発明家だった夫が急逝し、遺品のウイスキーを妻とその友人が飲んだところ、彼女たちは身体的に若返ってしまう。『アーサーズ・ウイスキー』は70代の女性3人がありのままの自分でいることの大切さに気付いていく姿を描いている。公開を前に、SCREEN ONLINEではスティーヴン・クックソン監督にインタビューを敢行。作品に対する思いを語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

どういう状況であっても、自分自身が楽しむことが大事


──秘密のウイスキーを飲んだら若返ったという設定が面白いですね。

若返りのきっかけをウイスキー以外のものも考えたのですが、ウイスキーなら“酔っぱらって見た夢”という捉え方もできるのでいいかなと。ポスターに書くセリフも「酔っぱらっているのか、本当に若返ったのだろうか」はどうだろうかと考えました。

画像1: 【インタビュー】ダイアン・キートンのメソッドと相性がよかった!『アーサーズ・ウイスキー』スティーヴン・クックソン監督
画像2: 【インタビュー】ダイアン・キートンのメソッドと相性がよかった!『アーサーズ・ウイスキー』スティーヴン・クックソン監督


──監督は脚本にも参加されています。脚本開発で意識されたことはありましたか。

ジョーンは伴侶を亡くし、リンダはバツイチ、スーザンは結婚したいと願いつつ、独身のまま年齢を重ねました。人生は人それぞれ。3人を異なるキャラクターにしたことで、どんな人が見ても、誰かに共感できるようになったと思います。その上で70歳を過ぎても、いろいろな可能性はあるということを描きました。

もう1つ、バイセクシャルを取り上げて、オリジナリティを出しました。ジョーンは若い時の恋をずっと覚えています。70代のバイセクシャルの女性という設定の物語はなかなかありません。社会を反映しつつ、奇をてらわずに信憑性を持って描くよう努めました。


──ジョーンを演じたパトリシア・ホッジが撮影前にメインキャスト3人で食事に行って絆を深めたいと提案し、監督もその場に同席したと聞きました。そのときのことで印象に残っていることはりますか。

ダイアン(・キートン)は1人、アメリカから来てくれたのですが,私たちと長年の友人のように接してくれました。私たちもイギリスにいたとはいえ、一緒に仕事をするのは初めてでしたから、ダイアンのお陰でとてもリラックスした雰囲気になったのはありがたかったです。

ダイアンのマネージャーが「ダイアンはアメリカから来たばかり。時差ボケがあるので、メインだけで失礼するかと思います」と言っていました。ところがダイアンは途中で確認に来たマネージャーに「あなたたちはもう帰ってもいいわ」と言ったのです。しかも、私たちには「デザートも食べましょう」と言い、さらに「この後、お茶もしましょう」と提案してくれたので、ダイアンは楽しんでくれていたのだと思います。

3人の波長が合ったのは、それぞれが今までにいろんなことを経験してきたからではないかと思います。ジョーン役のパトリシアは映画でこそ知られていませんが、舞台でさまざまな成功を納めてきた女優ですし、スーザン役のルルはシンガーとして活躍してきました。ダイアンは2人に興味を持ったのでしょう。パトリシアとルルが「ウディ・アレンとの映画はどうだったの?」と聞くと、ダイアンは忌憚なく答えてくれました。数日後には撮影に入りましたが、とてもいい雰囲気で進めることができました。


──食事会での会話をきっかけに脚本を書き直したところはありましたか。

食事会で話したことを反映して、脚本を書き換えたところはありませんでしたが、現場で「しっくりこないから言い方を変えてもいいかしら?」と提案されることはありました。

脚本の大きな変更としてはリンダがアーサーのお墓に手紙を残すシーンです。撮影の段階では、そこで手紙を読み上げましたが、編集の段階で、手紙の文面はラストにナレーションとして入れる方がいいと気がついたのです。そのため、ダイアンの声を録音するためだけにLAに飛びました。

画像1: どういう状況であっても、自分自身が楽しむことが大事


──ダイアン・キートンが「監督は経験豊かな役者たちと仕事をする場合、自分の意見を押し付けない。そうすることで、役者たちから多くのものを得ることができると考えていると思う」とおっしゃっています。

コメディやドラマの場合はある程度、役者に任せるというか、役者の持ち味を持ち込んでもらうことが大事。役者に細かいことをいろいろと注文するのは監督の不安や自信のなさの現れだと思っています。

この作品ではダイアンが言ってくれたように、キャストに自分のやり方でやってもらっていました。もちろん本読みのときに、ダイアンは「これでいいか」と確認を取ってくれましたし、こちらも声のトーンやスピード、セリフが聞き取り辛さなどはその都度、伝えました。

しかし、小さいことにこだわりません。そのやり方がダイアンのメソッドと相性がよかったようです。そもそも、これだけ経験のある方にこちらからいうことはないのです。私にとってもダイアンと仕事できたのはいい経験になりました。


──イギリスのシーンでは真上から俯瞰で撮ったり、高い位置から主人公たちに向かってカメラが下りてきたりすることが何度もありました。これは天国にいるアーサーの視点でしょうか。

アーサーは秘密のウイスキーを残して死んでしまい、妻や彼女の友だちがそれを飲んでいるところを空から見ているということですが、そこに関しては自由に受け取っていただいて構いません。


──ボーイ・ジョージが本人役で出演し、あの有名なヒット曲を披露します。彼の出演がこの作品にどのような効果をもたらしたと思いますか。

イギリスに住んでいる3人が人生最後の冒険としてラスベガスに行き、そこで特別な夜を過ごす。この時点で、彼女たちはウイスキーを飲み干してしまっていましたが、ウイスキーの力を借りなくても気持ちを若返らせることができるというか、年齢を重ねた今の自分でも思いっきり楽しめることを実感するのです。いい思い出を作るという意味で、とても大事シーンですから、大きなものを持ち込みたい。『フル・モンティ』(1997)は最後にストリップショーをして盛り上がりますが、同じような高まりを求めていました。

スーザンを演じたルルが友人であるボーイ・ジョージを紹介してくれて、出てもらえることになりました。このシーンの意図をボーイ・ジョージに話したらすぐに理解してくれて、それを成り立たせるための要素をすべて満たしてくれました。

画像2: どういう状況であっても、自分自身が楽しむことが大事


──本作は女性が主人公ですが、男性である監督もやはり若返りたいと思うのでしょうか。

精神的には経験豊富で成熟しているけれど、身体的には若々しくありたいというのは、男女で違いはないように思います。

この作品の続編という話が出ていて、作るなら男性バージョンはどうだろうかと話しています。主人公が男性であっても、“若い体を望んだものの、実は今の自分に満足している”という気づきになるのだと思いますけれどね(笑)。


──リンダがラスベガスで会ったドラァグクイーンに「ありのままの自分を受け入れる秘訣は?」と問うと、ドラァグクイーンは「そんなものはない。自分の道を歩くだけ」と応えます。監督の思いが込められているのですね。

要は「ありのままの自分であれ」ということです。これをこの作品でいちばん自分の体に違和感を持っている人に言わせたところがポイント。どういう状況であっても、自分自身が楽しむことが大事なのです。

画像3: どういう状況であっても、自分自身が楽しむことが大事

<PROFILE>  
スティーヴン・クックソン/監督・プロデューサー・共同脚本  
1970年2月生まれ。ロンドンを拠点とする監督&プロデューサー、脚本家。これまでに、舞台劇「Brighton Beach Scumbags」を映画化した『Brighton』(19)、ブレンダ・ブレッシン、ティモシー・スポール主演の『My angel』(11)を監督。『My angel』は、モナコ国際映画祭で作品賞、脚本賞、監督賞を受賞。また、ティモシー・スポール主演の『Stanley a Man of Variety』(16)では、監督賞や主演男優賞を含む20以上の国際映画賞を受賞。そのほか、エドガー・アラン・ポーの短編小説を脚色した『Tell Tale Heart(告げ口心臓)』(19)や『Shakespeare’s Heroes and Villains』(19)、『The Battle of Cable Street』(21)、『The Mumbo Jumbo』(00)のほか、アラン・パーカー監督の名作「ダウンタウン物語」以来となる、子役キャスト全員が大人に扮した初の映画ミュージカル『Journey to the Moon』(08)などを手掛けた。

画像3: 【インタビュー】ダイアン・キートンのメソッドと相性がよかった!『アーサーズ・ウイスキー』スティーヴン・クックソン監督

『アーサーズ・ウイスキー』1月17日(金)、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA 他全国順次公開

画像: - YouTube youtu.be

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<STORY>  
発明家だった夫を亡くしたジョーン(パトリシア・ホッジ)は、親友のリンダ(ダイアン・キートン)、スーザン(ルル)と一緒に夫の作業場を片付けていると、秘密のウイスキーを発見する。3人でウイスキーを飲んで目覚めると、なんと身体が突然20代に若返っていた!彼女たちは昔を思い出し、若者たちが集まるナイトクラブに繰り出すものの、中身は70代のまま。ハメを外しすぎてしまい、数時間後には元の姿に戻ってしまう。ウイスキーが残っているうちに、もう一度若返って願望を叶えようと決めた彼女たちは、人生最後の冒険としてラスベガス旅行を計画!ラスベガスで様々な体験を通じて、見た目の若さよりも「ありのままの自分」でいることの大切さに気づいていくが、ある日予想外の事件が発生し…。

<STAFF&CAST>  
監督:スティーヴン・クックソン 
出演:ダイアン・キートン、パトリシア・ホッジ、ルル、ボーイ・ジョージほか 
2024年|95分|イギリス |英語|シネスコ|G 原題: Arthur’s Whisky 日本語字幕:小林伊吹 
配給:AMGエンタテインメント  
©AW Movie Production Ltd 2024

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