宗教とタブーに支配された歴史の暗部が現代に蘇る
監督は、シッチェス・カタロニア国際映画祭ほか世界各地の映画祭を席巻し、第88回アカデミー賞外国語映画賞のオーストリア代表作品に選出された2014年の映画『グッドナイト・マミー』のヴェロニカ・フランツ&ゼヴリン・フィアラ。最新作となる本作で描くのは、世界との不和を理由に、この世から消え去ってしまいたいと願う女性が、宗教上自死することも許されず、やがて驚くべき行動に出てしまうという、陰惨で衝撃的な物語だ。実際の裁判記録を元に、宗教とタブーに支配された歴史の暗部が今なお響く痛みとして現代に蘇った。容赦ないストーリーテリングと、美しくも残酷な映像表現が評価され、第74回ベルリン国際映画祭では銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞、さらに第57回シッチェス・カタロニア国際映画祭でも最優秀作品賞を受賞するという快挙を達成している。
今回到着したキービジュアルに描かれているのは、動物の死体が異様に祭られた小屋の前に、静かに横たわる主人公アグネスの姿だ。穏やかに眠っているかのようにも見える彼女とは対照的に、小屋を取り巻く空気は不気味に歪み、アグネスが生きる村(=世界)のいびつさ、そして彼女自身との、決して埋まらない深い断絶が浮かび上がる。さらに、「私が、壊れていく。」というコピーからも、彼女が辿る悲しく、容赦のない運命を予感させ、結末への不安を否応なく掻き立てるデザインとなっている。
併せて解禁となる本予告映像は、冒頭、女性が赤ん坊を滝の上から投げ落とす──悪夢のような衝撃映像で幕を開ける。続いて描かれるのは、閉鎖的な小さな村に嫁ぎ、精神的に追い詰められていくアグネスの姿。村に馴染もうと努める彼女に対し、周囲は子供を授かることを強く望み、その重圧が心を蝕んでいく。やがてアグネスは、夜ごと暴力を受ける村人や、首を失った死体を目撃し、村に根づく不穏な習慣を肌で感じ取るようになる。次第に現実と幻想の境界が曖昧になり、錯乱状態に陥ったアグネス。しかし、信心深い村人たちは、彼女を“悪魔に憑かれた存在”として忌み嫌い、救いの手を差し伸べようとはしない。自らの死を覚悟し、髪を毟り取るアグネス。その後、映像は次第に現実と悪夢のあわいを漂い始める──。
血に染まる川。
袋をかぶり斬首を待つ人影。
狂乱する村人たちと、刺されそうになる子供。
そして、顔が溶け落ちる赤ん坊──。
これらはすべて、追い詰められたアグネスの妄想なのか?
それとも、狂っているのは、村か、アグネス自身か。
歪んだ史実に封じられた、禁断の悲劇を暴き出す本作。
果たして、それは遠い過去の出来事と言い切れるのだろうか。
TheDevilsBath TRL 90s Date 20250414
www.youtube.com【STORY】
18世紀半ば オーストリア北部の小さな村。古くからの伝統が残るその村に嫁いだアグネスは、夫の育った世界とその住人達に馴染めず憂鬱な生活を送っていた。それだけでなく、彼らの無神経な言動や悍ましい儀式、何かの警告のように放置された腐乱死体など、日々異様な光景を目の当たりにして徐々に精神を蝕まれていくアグネス。極限状態に追い込まれ、現実と幻想の区別すらつかなくなった彼女を、やがて村人たちは狂人扱いするようになる。果たして、気が狂っているのはアグネスなのか、それとも村人たちなのか。やがてアグネスは、村から、この世界から自由になるために驚くべき行動にでる。
『デビルズ・バス』
5月23日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
監督・脚本:ヴェロニカ・フランツ、ゼヴリン・フィアラ
撮影:マルティン・ゲシュラハト
編集:ミヒャエル・パルム
衣装:ターニャ・ハウスナー
音楽:ソープ&スキン(アーニャ・プラシュク)
出演:アーニャ・プラシュク、ダーヴィド・シャイト、マリア・ホーフスタッター
2024年|オーストリア、ドイツ|ドイツ語|カラー|ビスタ|5.1ch|121分|レイティング:PG12|原題:DES TEUFELS BAD|英題:THE DEVIL'S BATH|字幕翻訳:吉川美奈子
配給:クロックワークス
© 2024 Ulrich Seidl Filmproduktion, Heimatfilm, Coop99 Filmproduktion