ハリウッドの人気俳優が演じると同じ話も一味違う?
2018年のデンマーク映画『THE GUILTY/ギルティ』をリメイクしたサスペンス『THE GUILTY/ギルティ』(21)も忘れ難い(原題「THE GUILTY」も含め、タイトルは同一)。警察の緊急通報室(日本で言う“110番”)に勤務する警察官が、誘拐の被害者を名乗る女性からの通報をきっかけに、事件解決に挑む。舞台を緊急通報室に限定し、電話のやりとりだけで物語が進行。二転三転する面白さはそのままに、ハリウッド版は主人公の家族関係を掘り下げ、音楽を加えるなど、よりエモーショナルな仕上がりに。さらに、主演のジェイク・ギレンホールに加え、声のみの出演ながら、イーサン・ホーク、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ポール・ダノら豪華キャストが集結している。
同じジェイク・ギレンホール主演作では、救急車を強奪した銀行強盗の逃走劇を描いたアクション『25ミニッツ』(05/デンマーク)をマイケル・ベイ監督がリメイクした『アンビュランス』(22)もある。この他、息子を亡くした父親の復讐を描いたスウェーデンの名優ステラン・スカルスガルド(『不眠症 オリジナル版 インソムニア』も)主演のブラックコメディ『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』(14/ノルウェー・スウェーデン・デンマーク合作)は、リーアム・ニーソン主演で『スノー・ロワイヤル』(19)としてリメイクされている。『キッズ・ミッション』(02/デンマーク・スウェーデン・ノルウェー合作)をクリステン・スチュワート主演でリメイクした『ミッションX』(04)は、少年少女が銀行強盗に挑む痛快エンターテインメント。いわば「キッズ版ミッション・インポッシブル」だ。
北欧映画のハリウッドリメイクは、エンターテインメント作品だけにとどまらない。最愛の妻を亡くした孤独な老人と、近所に転居してきた移民家族の交流を描いた『幸せなひとりぼっち』(15/スウェーデン)をリメイクしたのが、『オットーという男』(22)。主演トム・ハンクスの人間味あふれる演技と、愛する者を失った人々の悲しみに寄り添ってきたマーク・フォースター監督の持ち味が一体となり、温かなヒューマンドラマとなっている。
デンマークの名匠スザンネ・ビアは、『ある愛の風景』(04/デンマーク・イギリス・スウェーデン・ノルウェー合作)、『アフター・ウェディング』(06/デンマーク・スウェーデン合作)がそれぞれ、『マイ・ブラザー』(09)、『秘密への招待状』(19)のタイトルでリメイクされている。「ある愛の風景」は、過酷な戦場体験を経てPTSDに苦しむ軍人の兄と刑務所帰りの弟の葛藤と絆を描いたドラマ。『マイ・ブラザー』では兄弟をトビー・マグワイアとジェイク・ギレンホールが演じるほか、兄の妻役でナタリー・ポートマンが出演。舞台をアメリカに変更し、PTSDに苦しむ元軍人が多数存在することを示唆した点も印象的だ。『アフター・ウェディング』は、慈善事業に熱心な男と、それに援助を申し出る資産家を軸に、家族を巡る運命をミステリアスに描いたドラマ。『秘密への招待状』では、主人公と資産家を女性に変更し、それぞれジュリアン・ムーアとミシェル・ウィリアムズが演じている。
このほか、今後ハリウッドリメイクが予定されている作品に、『アフター・ウェディング』と同じマッツ・ミケルセン主演作『アナザーラウンド』(20)、『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(20)がある。また、『たちあがる女』(18/アイスランド・フランス・ウクライナ合作)も、ジョディ・フォスター監督&主演でリメイクが計画されている。
ここに挙げたのは、リメイク映画の魅力のほんの一部に過ぎない。同じ物語でも、ストイックな印象の強い北欧映画を、エンターテインメント性を重視するハリウッドでリメイクすることにより、味わいが変わってくる。両者を比較し、その違いを知ることで、見慣れた映画の新たな魅力が発見できるはずだ。