原作の独自性と面白さは“子育てに対する複数の視点”にある
――本作の原作はピーター・ブラウンが書いた児童文学「野生のロボット」(福音館書店 刊・前沢明枝 訳)で、AIと動物の世界が交わるお話です。お読みになっていかがでしたか。
ドリームワークス・アニメーションが企画として温めているものはたくさんあります。監督が決まっていない企画をいくつか挙げてもらった中にこの作品があり、ヒーローやヴィランではなく、母親が物語の中心にいたことに魅かれました。アメリカで語られる物語には母親が不在なものが多いのですけれどね(笑)。しかも、新米ママだけでなく、年に何度も出産するオポッサムのベテランママがいて、子育てに対する複数の視点がある。そこがこの作品の独自性であり、面白いところだと思いました。
「ぜひ、この作品をやってみたい」と思い、帰宅してから娘に話したところ、「その本なら課題で読んだから家にある」と持ってきて見せてくれました。
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――監督が過去に手掛けられた『リロ&スティッチ』(2003)や『ヒックとドラゴン』(2010)と本作の共通点として、別の世界に住んでいた者たちが家族になるということがあると思います。そういったテーマに惹かれることに何か理由がありますか。
そのことについて、自分としてはまったく意識をしているつもりはないのですが、他の人にも言われたことがあるので自覚はしています。なぜ惹かれてしまうのか、もっと考えてみなくてはいけないのかもしれませんね(笑)。
物語のサイズ感でいえば、小さくて親密な物語に惹かれる傾向があります。全体としては大きな物語であっても、その中で繰り広げられる一瞬の物語に惹かれてしまうのですが、経験上、そういう小さなストーリーやちょっとだけ出てくるキャラクターが観客を感動させることが多いのです。だから共通してしまうのかもしれません。
映画は本来、多様的です。誰もが同じように共感するわけではありません。僕の場合はキャラクターがポイントになって、物語にどんどん没入することが多い。ところがこの作品は違った立場、具体的には今、まさに子育て真っ最中の方でも、子どもが巣立ってしまった方でも、また、一生、そういうことがない方でも同じように見ることができる。そこがこの作品のユニークさであり、素晴らしさだと思います。今回、関わったスタッフはみな、自分のものとして、この物語に関わってくれたと思います。
――「飛ぶ」という行動も監督の作品で大事にされていますね。
人間は飛ぶことができません。だからこそ、飛んでみたいと憧れる人が多く、映画の中で飛翔を体感すると、すごく心が動かされるのです。
――また、本作では「飛ぶ」という行動が、イニシエーションの一環として描かれます。
この作品でキラリが雁の仲間たちと渡りをするというのは、子育ての完了を意味します。人間だったら、子どもが飛び立った後、寂しさに襲われることがわかっていますが、感情が芽生え始めたばかりのロズには予測できませんでした。だから、キラリが飛び立ったときに押し寄せた喪失感にロズは驚いてしまったのです。
![画像2: 原作の独自性と面白さは“子育てに対する複数の視点”にある](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16782943/rc/2025/02/06/235bb815fdf54a42ef92f6885fd8f4a3db886b8c_xlarge.jpg)
いい子育てをしたから、子どもはきちんと巣立つことができたのですが、親としてはほろ苦さを感じてしまう。その辺りで共感される方が多いのではないかと思います。ロズがキラリを見送りながら崖っぷちのところまで走っていく姿を描いていますが、それは必死に子育てしていたら、いきなり喪失感に襲われたロズの心の風景を映し出しています。