事実にフィクションや遊び心を加えて、コメディとして表現
──笑いを散りばめつつ、テンポよく物語が展開し、ベルナデットの最後のひとことが気持ちよく決まります。脚本開発はどのようにされましたか。
シナリオの共同執筆者であるクレマンス・ダルジャンとともに、ジャーナリスト的に大規模な調査を行い、ベルナデッドとシラクについての膨大な文書を読みました。そして彼らと一緒に仕事をした人、政治記者の方のお話も伺いました。それによって実際にあったことを知ろうとしたのです。それに加えて、ベルナデットはどんな政治感覚を持っていたのか、夫シラクとの関係、娘との関係がどうであったのかといったことをどんどん調べていきました。
そうして明らかになった事実にフィクションや遊び心を加えて、コメディとして表現しようとしました。具体的な例を挙げるのなら、ベルナデットとサルコジがどこかで隠れて会ったということはよく知られているのですが、それがどこだったのかはわかっていません。私たちはそれを面白くしようと思って、教会の告解室で会ったという設定にしました。もちろん、これは事実ではありません。一方で、ベルナデットがエリゼ宮殿(フランス大統領府)に熊を連れてきたこと、閣議を行なっているところに熊を送ったらいいと話していたのも本当です。「これはフィクションだろう」と思われそうですけれどね(笑)。
──調べて分かったことにフィクションや遊び心を加えたとのことですが、知り得た様々なエピソードの中からどれを取り上げるか、エピソードの選択ポイントをお聞かせください。
私はモデルになった人を丸ごと描くのが好きではありません。全部を語ってしまうことは何も語っていないことと同じだと考えているのです。そこで、ベルナデットのたくさんある軌跡の中から政治的側面がよくわかるエピソードを女性のリベンジという視点で選んで使いました。
彼女の人生の中でポイントとなるのはエリゼ宮殿に入って、出ていくときです。エリゼ宮殿に着いたときは、「さあ、これからファーストレディの役割を果たそう」と張り切っていたのに、シラクの側近から軽んじられてしまい、“マダムシラク”といえば娘のクロードを指していたけれど、エリゼ宮殿から出るときにはむしろシラクよりも人気があった。どうして、そんなことになったのか。彼女の強みや弱み、障害になったことを含めて、そうした点に関わる事実を取り上げるようにしました。
──ベルナデットをカトリーヌ・ドヌーヴが演じています。彼女との仕事はいかがでしたか。
彼女とはとてもうまくコラボレーションできたと思います。彼女はラッシュを見たときに「ここ、すごく面白いね」とか、「ここは綺麗に撮れたね」、「ここ、いいんじゃない?」みたいに私を励まし、勇気づけてくれました。
もちろん役者としても大きな貢献をしてくれて、ベルナデットの役に人間性や優しさをもたらし、私が書いたシナリオを超える感動を観客に伝えてくれたと思います。
──ベルナデットは歩く足元への寄りのシーンから登場します。足元のアップシーンはその後もありましたが、80代とは思えない、引き締まった足首とヒールの履きこなしに驚きました。足元への寄りのシーンには何か意図があったのでしょうか。
「誰だろう?」と思わせながら登場させたくて、最初から顔を出すことはせず、足元から映しました。次第にカメラが上がっていき、誰なのかわかるのです。同じシーンを何度も繰り返すことで、鏡のような効果も狙っていました。
ちなみに足首は本物のカトリーヌ・ドヌーヴです。彼女はそういうところで代役を使う人ではありません。最初に足元のアップが出るときはハイヒールを履いていますが、次は選挙運動中なので、スニーカーを履いています。「ハイヒールでは選挙運動はできない」とカトリーヌ・ドヌーヴから提案があったのです。
ハイヒールの足元への寄りはフランス映画によくあるシーンですが、カトリーヌ・ドヌーヴは他の作品でも同じようなシーンがあったと思います。それらへのオマージュにもなっています。
──監督はテレビの世界でキャリアを積んでいらっしゃいました。そちらで培ったもので、今回、役に立ったことはありましたか。
私はこれまでにたくさんのドキュメンタリー作品を作ってきました。今回はフィクションですが、アプローチの手法はドキュメンタリーと同じで、様々な調査をし、文献を読み、ベルナデットについて調べました。また、撮影チームなどの技術スタッフや編集チームをまとめていくのはテレビも映画も変わりません。
演劇の演出や出演もしたこともあり、そういったことも役立ちました。とにかくこれまでの様々な経験がこの作品に活かされています。
ですから、この作品で監督として演出する上で困ったことはありませんでした。むしろ、わからないことがあれば周りのスタッフが支えてくれ、学んだことも多かったです。
<PROFILE>
監督・共同脚本:レア・ドムナック
ジャーナリストの家系に生まれ、「Le Printemps des Bonzaïs(原題)」(2009)、フランスの実業家ジャン・マルク・ボレロを追った「Jean-Marc Borello:Ni Dieu, ni maître, ni actionnaire(原題)」(2011)、「L'École du genre(原題)」(2015)など、フランスの政治経済や児童教育に関するテーマを扱ったTVドキュメンタリー映画で、共同監督・共同脚本を務める。2021年から2023年にかけて、ドラマ「エージェント物語」のファニー・シドネーらが監督し、25歳で義理の母親になった女性主人公プルーンの人生を描いた人気TVシリーズ「Jeune et golri(原題)」の脚本に参加。2023年に、フランス映画界の至宝カトリーヌ・ドヌーヴを主演に迎えた本作『ベルナデット 最強のファーストレディ』で初長編監督デビューを飾り、2024年のセザール賞、リュミエール賞で新人作品賞にノミネートされた。次回作には、フランスで20万部以上のベストセラーとなったユベールとザンジムによる話題のバンド・デシネ「Peau d'homme(男の皮)」の映画化を予定している。
『ベルナデット 最強のファーストレディ』11月8日(金)より全国公開
<STORY>
ベルナデット・シラクは、夫ジャック・シラクを大統領にするため、常に影で働いてきた。ようやく大統領府のエリゼ宮に到着し、自分の働きに見合う場所を得られると思っていたが、夫やその側近、そして夫の広報アシスタントを務める娘からも「時代遅れ」「メディアに向いていない」と突き放されてしまう。だが、このままでは終われない。参謀の“ミッケー”ことベルナール・ニケと共に、「メディアの最重要人物になる」という、華麗にして唯一無二の“復讐計画”をスタートさせる!
<STAFF&CAST>
監督:レア・ドムナック
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ドゥニ・ポダリデス、ミシェル・ヴュイエルモーズ、サラ・ジロド
配給:ファインフィルムズ
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