これは私の作ったファンタジーではない。現実に起きていることを反映したのです
まずは日本の印象を聞かれた監督。
「私にとって日本は1980年代に『AKIRA』に出会ってから特別な国です。いつかどこかで見たような、既視感のある世界なのに何かが違う。初めて訪れてからずっとそんな特別な感じがする国なんです」
と、その思い入れを明かしてくれた。さて今回の『シビル・ウォー…』だが、その着想の原点を聞いてみると、
「私の空想のように見えるかもしれませんが、これは今、世界で起きていることを反映したものです。自分の若いころと今の世界は随分と変わってしまったと思うのですが、アメリカだけでなく私の母国のイギリスでも、欧州全域でも分断や差別が現実の大きな問題です。そうしたことが直にこの映画の着想に結びついています。こうしたことは現実なのか?というよりも、これをどの時点で止められるか? という意図で脚本を書きました。近未来フィクションのような箇所もありますが、50%は現実と考えています」
と自分のファンタジーではないことを力説。とはいえ映画の中では保守的なテキサス州とリベラルなカリフォルニア州という正反対の州が連合を組むという意外な設定も見られるが、これについては、
「これについても観客への一つの問いかけなんです。この2つの州が手を組むことがそんなに考えられない事態なのか?と。もしそう思うなら、それはなぜ? と問いたい。左と右が闘うことより、デモクラシーがファシズムと闘うことの方が重要なのでは? という“思考的実験”でもあります。それでもおかしいというのなら、自分自身で考え、疑問を持ってほしいです。日本では理性が利くかもしれませんが、世界的に見るとファシズムの方に怖さを感じます」
という理由を述べてくれた。
さて、本作で主人公となるのはジャーナリストたちだが、なぜ一般市民や兵士たちが主人公ではないのか。
「今の時代はジャーナリストが敵視されがちです。腐敗した政治家たちがジャーナリズムを矮小化しているからで、取材中の彼らに唾をかける市民がいたりするのは狂気の沙汰。我々の生活にジャーナリストは必要なので、彼らをヒーローにしたかったのです」
若手カメラマンが古いフィルムのカメラを使い、年長のカメラマンがデジタルを使うという表現にもその辺のこだわりがありそうだ。
「世代の対比を描きたかったということと、1960〜70年代のスタイルを取り入れたかったから。目前で起きていることをそのまま報道する、あの時代のジャーナリストを描きたかった。今は報じる内容より広告収入の方がメディアでは重視されがちです。ジャーナリズムがないがしろにされていることも描きたかった」
他にも戦闘シーンのリアリズムも監督の方針があったのでは?
「撮影には本物の元兵士を使いました。なので彼らが出ているシーンの演出が一番楽なんです(笑)。いつもの通りに動いてくれればいいから。ホワイトハウスのシーンでは3人のネイビーシールズが登場します。まるでドキュメンタリーを撮っているようでした。音響もリアルで、現場では爆音があまりにうるさくて、そのたび俳優たちがびくびくしてしまいました。5マイル先くらいまで爆音が聞こえるので、近隣住民に頻繁に警察が呼び出されてロケ地まで来ていました(笑)」
この経験を機に、本作の軍事コーディネーターと仲良くなって、次回作も戦闘アクションを撮影することになったと明かしてくれたガーランド監督。映画を通して伝えたいことを最後に聞かれると、「トランプには投票するな、ですね」と笑顔で答えてくれた。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
2024年10月4日(金)公開
アメリカ=イギリス/2024/1時間49分/配給:ハピネットファントム・スタジオ
監督:アレックス・ガーランド
出演:キルステン・ダンスト、ケイリー・スピーニー、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン