、1月の殿堂入り候補者リストに載るよう、試みるそうです。うまくいくように、広報も行っていきたいです。
──ニッキーを知らない人に、その才能を知ってほしいと思う場合、どの曲をおすすめしますか?
誰しもが手を止めて、耳を傾け、心に触れるだろうと思う曲の一つは、ジョー・コッカーの「ユー・アー・ソー・ビューティフル」でしょうか。ジョー・コッカーのあの素晴らしい声と、曲を通して支えるピアノの組み合わせ。とても美しい声とピアノ、声と楽器の組み合わせです。私は、これを一番お勧めしたいと思います。
──劇場上映は日本が最初なんですか?
ええ、世界初公開は映画祭でしたが、私たちにとっては、これが世界初の劇場公開になります。映画館では5.1サラウンドサウンドで音楽が周囲を包み込むように聞こえますよね。見るのには最高の環境です。
──メッセージをお願いします。
レコーディングスタジオで音楽がどのように作られるかについても、少し考えていただける作品になっていれば嬉しいです。そして、この映画を通じて、ニッキー・ホプキンズの音楽を生涯に渡って楽しんでいただけることを願っています。観客の皆さんには本当にニッキー・ホプキンズに熱くなってもらいたいですし、彼が演奏し、貢献した多くの音楽を探求してほしいと思います。
全国で上映後トークイベントを予定
本作はニッキー・ホプキンズの30回忌となる9月6日(金)より池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開される。翌日9月7日(土)には、本作に出演もしているモーガン・フィッシャー(キーボード奏者)と朝日順子(音楽ライター)が、池袋シネマ・ロサにて上映後トークイベントに登壇する他、全国で上映後トークイベントを予定している。詳細は、決まり次第公式SNSにて発表予定。
<現在までに決まっている上映館>
北海道:サツゲキ(10月25日〜)
青森県:青森松竹アムゼ(近日公開)
栃木県:小山シネマロブレ(9月6日〜)
栃木県:宇都宮ヒカリ座(9月20日〜)
東京都:池袋シネマ・ロサ(9月6日〜)
東京都:アップリンク吉祥寺(9月6日〜)
神奈川県:シネマジャック&ベティ(近日公開)
群馬県:シネマテークたかさき(近日公開)
富山県:ほとり座(近日公開)
新潟県:高田世界館 (近日公開)
静岡県:シネマイーラ(10月25日〜)
県:ナゴヤキネマ・ノイ(近日公開)
大阪府:テアトル梅田(9月6日〜)
京都府:アップリンク京都(9月6日〜)
兵庫県:シネ・リーブル神戸(9月6日〜)
兵庫県:洲本オリオン(10月4日〜)
岡山県:シネマ・クレール(近日公開)
広島県:横川シネマ(近日公開)
高知県:シネマ四国 (10月25日~)
沖縄県:桜坂劇場(近日公開)
沖縄県:ミュージックタウン音市場(近日公開)
<あらすじ>
ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・フー、ザ・キンクス、ジェフ・ベックをはじめとする60年代~70年代に数多くのアーティストのレコーディングに参加した伝説のセッション・ピアニスト、ニッキー・ホプキンズ。ザ・ビートルズのメンバー全員のソロアルバムにも参加した稀有な存在である彼は、素晴らしいピアノリフと音楽センスで多くのミュージャンを魅了し、250枚を超えるアルバムと膨大な数のシングル・リリースに貢献した。しかし、この若き天才ピアニストの活躍は病との闘いでもあった。1963年、病院に緊急搬送されたニッキーはクローン病と診断される。闘病生活を送りながらも、30年以上にわたるロック人生において数々のミュージャンと共演し愛された“最高のセッション・マン”の物語を、彼を知る仲間たちが語る。
『セッションマン:ニッキー・ホプキンズローリング・ストーンズに愛された男』
9月6日(金)より池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
出演:ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ビル・ワイマン(ザ・ローリング・ストーンズ)、ピーター・フランプトン、ピート・タウンゼント(声/ザ・フー)、デイヴ・デイヴィス(ザ・キンクス)、ニルス・ロフグレン、グリン・ジョンズ、ベンモント・テンチ(トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ)、チャック・リーヴェル、モーガン・フィッシャー、テリー・リード、グレアム・パーカー、P.P.アーノルド、ハリー・シアラー、モイラ・ホプキンズ
(アーカイブ映像)ニッキー・ホプキンズ、ジョン・レノン、オノ・ヨーコ、アート・ガーファンクル
監督・脚本・製作:マイケル・トゥーリン
製作総指揮:フランク・トルチア
共同プロデューサー:マイク・シャーマン、ジョン・ウッド
撮影監督:ルーク・パーマー
編集:アシュリー・スコット
ナレーター:ボブ・ハリス
字幕監修:ピーター・バラカン/朝日順子
原題:“The Session Man”
2023年/イギリス/90分/カラー/16:9/HD/5.1ch/英語
配給:NEGA
©THE SESSION MAN LIMITED 2024