北欧はハリウッド式にないサスペンスやミステリーの宝庫
『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』
2024年12月13日(金)公開
アメリカ/2024/1時間50分/配給:東宝東和
監督:ジェームズ・ワトキンス
出演:ジェームズ・マカヴォイ、マッケンジー・デイヴィス、スクート・マクネイリー、アシュリン・フランチオージ
近年、ハリウッドでは世界各国の映画をリメイクする機会が増えている。その中で、ひときわ存在感を放つのが、北欧(デンマーク,フィンランド,アイスランド,ノルウェー,スウェーデンの5か国)発の映画。その最新作となるのが、気鋭のスタジオ、ブラムハウス・プロが放つスリラー『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』だ。
夫と妻、幼い一人娘の三人家族が、旅先で出会った外国人一家の招待を受け、彼らの家を訪れる。ところが、その様子に違和感を覚えた家族は、やがて恐るべき真実を知る…。
前半こそ、オリジナルのデンマーク映画(オランダとの合作)『胸騒ぎ』(22)を踏襲しているものの、後半の展開は大きく異なる。スリルとアクション満載のハリウッド映画らしいエンターテインメントに仕上がっており、『胸騒ぎ』を鑑賞済みでも新鮮な驚きを持って楽しめること請け合い。主演のジェームズ・マカヴォイの怪演もゾクゾクする。
北欧といえば、ミステリーも人気のジャンル。その代表格『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(09)をハリウッドでリメイクしたのが、『ドラゴン・タトゥーの女』(11)。ジャーナリストのミカエル(ダニエル・クレイグ)が、天才ハッカーのリスベットと共に大富豪一族の闇に迫っていく。パンクな装いのリスベットのキャラクターが強烈で、オリジナル版でリスベットを演じたノオミ・ラパスは英国アカデミー賞の主演女優賞候補、ハリウッド版ではルーニー・マーラがアカデミー賞主演女優賞候補に。2人の入魂の役作りを見比べるのも一興だ。一味違う余韻を残すハリウッド版ならではのラストシーンも印象的。
同じく、北欧のミステリー映画をハリウッドでリメイクしたのが、『インソムニア』(02)だ。殺人事件の捜査中、相棒を射殺してしまった刑事の葛藤とその現場を目撃した犯人との駆け引きを描く。オリジナルは1997年のノルウェー映画『不眠症 オリジナル版 インソムニア』。ハリウッド版では主人公の刑事をアル・パチーノが演じるほか、犯人役のロビン・ウィリアムズ、女性刑事役のヒラリー・スワンクという豪華共演。善悪の境界が曖昧な物語や雪と氷に覆われた風景、オリジナル版と異なる結末などにクリストファー・ノーラン監督の作家性が感じられ、「ダークナイト」三部作の先駆け的な趣もある。
いじめられっ子の孤独な少年とヴァンパイアの少女の交流を、純白の雪景色の中に描いた切なさあふれる異色ホラー『ぼくのエリ 200歳の少女』(08/スウェーデン)を、コディ・スミット=マクフィー&クロエ・グレース・モレッツ共演でリメイクしたのが、『モールス』(10)。「人間と異形の存在の交流」というモチーフは、監督のマット・リーヴスが後に手掛けるリブート版「猿の惑星」シリーズにも通じる。また、名撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマによる自然光を生かした映像美が印象的なオリジナル版に対して、技巧を凝らしたハリウッド版は、よりホラーらしいムードが高まっている。