陰のある孤高の主人公みたいな役どころも見てみたい
──吉田さんを演じた池端杏慈さんは実写映画初出演とのことですが、そんなことを微塵も感じさせず、矢野くんの言動に対する表情が本当に自然で、吉田さんそのものでした。池端さんとはどのように清子を作っていかれたのでしょうか。
池端さんだけでなく、今回は演技の経験が少ない子が多く、演技経験があるのは八木くんと白宮さんくらい。それで本読みを何回もやらせてもらいました。その時点ではまだぎこちなかったのですが、細かく言っても簡単にうまくなるわけではありません。
今回は『ひるなかの流星』(2017年)や『午前0時、キスしに来てよ』(2019年)といった作品と同じタイプのコメディでしたから、そういった作品や、自分が好きな役者さん、作品を見て、“こういう表情をしたら悲しく見える”といったことを研究するよう伝えました。
──それだけで、吉田さんになり切ったのですね。
事務所のサポートがあったのかもしれませんが、1カ月半後のクランクインのときには格段にうまくなっていましたね。本読みのときに「大事なのはそのときの心情。うまく演じようと思わなくてもいいから、気持ちを大事にしてほしい」と言ったら、ちゃんと気持ちを読み取ってきてくれました。
キャラクターを自分なりに捉えなくてはいけませんが、それを表現するテクニックというものはありません。捉えたものを自分なりに出してくれればいいと話しました。その上で撮影しながら、「話すテンポはこんな感じ」などと伝えると、みなさん、勘がいいので、だんだんキャラクターになってくるんです。今の子はTikTok やInstagramのストーリーズなどで友だちとお互いに撮ったりしているので、撮られることに慣れているのでしょう。
──吉田さんと一緒に学級委員をしている羽柴雄大を中村海人さんが演じています。羽柴は運動神経も頭もいいのですが、まったく嫌みがありません。中村さんとはどのように羽柴を作っていかれたのでしょうか。
中村くんもTravis Japanでバリバリのアイドルをしています。カッコつけるのが当たり前で、それが習性になっています。しかし、「この作品ではカッコはつけないでほしい」と伝えました。
羽柴はライバルっぽく登場しますが、ライバルではありません。いいヤツです。中村くんもいいヤツなので、むしろ、そのいいヤツ感が出たほうがいい。原作者の田村結衣先生の思いもありますが、この作品は嫌な人が1人も出てきません。みんないい人で作りたいということもあったので、「ちょっと天然くらいでいいよ」という話をしました。
──中村さんはSCREEN本誌のインタビューで、本読みのときに監督から「高校生だからもっとテンションが高いと思う」と言われて、声のトーンを変えたとおっしゃっていました。そのときのことを詳しく教えていただけないでしょうか。
若い子はテンションが高く、些細なことにも一喜一憂しますよね。大人になると「あんなことでなぜ悩んでいたんだろう」と思うこともありますが、そういう気持ちを持ってほしかったのです。
また、こういった作品では声のトーンを高くした方がいいんです。そうしないと、ふっとした瞬間に27歳になってしまうんです。そんなときはそっと「高校生だよ」と伝え、「池端さんたちはリアルな高校生なので参考にするといいよ」と話しました。
──八木さん、池端さん、中村さんはこの作品を通して成長されたと思いますが、監督からご覧になっていかがでしょうか。
すごく伸びてくれました。3人とも役者が本業というわけではなく、僕の中では0、もしくはマイナスからのスタートの印象でしたから、ここまでできるんだと振れ幅の大きさに驚きました。このまま成長したらどうなっていくんだろうと今後が楽しみですね。
──今度、一緒に仕事をするなら、こんな役をやらせてみたいということを八木さん、池端さん、中村さんそれぞれ教えてください。
八木くんは優しい役がいいですね。見ていて楽しくなって、くすっと笑ったりする感じ。彼ならカッコいい役はいつでもできますから。
大人の役も大丈夫なので、ハートウォーミングな話もいいかもしれません。それか、いっそサスペンスですね。陰のある孤高の主人公みたいな役どころも見てみたいです。
池端さんは今しかできないことを楽しんでやってほしい。大人になると役柄も変わってきますから。王道ラブストーリーのヒロインもいいタイミングかもしれません。守ってあげたい感じを見てみたいです。
中村くんは「花より男子」みたいなラブコメですね。カッコつけながらも、つけ切れなくてかわいい感じがいいのではないかと思います。
──最後にこれからご覧になる方々にひとことお願いいたします。
かわいいところをたくさん散りばめました。キャラクターたちは友だちとしてのチーム感も含めて、みんなちゃんと思いやりがあって、優しい気持ちを持っています。切ないところもあるので、感情の振れ幅はあるかもしれません。それでも、矢野くんのピュアさ、清子の純粋さや思いやりを大事にするところがメッセージとして伝わり、見た後に温かい気持ちになって、みなさんの顔が緩めばと思います。
<PROFILE>
新城毅彦監督
1962年生まれ、東京都出身。1990年代より、『あすなろ白書』や『イグアナの娘』など、テレビドラマの演出を手がけている。
2006年、『ただ、君を愛してる』で長編映画監督デビューを果たす。その後、『僕の初恋をキミに捧ぐ』や『潔く柔く』など、少女漫画原作の恋愛映画を次々と手がけており、廣木隆一、三木孝浩とともに「胸キュン映画三巨匠」と呼ばれることも。
『矢野くんの普通の日々』11月15日(金)全国公開
<STORY>
心配性なクラス委員長・吉田さんは、毎日、なぜかケガまみれで登校してくる矢野くんのことが気になって仕方がない。
実はその原因は――超がつく不運体質だった!しかも、そのせいで“普通の高校生活”が送れずにいた。そのことを知った吉田さんは矢野くんの全力サポートを決意!一緒に過ごす中で、ピュアでまっすぐな言葉に惹かれていく吉田さんだったが、一方、矢野くんにも生まれてはじめて<恋>の感情が芽生える――。
<STAFF&CAST>
主演:八木勇征
出演:池端杏慈 中村海人 白宮みずほ 新沼凜空 伊藤圭吾 筒井あやめ
原作:田村結衣「矢野くんの普通の日々」(講談社「コミックDAYS」連載)
監督:新城毅彦
脚本:杉原憲明 渡辺啓 伊吹一
音楽:信澤宣明
主題歌:Yellow Yellow/FANTASTICS from EXILE TRIBE (RhythmZONE)
挿入歌:Staying with you/Travis Japan (キャピトル・レコード/ユニバーサルミュージックジャパン)
配給:松竹
©2024 映画「矢野くんの普通の日々」製作委員会 ©️田村結衣/講談社