J・R・R・トールキンによるファンタジー小説の金字塔「指輪物語」を、ピーター・ジャクソン監督が唯一無二の世界観と壮大なスペクタクルで映像化させた「ロード・オブ・ザ・リング」3部作。第3作『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(03)は、アカデミー賞最多受賞タイとなる11部門で受賞を果たすなど、映画史に輝く人気シリーズだ。
同シリーズの200年前のエピソードを映画化したのが本作『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』。原作は「指輪物語 追補編」に記された『ローハンの戦い』で、ローハンの伝説の王・ヘルムの一族の運命を描いている。
製作総指揮には3部作を監督したピーター・ジャクソンが参加。そして、監督は、日本アニメーションを代表する一人である神山健治(「東のエデン」「攻殻機動隊S.A.C.」「精霊の守人」)が務めている。
海外では実写と見紛う観客も続出した冒頭のシーン
―神山監督からオファーを受けた当時の心境はいかがでしたか?
神山健治(監督/以下、神山)「作画では、最初からテレコムアニメーションと一緒に動いていて、テレコムから推薦してもらったのがこのお二人でした」
高須美野子(キャラクターデザイン・総作画監督/以下、高須)「すごいものを持ってきたな、本気か?と耳を疑いました。あのロードがアニメ化?と最初は軽くしか聞いていなかったです。それでも受けたのは、困難だと思ったけど監督から“降りたらもったいない”と言われて。“そうかも!”と素直に思えました。私の尊敬してるベテランのアニメーターさんも、“大きな仕事が来たらあんまり色々考えずにとりあえず受けた方がいい”と話をされてたのを思い出して、ちょっとどうなるかわからないけれども、じゃあその私でいいと言われている間はやろう!という感じでお受けしました」
山子泰弘(美術監督/以下、山子)「大きな話だと思ったけど躊躇はなかったです。最初にワーナー側は“実写とアニメで区別はない”と考えている、と言われました。今回、共同で美術監督を務めている金森たみ子さんが写真みたいなリアルな背景が得意な人なので、それならばこの人を活かせるかなと思いました」
―冒頭からまるで実写のような映像が映し出されますね。
山子「冒頭ローハンの地図からの俯瞰で大鷲が飛ぶのを追いかけて川のところまでが1カットという長いカットがあります。金森さんと僕とでこのカットを担当したのですがパースが変化していく壮大な内容なので撮影チームとすり合わせていくうちに(他の作業も挟みつつではあるけど)このカットだけで1年かかりました。
最初のテイクでは完成版とは全然違いました。アニメーションでカメラが高低差と位置を長く移動して背景の角度が変わるのは2Dだけではできません。3Dを利用して描くことで視覚的にそう見せているのですが裏の作業量は膨大です」
神山「予告で使われている(実写のシーンからアニメーションに切り替わる)シーンは、海外ではまだ全員にそのシーンも実写だと思われてる(笑)。密度感だけじゃないんだよね。雰囲気、空気感みたいなのが実写から切り替わってもみんな気づかなかったみたい」
山子「その理由は美術だけじゃなくて撮影の方がかなり色々な処理を工夫してくれて、監督と詰めて調整してくれたからです」
神山「山子さん、金森さんが担当しているBG(背景)が上がるたびにもうみんな「ひゃー!」って興奮して」
山子「嬉しいですね。 今日この場には来てないんですけど、金森さんのがんばりが大きいです。カット作業に入ると美術監督が直接描くってことはあまり出来なかったりするんですけど、彼女は量も描いています。すごいカットや大変なカットの多くは彼女が描いてます」
作画枚数は10万枚超え
―WETAデジタルとのコラボレーションについても教えてください。
神山「『二つの塔』で使用したCGデータやイラストなどを数多く共有してもらいました。ただ今回はLOTR3部作よりも200年前の物語なので、共有されたデータをそのまま使ったわけではないです。“きっと砂にだんだん埋まっていくはずだから壁が低くなってるよね”というようなことを考えながら作っていきました。
WETAからのデータを参考にして基本は映画がこうだったっていう前提は活かしているけど、山子さん金森さんに改めてこの作品用の美術ボードを制作してもらいました。今回思うのは、やっぱりこの作品の雰囲気はやっぱり美術に負うところが大きいです。“実写っぽいね”と言われたり、ここまでずしっと存在感が出たのはすごく美術に負うところが大きかったなと思いますね」
山子「僕たちは習慣的な日本アニメ風の背景にならないように意識しました。それを撮影さんと3Dさんがよりさらに良くしてくれたっていう感じです」
―作画枚数は10万枚超えだそうですね。
神山「とにかく作り上げるのが精一杯で、気にしてられないですね。馬を描きたいと最初に言ってくださったのは高須さんです」
高須「馬は個人的には描きたいと思っていたんですけど、これまで仕事としては描く機会は無くて。1000以上の馬を描くのはそれだけ大変だというのはわかっていました。しかも今回は馬だけではなくて人も乗っている。
馬を描ける人があまりいないというのと、私も経験がないのとで、描きたいけど、描けるかどうかはわからない…みたいな葛藤はもちろんありました」
神山「キャラクターデザインと同様に、馬デザインも高須さんが描いています。ただリアルに描くだけじゃなくて、各馬1頭1頭にちゃんとキャラ付けがあって感心しました。
ハマの馬はおばあちゃんの馬なので、たてがみがちょっと長めで、色もちょっと白髪になってて。首の角度も他の馬よりはちょっとこう、落ちてるとか、目の感じとかもね」
高須「馬は描いてて楽しいですね。とくに最初の頃は。後半はそれどころじゃなくなっちゃったんですけど、最初の頃は単体で馬が暴れる姿とかあったので、その辺りは楽しく描かせていただきました」
手書きにこだわった作画
―制作していて楽しかったのはどのシーンですか?
高須「序盤のヘルムとフレカが戦うあたり。作画さんがすごくうまい方で雰囲気がすごく伝わってきたので、やりやすかったですね」
神山「おお!」
山子「美術は空間なのでまずはどのシーンも『全部いい』というラインにベースを引き上げるのを大事にしているので選ぶのが難しいですね。観た人がいいって言ってくれるシーンがあればいいんですけど」
神山「作品の雰囲気を決定するのが美術だとも思う」
―これから観る方へメッセージをお願いします。
神山「今回、手書きの作画にこだわっています。それって実写で言えば、役者がCGじゃなくてリアルに危ないアクションだったりすごい芝居をするってことだと思うんですね。
それをやりきったことで、世界中の人が見たときにはどう感じるのか、これは僕にも分からないけど、えもいわれぬ熱量になってると思う。
そこがピーター・ジャクソンの3部作を最初に見た時と、ある種共通の部分になっていると思うので、そこをぜひ劇場で観てほしいです」
高須「今回実写から手描きアニメにするというところで、その実写の雰囲気をなるべく残すようにと、とにかくそれが困難なことではあったんですけど、極力そう考えて頑張ったので、『ロード・オブ・ザ・リング』の世界観を感じ取ってもらえたらいいなと思います」
山子「僕も同じになっちゃいますけど、ピーター、ジャクソンの三部作を元々好きな人も入り込める世界観になっているので、それを楽しんでいただければいいなと思っています」
『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』
全国劇場で公開中 吹替/字幕版同時公開※一部劇場除く
<Dolby Cinema®/Dolby Atmos®/4DX/MX4D/IMAX®>
配給:ワーナー・ブラザース映画
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