〜今月の3人〜
土屋好生
映画評論家。いつか見ようと死蔵(?)してあった小津安二郎のビデオをじっくり見直したいのが今の心境なのですが、さて…
杉谷伸子
映画ライター。つい最近、「あつ森」の「おしろ」シリーズがリメイクできることを知り、再開発に着手。目指せ、「GOT」の世界。。
まつかわゆま
シネマアナリスト。提出期限が迫る論文もあるのに、今年もゴールデングローブ賞在外投票用オンライン試写の嵐が。
土屋好生 オススメ作品
『ノーヴィス』
ボート部に入部した女学生の執着心が凄まじく人間の生き方そのものが問われているよう
評価点:演出4/演技4/脚本3/映像4/音楽3
あらすじ・概要
「困難だからこそ挑戦するのだ」というJ・F・ケネディの言葉を胸に大学のボート部の扉を叩くノーヴィス(初心者)のアレックス。仲間やコーチの期待に応え頭角を現すが、次第に精神に支障をきたし狂気の世界へのめり込んでいく。
大学のボート部に入部した女子学生アレックスは、初心者だったが次第に頭角を表していくが…。ところで今から数10年前の高校時代、友人の1人にボートに打ち込む同級生がいた。アレックスのように。授業後黙々とオールを漕ぐだけなのだが、その顔には誇らしげな笑みが零れていたことを昨日のことのように覚えている。
それにしてもここまで女子学生を追い詰めた「ボート映画」も珍しいのではないか。これではスポコン映画で終わっても不思議はない。なにしろボート部に入ってから休む暇なく練習に継ぐ練習の日々。朝から晩までボート漬けの日々が続いたのでは単なる「スポコン」のレッテルを張られてしまうと危惧したくもなる。
次なるステップが用意してあるにせよ、これほどまでしてなぜボートにのめり込むのか。それを肉体と精神の相克といえばかっこいいが、冒頭のJ・F・ケネディの言葉ではないけれども、そこでは限界に挑戦する人間の生き方そのものが問われているのではないか。「おまえの敵はおまえだ」という天の声が聞こえてくる。
公開中、AMGエンタテインメント配給
© The Novice, LLC 2021
杉谷伸子 オススメ作品
『ロボット・ドリームズ』
友情で結ばれた相手のことを思いやる気持ちの優しさに涙が止まらなくなる
評価点:演出5/演技4.5/脚本4.5/映像4.5/音楽5
あらすじ・概要
孤独な日々を送っていたドッグは、テレビCMで見かけた友達ロボットを購入。友情を育み、楽しい毎日を過ごしていたが、夏の終わりのビーチで、ロボットが錆びついて動けなくなってしまう。
サラ・バロンの同名グラフィックノベルを原作に、’80年代NYを舞台に台詞やナレーションなしで描かれるのは、ドッグとロボットの友情。孤独だったドッグの日々は、通販で購入した友達ロボットのおかげで一気に輝きだすものの、夏のビーチでロボットが錆びついて動けなくなったことから、二人は離れ離れに…。
来夏まで閉鎖されたビーチに残されたロボットを救出すべく、ドッグが奔走するまでは定石どおり。だが、月日の流れとともに二人を取り巻く事情も変わる。それでも相手を思いやる気持ちの優しさが、タイトルが「ドリームズ」と複数形なのも納得の構成とあいまって、ラストシーンには涙が止まらない。
『ブランカニエベス』のパブロ・ベルヘル監督の初長編アニメーションは、原作にはないロボット購入前のドッグの日常の描写といい、メインテーマである「セプテンバー」をはじめとした音楽といい、すべてが最高。結果、二人のキャラクターグッズやポスターも欲しくなるほど、この作品を愛さずにいられなくなる。
公開中、クロックワークス配給
© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL
まつかわゆま オススメ作品
『動物界』
メタファーに包み描く今のフランスの姿。湿潤な森と闇に隠れた者に命吹き込む映像美
評価点:演出5/演技5/脚本4/撮影5/音楽3
あらすじ・概要
近未来。ヒトが様々な動物に変化する奇病が蔓延。父と16歳の息子は感染した妻が収容される施設近くに引っ越す。しかし移送中の事故で妻は行方不明に。父子は捜索を始めるが、やがて息子に変身の兆しが。
2016年あたりから世界中が非寛容の毒に侵されてきている気がする。自分さえよければと“違う”者を排除する傾向が、人権の砦を誇るフランスですら強まり、極右勢力の抬頭を許している。コロナのパンデミックが追い打ちをかけ、多様性や平等を掲げる抵抗勢力の旗色は悪い。そんな社会を娯楽映画のスタイルで告発するのが本作。
社会性だけではなく、親子の成長と別れというモチーフが効いているし、“フランス最後の秘境”と呼ばれる南西部の、深い森や沼が点在する自然や古代宗教の影響がある風俗を捉えた映像も素晴らしい。特に夜の新生物捜索のシーンの光と影の演出にはゾクリとした。
動物に変化してしまう人類の話なので、各動物の特技を会得する爽快感と、交換に失われてしまうコトがある哀しさとが、特殊メイクや造形・CGと“音”でも丁寧に描写されているし、見せ方もやたら素早くVFXを繰り出して驚かす方法ではないところが巧い。役者もドラマを支える個性と技を備えた人々だが中でも息子役ポール・キルシェは有望株なので注目を。
公開中、キノフィルムズ配給
© 2023 NORD-OUEST FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINÉMA - ARTÉMIS PRODUCTIONS..