作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。(デジタル編集・スクリーン編集部)

〜今月の3人〜

杉谷伸子
映画コラムニスト。『エミリア・ペレス』でリタが歌う「El Mal」はほんとに痛快! アカデミー賞歌曲賞おめでとう♪

前田かおり
映画ライター。ジーン・ハックマンの訃報。また一人好きな俳優が鬼籍に…。寂しい。

松坂克己
映画ライター・編集。最近は一作当たりのリアル試写の回数が少なくてスケジュールを組むのに四苦八苦です。

杉谷伸子 オススメ作品
『ウィキッド ふたりの魔女』

画像1: 杉谷伸子 オススメ作品 『ウィキッド ふたりの魔女』

映画ならではのアングルを駆使して舞台版とは違う高揚感に溢れたミュージカル

評価点:演出4/演技4/脚本4/映像4/音楽5

あらすじ・概要
緑色の肌と制御できない力のせいで疎まれて生きてきたエルファバ。魔法と幻想の国オズにあるシズ大学でグリンダと出会い、思いもよらぬ深い友情を築くとともに、自身の未知の力に目覚めていく。

素晴らしい楽曲に乗せて繰り広げられる、躍動感溢れる群舞。ミュージカル映画の醍醐味をそこに求める向きには、これは文句なしの快作だ。「オズの魔法使い」に登場する“悪い魔女”と“善い魔女”の誕生秘話を描くブロードウェイミュージカルの映画化は、オープニングからクライマックスに至るまで、随所にダイナミックな群舞が登場。それも映画ならではのアングルを駆使して、舞台とはまた違う空間の広がりに高揚させてくれるのだ。

画像2: 杉谷伸子 オススメ作品 『ウィキッド ふたりの魔女』

“善い魔女”の若き日を演じるアリアナ・グランデも、自惚れが強いのに憎めないお嬢様グリンダを演じて、コメディ・センスに目を見張らせる。背中を反らせて長いブロンドをこれ見よがしに振るポーズは、オモシロかわいくて真似したくなるほど。VFXを駆使したスケールの大きなファンタジーアクションとしても楽しませる中に、緑色の肌のせいで疎まれてきたエルファバや迫害される動物たちを通して、差別や社会の歪みへの警鐘を鳴らしているのも大きな魅力。PART2が心から待ち遠しい。

公開中、東宝東和配給
© Universal Studios. All Rights Reserved.

前田かおり オススメ作品
『ジェリーの災難』

“そんなバカな話”に騙されスパイ活動に従事した男の真実。特殊詐欺の啓発映画に最適?

画像1: 前田かおり オススメ作品 『ジェリーの災難』

評価点:演出3/演技4/脚本4/映像3/音楽3

あらすじ・概要
引退して一人で暮らすジェリーのもとに中国の警察から「口座がマネーロンダリングに使われている。逮捕されたくなければ捜査協力しろ」と電話が。銀行を監視し極秘の送金も行うなどスパイとして協力するが…。

台湾系アメリカ人のジェリーは息子たちを育て、今は離婚してフロリダで一人暮らし。ある日、“中国の警察”からの電話を機に、おとり捜査に協力したことから思わぬ事態に巻き込まれていく。本作は信じ難いような詐欺事件の顛末を、被害者本人が主演で描いた異色の実話。

当初、半信半疑ながらも父親として息子たちに心配をかけまいとするジェリーは、自分一人の秘密にして送金を繰り返す。スマートフォン越しの声だけの中国警察に対して、妄想逞しく恐怖を増幅させたり、多額の送金を心配する銀行員に猜疑心を募らせるなど。騙されていく人間の心理を生々しく描写し、近年、ますます増える特殊詐欺被害の啓発映画としてまさに最適な一作と言っていい。

画像2: 前田かおり オススメ作品 『ジェリーの災難』

一方で、普通なら恥として隠したい体験を映画にしたジェリーの強かさには脱帽。終盤、若き日に映画人になりたいという夢があったこと、そんな彼の背中を押した家族の温かさが描かれる。災い転じてアメリカンドリームを掴んだ男の物語…、しばしギスギスとした現実から逃避させてくれる。

公開中、NAKACHIKA PICTURES配給
© 2023 Forces Unseen, LLC.

松坂克己 オススメ作品
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』

ボブ・ディランの活動初期を描くだけでなく一つの時代の証言としても貴重

画像1: 松坂克己 オススメ作品 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要
1961年。ニューヨークへやってきたボブ・ディランはフォークシンガーとして活動を開始、頭角を現わしていく。やがてムーブメントのリーダー格に祭り上げられるが、彼はさらなる音楽性を求めて進み続けていき……。

あのボブ・ディランの、デビュー前後から、賛否両論を巻き起こした1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルのステージまでを描いているのだが、フィクションを織り交ぜているとはいえ、一つの時代の証言として貴重な作品と言えるだろう。わずか5年を追っているだけだが、その間にディランという人物に何が起こり、彼が何を感じ・考えたかが感じ取れる。

“フォーク・ソングで世界を変える”という理想から、音楽性の追求によってロックサウンドにたどり着いたディランは、自身の詩の世界を伝えるため最善を望んだのだ。

画像2: 松坂克己 オススメ作品 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』

演じるティモシー・シャラメは、最初にディラン役に決まってから実際に撮影に入るまで、5年間をギターやハーモニカ、歌の練習に費やしたそうだが、その成果は明らか。外見的にはディランに似ているわけではないのだが、映画の観客は「そこにディランがいる」と感じてしまう。アイドル的な人気も保ちながら、演技者としてさらなるステージに到達したと言っていい。今後もますます楽しみな俳優になってきた。

公開中、ウォルト・ディズニー・ジャパン配給
©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

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