麻薬と殺人が日常と化した環境に立地し、学力が国内最底辺の小学校に赴任した先生がユニークで型破りな授業を行うと子どもたちは探求する喜びを知り、クラス全体の成績が飛躍的に上昇した。『型破りな教室』はメキシコのある小学校の実話をベースに先生と子どもたちの奮闘を描き、メキシコで年間 No.1 の大ヒットを記録した。SCREEN ONLINEでは脚本も担ったクリストファー・ザラ監督にインタビューを敢行。作品について語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

夢に向かってがんばったという過程が大事


──実話がベースになっていると聞き、驚きました。この企画のどこにいちばん心を惹かれたのでしょうか。

(プロデューサーの)オデルから送られてきた記事を読んでいたとき、校長先生が学年末に行われたテストの結果を公表する部分で泣いてしまいました。私の心に強く訴えるものがあったのです。

フアレス先生がどうやって子どもたちに探求する喜びを教え、クラス全体の成績を飛躍的に上昇させたのか。詳しく知りたくなって自分でリサーチをしたところ、フアレス先生がいろいろな取り組みをしていたことがわかりました。それだけでなく、子どもたちが何を求めているのかを理解しようとしていたことが大きな影響を与えたのだと思いました。まるで親が子どもを見守っているかのようでした。

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──泣いてしまうほど強く心に訴えかけるものがあったとおっしゃった部分が作品では描かれていません。なぜでしょうか。

私たちは結果が報道されたことをきっかけにこの事実を知り、映画にしたのですが、私は結果よりも過程に興味があったのです。観客が映画を見ながらそれを追体験することに意義があると思いました。

この作品は教えることに神経をすり減らして、教育に対する情熱を失ってしまったフアレス先生が子どもたちと家族のような絆を築いて、立ち直っていく姿を描いています。一方で、フアレス先生は子どもたちに夢や希望を与えますが、みんながうまくいくわけではありません。フアレス先生は子どもたちを救おうとしますが、実際に救われるのはフアレス先生自身というのは皮肉めいていますよね。

それでも夢に向かってがんばったという過程が大事。パロマは夢が実現できたかどうかに関わらず、そのために努力するだけでも価値があると言っています。夢を達成できなかった子どもも“自分が必要としているものが何なのか”を知ることはできたので、“先生がやろうとしたことを僕たちは理解したよ”ということを体現していました。

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──セルヒオ・フアレス・コレア先生をエウヘニオ・デルベスさんが演じています。

デルベスは私のデビュー作『Blood of My Blood』(2007)にも出演していますが、あの作品は重苦しく、人間性を否定したようにニヒルな内容でした。今回は打って変わって感情に訴えかけるような作品です。それは素材そのものの良さということもありますが、やはりエウヘニオ・デルベスがフアレス先生を演じたからでしょう。

彼は南米の大スターであり、彼を起用したことで感情の起伏を最大限にして描けたのです。ドラマとしてはほろ苦いところはあるものの、ユーモアを盛り込むことができ、全体的には明るい作品になりました。

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──撮影時のことで印象に残っていることはありますか。

フアレス先生本人が何度も撮影現場に足を運んでくれました。うれしかったですね。一緒にいると、こんなに人気のある人は他にいないのではないかと思うほど、彼の携帯に着信通知が頻繁に届いていました。何がそんなに届くのかと聞いてみると、かつての教え子たちにとって、フアレス先生は家族の一員で、ちょっとしたことでも報告してくれると言っていました。フアレス先生にとって教職はまさに天職なのです。献身的に子どもたちを支えていることに感銘を受けました。

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──監督は映画製作者として燃え尽きてしまい、グアテマラに移住されたと聞きました。フアレス先生は子どもたちに救われたとのことですが、監督ご自身は本作を撮ったことで救われたところはありましたか。

この作品を通じて、私に大きな変化がありました。私は登場人物の視点から脚本を書くので、執筆中に何度も感情的になりましたが、実は撮影中も日に2回、3回と泣くことがありました。そのくらい、子どもたちが魔法のように、様々なことを見せてくれたのです。

子どもたちはみな演技が初めてで、実際に映画で描かれているような背景を持っている子も少なくありませんでした。しかし才能を持った子どもたちはどこにでもいる。サポートを受けているか、受けていないか、違いはそれだけ。自分が書いたものが映画になっていく中、子どもたちががんばることで映画に説得力と真実味が加わっていく。本当に謙虚な気持ちになりました。さらに、完成後、観客の反応を見て、作った甲斐があったと感じました。

この仕事に取り組んでいると、自分に才能や実力があるのかと疑い、心が折れそうになるときもあります。しかし、映画は1人で作るのではなく、コラボレーションで作り上げるもの。今回、私以外はみんなメキシコ人だったので、コミュニケーションの問題がありました。それでも効果的にコミュニケーションを図って、自分のビジョンをみんなと共有し、それぞれが自分の役割を果たせるようにすることが私の役割でした。その際、グアテマラに住んでいた経験が活きた気がしたのです。映画を作るプロセスが楽しめれば、自分はキャリアを続けていくことができると気づきました。

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──本作はメキシコで年間 No.1 の大ヒットを記録したとのことですが、本作が公開されたことで、ホセ・ウルビナ・ロペス小学校やマタモロスでは何か変化がありましたか。

本作はメキシコで歴代の興行成績1位を記録しました。つまりメキシコの人が多く見てくれたということです。うれしいですよね。もちろん上映後も対話が続いていて、7万人の教育者の前で話をする機会をいただきました。

ただ、コンピューターを設置しても2~3日で盗まれてしまうような状況は変わっていません。つまり映画や教師の美談だけでは変えられないほど根深い、圧倒される現実があるのです。子どもへのネグレクトや貧困、これが優先的な政治課題だと思います。

社会にとっていちばんのリソースは未来を担う子ども。そこに投資すべきです。それは予算を増やすという金銭面の話だけではありません。子どもたちの内面に関心を持ち、学びは楽しいと自分でモチベーションが維持できるような指導が必要なのです。

コンピューターを置けば問題が解決するということではない。ではどうするか。問題が解決しないときは思考パターンを変える必要があるということは私にとっても学びでした。

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<PROFILE>  
監督・脚本・制作:クリストファー・ザラChristopher Zalla  
1974 年、ケニアのキスムで生まれ、ボリビアとケンタッキー州で幼少期を過ごし、現在は 2015 年から家族とともにグアテマラ在住。ブラッド・ピットのプラン B エンターテインメントで、国際的ベストセラー「Marching Powder」の映画化の企画を立ち上げ、映画界でのキャリアをスタート。ハーバード大学で脚本の講義を行ったほか、コロンビア大学大学院映画学部の非常勤監督教授として教鞭をとり、同大学で監督の修士号を優等で取得。コロンビア大学に入学する前は、伝説的な独立系映画プロデューサー、キャリー・ウッズのアシスタントを務めていた。    
2007 年の長編デビュー作『Blood of My Blood』でサンダンス映画祭審査員大賞を受賞し、2009年のインディペンデント・スピリット賞で最優秀脚本賞と新人作品賞にノミネートされた。その後2008年から2010年までTVシリーズ「LAW & ORDER」、「LAW & ORDER: SVU」、「LAW & ORDER: Criminal Intent」を手掛け、2015 年にはロブ・ロウ、パス・ベガ、キャンディス・バーゲン出演のテレビ映画「Beautiful & Twisted」を監督。長編 2 作目となった本作はメキシコで年間 No.1 の大ヒットを記録し、サンダンス映画祭で映画祭観客賞(フェスティバル・ファイバリット賞)受賞を皮切りに、メキシコ映画ジャーナリスト賞最優秀脚本賞、マラガ・スパニッシュ映画祭作品賞、ハートランド国際映画祭長編映画賞、ミルバレー映画祭観客賞など数多くの賞に輝いた。

『型破りな教室』12月20日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開

画像: - YouTube youtu.be

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<STORY>  
麻薬と殺人が日常と化した国境近くの小学校。子供たちは常に犯罪と隣り合わせの環境で育ち、教育設備は不足し、意欲のない教員ばかりで、学力は国内最底辺。しかし、新任教師のフアレスが赴任し、そのユニークで型破りな授業で、子供たちは探求する喜びを知り、クラス全体の成績は飛躍的に上昇。そのうち10人は全国上位0.1%のトップクラスに食い込んだ

<STAFF&CAST>  
監督・脚本:クリストファー・ザラ  
出演:エウヘニオ・デルベス、ダニエル・ハダッド、ジェニファー・トレホ  
2023年/メキシコ/スペイン語/125分/カラー/シネスコサイズ/原題:Radical/映倫:PG-12  
配給:アット エンタテインメント   
© Pantelion 2.0, LLC

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