寄り添う座長の八木勇征
──毎日、ケガをして登校してくる矢野くんを八木勇征さんが演じます。八木さんに初めて会ったときの印象はいかがでしたか。
最初に会ったのが衣装合わせでしたが、カッコいいなと思いました。でも、そのオーラを消すことができる。それはすごいですよね。
──カッコいい八木さんとケガばかりしている矢野くんをどのように作っていかれたのでしょうか。
僕はスタッフと一緒に八木くんについて研究し、衣装合わせのときに、八木くんに眼帯や絆創膏をつけてもらい、特殊メイクとしての傷も試してみました。八木くんも原作を読み込んできて、感じたことを言ってくれたので、すり合わせていきました。
原作の矢野くんは幼さが残っていてかわいいのですが、そういった感覚的なことは言葉では伝えにくい。それでも八木くんが持ち帰り、イメージを膨らませて作ってきてくれました。矢野くんの少年らしさを八木くん本人も持っているので、それを取り出して見せてくれたのかもしれません。
──原作にできる限り寄せていったということでしょうか。
コミックを実写にする場合、原作を追っ掛けすぎると失敗すると僕は思っています。原作との折り合い点をどこにするか、漠然とは話をしましたが、八木くん本人がちゃんとわかっていたみたいで、微妙な匙加減をうまくやってくれました。
──普段の八木さんはすっと姿勢よく立っていますが、矢野くんの立ち姿はどことなく頼りなげです。
そうそう、矢野くんのときは細く、頼りなげに見えますよね。でも、事前に調整したわけではありません。クランクインは海岸で交換日記の受け渡しをするシーンでしたが、その時点ですでに矢野くんになっていました。本人の中ではいろいろ試していたのか、多少「そっちでなくてこっち」みたいなところがあったくらいです。
──無表情だった矢野くんが吉田さんたちと打ち解けていくに従い、少しずつ表情が豊かになっていきます。その辺りはどのように演出されたのでしょうか。
映画を見るのは女性が多いので、八木くんには「中高生から20代くらいの子たちが癒されるような矢野くんになってほしい」と伝えました。ちょっとおかしくて、ちょっとかわいい、母性本能をくすぐるキャラクターにしたいと思っていたのです。
ただ、清子(吉田さん)や周りとの距離感は変わっていくので、リハーサルやカメラテストをしていく中で、その都度、細やかに微妙な塩梅を探っていきました。
──公開されている矢野くんの不運な日常シーンを描いた本編映像では、下校途中の矢野くんが何もない道で転び、頭をぶつけて、自分のカバンに滑って、側溝に落ちます。自然に見えるようにわざと転んだり、滑ったりするのはかなり難しいと思うのですが、その辺りはどのようにされたのでしょうか。
八木くんは運動神経がいいんです。「動きとしてはこういう風にやって…」と現場で説明した上で、「カッコよく見せるのではなく、くすっと笑ってしまう感じにしたい」と話したところ、八木くんとアクションコーディネーターの方が詰めていってくれました。「HiGH&LOW」シリーズを担当されていた方でしたが、「HiGH&LOW」シリーズの方がやりやすかったんじゃないかな。台本には「歩いているところに転び、頭をぶつけて、どぶに落ちる」と漠然としか書かれていませんでしたが、「ここで何かできませんか?」とお願いして、いろいろと案を出してもらい、あのような映像になりました。
──側溝に落ちそうになったけれど、壁に手をついて落ちなかった矢野くんの横からのシルエットですが、腰の突き出し方が絶妙にかわいかったです。角度を調整されたのでしょうか。
特に調整していません。距離感がよかったのでしょうかね。割とすんなりと決まりました。
──ケガのシーンで苦労されたのはどのようなところでしょうか。
アクション的にはクライマックスのケガは大変でしたね。でも、実際にやってもらうことよりも、先程お話した転んでぶつかって落ちるシーンをどうやるかを考えるのがいちばん大変だったかもしれません。お客さんに「助けてあげたい」と思ってもらうことも大事だったので、くすっと笑ってもらえるニュアンスを擦り込まなくてはなりませんから。
──現場での八木さんの座長ぶりはいかがでしたか。
八木くんはぐいぐい引っ張るというのではなく、寄り添う感じでした。池端さんたちと10歳くらい年齢が違うので、ノリが違ったのかもしれません。現場は変にがちゃがちゃすることなく、いい雰囲気を作ってくれました。この作品はガチガチのラブストーリーではなく、ほんわかしていますから、作風と合っていたと思います。