細かいカメラワークは肌感覚で
──原作を決める前から、キャラクターデザインは「新世紀いんぱくつ。」(2015)でご一緒された西田亜沙子さんにお願いしていたとのことですが、なぜ西田さんだったのでしょうか。
大前提として、自分が西田さんの画が好きということがあります。キャラクターデザインで参考にしているものが自分の作りたいものに近いと感じています。また、ドールと呼ばれる球体関節人形の要素を組み込んでくれているので、「新世紀いんぱくつ。」を制作したときにCGとすごく相性がいいと思いました。西田さんのキャラクターは他作品でもCGになっていることが多いので、CGの見栄えについても意識してくださっているところもあります。
今回はオリジナルでやるつもりでしたから、軸が何かないとどこから手をつけたらいいのかわからないところがありました。そこでまず西田さんにお願いすることを決め、西田さんの画でいくのなら、何をしたらいいかと道筋を決めていきました。
──西田さんがキャラクターデザインをするにあたり、監督からは「普通に。とにかく普通の女の子で」というオーダーをされたとのことですが、普通ということこそ、実は難しいような気がしました。
現実の高校にいそうな女の子というつもりでした。例えば、アニメでは髪の色が真ピンクや真緑といったことがありますが、そういうことを避けたかったのです。決して、何の特徴もないというわけではなく、アニメを普段ご覧にならない方にも入りやすいところを狙いたい。髪型も現実にいなさそうなスタイルは控えました。
顔の表情は「キャラクターにさせたい表情をいっぱい描いてください」とお願いして、西田さんにたくさん描いてもらい、アニメーターたちはそれを見ながらそれぞれのキャラクターのニュアンスを汲み取りつつ描いていきました。
──エンドロールを拝見していたところ、監督と脚本以外に、絵コンテ・演出、CGルック開発、ツール・スクリプト開発、キャラクターモデリング監修、アニメーション監修、音響監督、編集に監督のお名前があり、驚きました。監督の作品はいつもこのような制作スタイルなのでしょうか。
どの作品でもいろいろやっていますが、普段はあまり名前を書かないようにはしています。今回は少人数のスタッフでやったので、「それぞれが担当したセクションには名前を書きましょう」ということで名前を出させていただきました。
──担当された役割は多岐にわたっていますが、ご自身の中で軸になるものはあるのでしょうか。
軸はありません。元々GGディレクター出身で、GGディレクターは現場全体を見るのが仕事なのです。
──このようなマルチタスクをこなす原動力は何でしょうか。
自分よりいいものに仕上げてくださるのなら、その方にやってもらった方がいい。ただ、業界歴が長くなったので、自分がやった方がいいなと思うことが増えました。原動力が何かというよりもスケジュール内でクオリティを担保するため、結果として、今回はいろいろなところで関わりました。
──本作の制作を振り返って、いちばん苦労されたのはどんなことでしょうか。
キャラクターの形を作るモデリングですね。物量がかなりあったのです。それが終わらないと次の工程に進めないので、自分がボトルネックにならないように結構がんばりました。
──本作はカメラワークが多彩で、ボートシーンのカメラワークにはキレがあり、特に最後の県総体シーンはダイナミックでスピード感もありました。ここまでスピードと切れのあるカメラワークは実写では難しいと思います。一気に引き込まれました。
3D空間にボートを浮かせて、カメラで撮って、演出していくのですが、普段、映画を見たりしてインプットした中に、「こういう画をはめてみたい」というストックがいくつもあるので、シーンの演出に合いそうなものをはめていきました。
全体の構成、例えばカメラの上手や下手といった流れの構成は理詰めでやっていますが、細かいカメラワークは肌感覚です。「こういうカメラワークをしたら、こういう印象になるよね」「このカットの後にこのカットを繋げるとこんな感じになるよね」と何となく。経験値ですね。もちろん狙ってはいますけれど、肌感覚で思ったとおりに作ったのです。
──僕が見たかった青空が歌う主題歌「空色の水しぶき」は主人公たちボート部 5 人の心情にリンクするような歌詞で、青春ど真ん中の爽やかさを感じさせる応援歌ですね。
爽やかな作品ですので、見終わった後に爽やかに帰ることができる曲にしたいとお願いしました。できあがってきた曲はイメージ通りにとても爽やかで、タイトルも歌詞に使っていただき、ありがたかったです。
──野球拳の唄が使われていたことも印象に残りました。
映画は文化的な側面を加えた方が馴染みやすいと思っています。舞台が決まったときに、松山市の歴史や文化を調べたところ、野球拳のことを知りました。野球拳は曲自体に人気があり、今でも使われています。あの曲を聴くと、みなさん、おっとなりますので、これは使えると思いました。
──今回は「女の子ががんばっている話」でしたが、次はどのような作品を考えていらっしゃいますか。
「善とは?悪とは?」といったテーマにトライしてみたいなど、いろいろ構想はあります。ビジュアル的なところでもやりたいことは頭の中にはあります。ただ、どれもまだ構想の段階で、企画として動いているものはありません。
<PROFILE>
櫻木優平 監督
多数の映像プロダクションでのCGアニメーション制作を経て、『花とアリス殺人事件』(岩井俊二監督)でCGディレクターを担当し、『新世紀エヴァンゲリオン』のスピンオフ作品『新世紀いんぱくつ。』で監督デビュー。三鷹の森ジブリ美術館短編『毛虫のボロ』(宮﨑駿監督)のCG ディレクターとして、NHK スペシャル 『終わらない人 宮﨑駿』でその奮闘が放映され一躍話題となった。
近年は、映画監督デビュー作『あした世界が終わるとしても』で、アヌシー国際アニメーション映画祭コンペティション部門においてノミネートされるなど、海外からの注目度も非常に高い。
他の主な作品に『INGRESS THE ANIMATION』(監督)、ファイナルファンタジーXIV『CHOOSE YOUR LIFE』(高坂希太郎氏と共同監督)、ゲームアプリ「Pokémon GO」(主人公CGモデル)など。
『がんばっていきまっしょい』10月25日全国公開
<STORY>
学校をあげてボートのクラスマッチを行っている三津東高校。誰もが全力で競技に挑む中、2年生の村上悦子はひとり醒めた表情だ。才能もないのに頑張ったって仕方ない……そう気づいてからの悦子は、勝負をあきらめてばかりいる。
そんなある日、悦子のクラスに高橋梨衣奈という転入生がやってきた。クラスマッチのボートに感動した梨衣奈は、悦子と幼なじみの佐伯姫を巻き込み、廃部状態だったボート部の復活に奔走する。
同学年の兵頭妙子と井本真優美が入部し5人になると、名義貸しのつもりだった悦子も渋々、初の大会に出場することに。 試合当日、理想と現実の差に打ちのめされてしまった悦子たち。全員がゴールをあきらめかけた瞬間、悦子がオールを再び握りしめる。「私、もっと上手くなりたい」という悦子の言葉で、5人の気持ちはひとつになるーー!
<STAFF&CAST>
- キャスト -
村上 悦子役:雨宮 天
佐伯 姫役:伊藤美来
高橋 梨衣奈役:高橋李依
兵頭 妙子役:鬼頭明里
井本 真優美役:長谷川育美
二宮 隼人役:江口拓也
寺尾 梅子役:竹達彩奈
大野 舞役:三森すずこ
安田 夏央莉役:内田彩
- スタッフ -
原作:敷村良子 「がんばっていきまっしょい」(幻冬舎文庫)(松山市主催第4回坊っちゃん文学賞大賞受賞作品)
監督:櫻木優平
脚本:櫻木 優平 大知慶一郎
キャラクターデザイン:西田 亜沙子
音楽:林 イグネル 小百合
主題歌:僕が見たかった青空「空色の水しぶき」(avex trax)
配給:松竹
©がんばっていきまっしょい製作委員会