自分とは違うキャラクターを作り上げていくことは女優としての醍醐味
──双子の姉クレールをカミーユ・ラザさん、妹のジャンヌをメラニー・ロベールさんが演じていますが、演じた役にご自身と似ているところはありましたか。
メラニー・ロベール(以下、ロベール):私はジャンヌとは全然違うタイプです。性格も似ていません。ジャンヌと似ていないからこそ、俳優として、クリエイティブな役作りができたのではないかと思います。
例えば、ジャンヌは積極的なクレールと違い、控えめです。はにかみ屋で思慮深いところもあります。そういうところが私とは全然違うのです。もちろん、私も控えめなときはありますが、自分とは違うキャラクターを作り上げていくことは女優としての醍醐味でした。
カミーユ・ラザ(以下:ラザ):クレールは何事にも積極的で、すぐに行動に移します。頑固なところもあって、一度決めたら迷わず突き進んでいきます。そういう部分は自分に似ていると思いますが、やっぱり同じ人物ではありません。そもそも私たちは30代ですし、彼女たちは恐らく、20歳そこそこ。クレールの恋心はティーンエイジャーならではの初々しさでしょうから、30代の私にはそんな恋心を演じるのはチャレンジだったかもしれません。
ロベール:私たちが30代だってことを何度も言わなくていいわよ。私たちも20代ということにしておきましょう(笑)。
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──双子に見えるように工夫したところはありましたか。
ロベール:双子に見えるように髪色を同じ赤毛にして、前髪をスパっと切りました。ただ、衣装に関しては監督が全く同じ衣装を着ることを好まなかったので、同じ種類の衣装で少し色を変えるなど、変化をつけていました。
メイクについては、カミーユは私よりも唇がふっくらしているので、私はペンシルで唇を書き加えて、ふっくらするように見せました。頬も私の方がこけているので、カミーユはメイクで工夫していました。時間を掛けて特殊メイクをするといったことはせず、割とナチュラルな感じで双子を作っていけたのかなと感じています。
ラザ:そもそも私たちは共演前から親友だったので、一緒にいた時間が長く、役作りをするというよりも、自然と似たような動きをしていたのです。
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──お二人は共演する前から親友だったのですね。
ロベール:私たちはオート=ガロンヌの小さな村の出身で、そこから25分ほどのトゥールーズのリセ・サン・セルナンの最終学年で一緒になりました。カミーユは私より1年早くパリに行き、クール・フロラン・コースで学んでいたので、私は何度も手紙を書いて、コースのことやアパートを借りるときのことを教えてもらいました。
ラザ:メラニーから「クール・フロラン・コースで勉強したい」と言われたとき、彼女がアパートを探すのに苦労するだろうと思ったので、「住むところを見つけるまで一緒に暮らさない?」と言って、3カ月ほど一緒に暮らしました。11年前のことですが、それ以来、私たちは親友で、何でも一緒にしています。
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──キャスティング当初は反対の役を演じることになっていて、撮影の数カ月前に入れ替えたと聞きました。
ラザ:もう1人の立場をしっかり理解できていたので、姉妹の絆の強さを表現するのに役に立ちました。それは作品のクオリティを高めることにもなったと思います。
ロベール:私も同じ考えです。脚本もどちらのキャラクターも好きでしたから、役柄を換えたことで困ることはありませんでした。監督お二人はキャスティングのときに間違えたと思われたのでしょうね。チェンジして読み合わせをしてみたら、こっちの方がいい感じだったのです。しかも、クランクインが延期になったので、クレールと同じくらいの時間をジャンヌの準備に充てることができました。
私はクレールのシーンがどういうものなのか、完璧に頭の中に入っていましたし、カミーユもそうだったと思います。撮影が始まってみるとそれが自分の役を演じるのに役立ち、役柄の交替は予期せぬことではありましたが、私たちにとってはある意味、いいプレゼントになったと思います。
それに、私が演じたクレールとカミーユが演じたクレールはやはり違っていたと思います。私自身はカミーユが演じたクレールがとてもいいと思いました。
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──お互いをご覧になって、相手の演技で「ここは素晴らしい。自分には真似できない」と思ったところはありましたか。
ラザ:私はメラニーが演じているのを見て、すごいなと圧倒されていました。彼女はジャンヌと全然違うと言っていましたが、その彼女がジャンヌを見事に演じていたのです。自分だったらあんなに素晴らしいジャンヌは演じられなかったと思います。
今回、お互いに違う役柄を演じるのを目の当たりにし、親友の新たな一面を知ることができたので、とてもいい経験になりました。
ロベール:私はカミーユと親友ですから、彼女が出演した他の作品を見ていたので、彼女の女優としての仕事ぶりはだいたいわかっていました。ですから、新たな発見はなかったと撮影現場では思っていました。
ところが、スクリーンでこの作品を見たときに、「こんな風に演技をするんだ」と驚いたのです。例えば、両親とのシーン。撮影日に私は現場にいませんでしたが、シナリオを読んでいたので、「こんな感じなんだろうな」と想像していました。ところが、スクリーンに映し出されたカミーユ、フランク・デュボスク(双子の父・セルジュ役)、イザベル・カレ(双子の母・カトリーヌ役)3人の共演ぶりは全然違ったのです。想像を超えていました。
感動したところもありました。彼女が痛む手首を氷水に浸けて冷やすシーンがありますが、あそこはとても小さい部屋で撮影したので、体全体が映せませんでした。それでもカミーユは痛みに苦しむ様子をしっかりと表現していたのです。それをスクリーンで見たときに、カミーユの素晴らしさを再認識しました。
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──この作品に出演したことで、ご自身の中で変化を感じたところはありましたか。
ラザ:私が演じたクレールは出ずっぱりで、しかも感情を深く掘り下げる必要があります。こんな役をいただけるのは稀なこと。しかも、クレールのいくつもの側面を演じなければならなかったので、私自身が女優として成長するいい機会になりました。
ロベール:私にとってこの作品は初主演でしたから、挑戦するところがとてもたくさんありました。しかも、演じるのは過酷な状況を乗り越えた実在する人物。無意識のうちにプレッシャーを感じていたので、準備は念入りにしました。
ですから、撮影後、しばらくは気持ちが落ち着きませんでした。それまでずっと一緒にいたスタッフの人たちと離れてしまい、「しばらく会えないかもしれない」、「もしかすると二度と会うことがないかもしれない」というセンチメンタルな気持ちになってしまったのです。撮影していた頃に対してノスタルジーさえ感じていました。
カミーユとは今回、初めて共演したのですが、そういう意味でもこの作品は自分にとって、とても印象深い撮影でしたから、余計にそう感じたのかもしれません。
私はこの作品を通して、違う自分になれた気がします。ぜひ多くの方にご覧いただき、みなさんもこの作品を通じて、何か発見していただけるとうれしいです。
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<PROFILE>
カミーユ・ラザ
双子の姉:クレール・ヴァロア
1994年3月1日生まれ。16歳からモデルをしており名だたるブランドの広告塔をつとめていた。近年では、Netflixシリーズ『エミリー、パリへ行く』で、日本でも大人気のキャラクターである主人公の親友・カミーユ役を演じている。
メラニー・ロベール
双子の妹:ジャンヌ・ヴァロア
フランスの新星。フランスのテレビドラマや、映画で大活躍中の期待の女優。
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(右:カミーユ・ラザ、左:メラニー・ロベール)
『デュオ 1/2のピアニスト』2025年2月28日(金)より、新宿ピカデリーほか公開
- YouTube
youtu.be<STORY>
双子の姉妹クレール(カミーユ)とジャンヌ(メラニー)は、幼い頃からともにピアノに情熱を注いできた。父親からアスリートのような指導を受け、名門カールスルーエ音楽院に入学する。ソリストを目指し、2人のキャリアを左右するコンサートのオーディションに向けて練習に励む日々。しかし、クレールとジャンヌは自分たちの両手がピアニストとしては致命傷となる難病にかかっていることを知る。最悪の事態に直面しながらも、改めてピアノが人生のすべてであり、かけがえのない大切な存在だということに気づく。そして、絶対に叶えたい夢を2人で掴み取るため、家族に支えられながら、自らの運命を変えていくー。
<STAFF&CAST>
監督:フレデリック・ポティエ&ヴァランタン・ポティエ
出演:カミーユ・ラザ、メラニー・ロベール、フランク・デュボスク、イザベル・カレ、エリザ・ダウティほか
2024 | フランス | 109 分 | カラー | ビスタ|DCP | 5.1ch | 字幕翻訳 星加久実 |G
配給:シンカ/フラッグ
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