圧倒的な作品の面白さが口コミで伝わって日本でサプライズ・ヒット

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』のルイス・クー
本誌読者の中にもすでにご覧になった方は少なくないと思うが、香港映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』が今、日本で旋風を巻き起こしている。今年1月17日に公開されるや口コミで評判が広まり、上映スクリーン数は増え、2月22日には2億円の興収に到達。反響の大きさを知ったソイ・チェン監督や主演のルイス・クーら出演者4名が緊急来日し、舞台挨拶を行ない、熱狂はさらなる広がりを見せている。熱狂の秘密は何かと問われたら、これはもう作品の面白さ。香港では2024年の観客動員数ナンバーワンとなったのも納得がいく。ここではもう少し踏み込み、1980〜90年代の香港アクションの伝統を踏まえつつ、本作の面白さを紹介していこう。
まず、タイトルにある“九龍城砦”について解説を。これは香港にかつて実在した巨大な要塞都市。無計画な建築により建物が乱立し、迷宮の様相を呈して、犯罪が横行。一時は黒社会の拠点にもなっていた。そういう意味では無法地帯ともいえるが、一方で移民らからなる住民たちは助け合い、自治を行ない、肩を寄せ合って暮らしていた。しかし、1993年に香港政府は、その解体に着手。現在は公園として整備されている。映画の時代背景は1980年代、九龍城砦に生活感と活気が満ちていた時代。10億円もの巨費を投じて、この砦をセットで再現したというから、それだけでも驚かされる。

ロッグワンを熱演するレイモンド・ラム
次にあらすじを簡単に紹介しよう。香港にやってきた不法移民の若者ロッグワン(レイモンド・ラム)は偽造IDを手に入れるため、闇の賭けファイトに身を投じるが、黒社会の大ボス(サモ・ハン)に騙されたあげく、トラブルを起こして追われる身に。逃げ込んだ先が、九龍城砦だった。そこは、かつての黒社会の大物で、信望の厚い理髪店主ロン(ルイス・クー)の指導の下、住民たちが貧しいながらも助け合って暮らしていた。大ボスでさえそこには手を出せないが、ロンにとっても外部との不要なトラブルは避けたい。一度は追い払われたロッグワンだったが、住人として認められ、ロンの片腕であるソンヤッ(テレンス・ラウ)、義理固い性格のサップイー(トニー・ウー)、砦の闇医者セイジャイ(ジャーマン・チョン)といった同世代の若者と友情を築き、自分の居場所を見つけていく。ところが、ロッグワンが幼少期に死別した父は黒社会の殺し屋で、現在も彼のことを恨んでいるギャングがいた。大ボスはこれを利用し、砦を我が物にしようと行動を起こす……。

香港映画界の伝説サモ・ハンも敵役で出演
まずは、とにかくアクションがすごい。ロッグワンの賭けファイトを皮切りに、大ボスの手下の追撃をかわす彼の戦い、そして九龍城砦でのロンの手下たちとのバトルと、映画開始30分足らずで肉弾アクションのつるべ打ち。走る2階建バスでの窓ガラスを割ってのバトルや、九龍城砦での狭い通路で落下したり上ったりしながらの死闘は生活感が背景にあることもあり、ジャッキー・チェンの1980年代の映画を連想させる。ロッグワンとロンの最初の対面時の対決をはじめ、香港伝統のワイヤーワークも多用されているのも嬉しい。
80年代香港の風景は失われ変化しても、なお変わらないものが確かにある
しかし、本作が真の意味で熱を帯びてくるのはこの後からだ。ロンに気に入られて九龍城砦に住み着き、汗をかきながら働き、住民たちと絆を育んでいくロッグワン。とりわけ、ソンヤッとサップイー、セイジャイとの4人の友情は熱く、シングルマザーの娼婦の死体を放置した麻薬中毒者に制裁を加えたりなどの自警活動に加え、麻雀を打ったり、テレビを見て笑い合ったりなどの日常の描写が効いている。ジョン・ウーの『男たちの挽歌』や、ジョニー・トーの『ザ・ミッション 非情の掟』にも通じる友情の物語。つまり、その熱い絆は、この後に展開するクライマックスの死闘の原動力にもなるのだ。

左からジャーマン・チョン、テレンス・ラウ、トニー・ウー
クライマックスの強敵は、気功を操る大ボスの部下。この男から砦を取り戻すために、満身創痍の4人は敵地へと乗り込む。敵に徹底的に痛めつけられ、一度は砦を追われた彼らだったが、このままでは終われない。死地に向かう決意で九龍城砦に殴り込みをかける姿は、ジョン・ウーやジョニー・トーの傑作の再現のようでもある。ノスタルジックな楽曲の起用によって、その叙情をあおるのがウーやトーの作品の特徴だが、本作でも80年代の曲、とりわけ香港でも人気のあった日本の歌謡曲も印象に残る。
そして本作には、もう一点、先人が描けなかったエモい要素がある。それは1980年代に香港にあった風景が確実に失われていること。ご存じのとおり、中国返還後の香港は緩やかな変化を経て、中国の強権的な支配に揺さぶられている。必然的に街は急速に変わっていく。それでも変わらないものは、確かにある。それが何かは映画を観て確認してほしいが、アクションやバイオレンスがキャラクターの感情に裏打ちされてこそ、熱いものとなることを改めて認識させる本作。まだ観ていない方は、一刻も早く劇場に足を運んでほしい。
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』
2025年1月17日(金)公開
香港/2024/2時間5分/配給:クロックワークス
監督:ソイ・チェン
出演:ルイス・クー、サモ・ハン、リッチー・レン、レイモンド・ラム、フィリップ・ン
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