〜今月の3人〜
稲田隆紀
映画解説者。最近は忘れられた存在になってしまったか。負けるわけにはいかない。まだ生きていることを証明してやる。
まつかわゆま
シネマアナリスト。NHKオスカー授賞式特番に協力。TV局調整室に入り、『セプテンバー5』みたいと興奮しました。
米崎明宏
映画ライター/編集者。アレクサンダー・ペイン監督のデビュー作『市民ルース』(96)を鑑賞。全米中絶論争を皮肉る。
稲田隆紀 オススメ作品
『BETTER MAN/ベター・マン』

スーパースター、ロビー・ウィリアムズの軌跡をチンパンジーの姿で描くミュージカル
評価点:演出4.5/演技5/脚本4/映像5/音楽5
あらすじ・概要
イギリス北部の町に生まれたロビーは祖母の愛に恵まれながらも、自信を持てない子に育つ。音楽の才能を認められ、「テイク・ザット」の一員となるが、馴染めずに脱退。ソロになるが孤独感と劣等感は強くなる一方だった。
日本で大ヒットした『グレイテスト・ショーマン』の監督、マイケル・グレイシーが「夢よもう一度」とばかりに、今度はポップスのスーパースター、ロビー・ウィリアムズの軌跡を映画化した。前作では見世物ショーで大成功した興行師を描いた監督とあって、今度も単なる人気者の半生で終わらせない。ロビー・ウィリアムズをチンパンジーの姿で描く挙に出た。描かれる内容はウィリアムズ自身の軌跡。「テイク・ザット」のメンバーに選ばれ、ソロになって人気を爆発させながらも、本人は劣等感に苛まれていたという。それをチンパンジーの容姿に見立てて描こうという趣向だ。

最初その容姿が目について入り込めないのだが、「ROCK DJ」、をはじめとするヒット曲の数々に惹きこまれ、ロンドンのリージェント・ストリートを封鎖して行われたダンスシーンに快哉を叫ぶ。さらにラストのコンサートシーンは感涙もの。ウィリアムズの歌唱力に脱帽させられる。素顔をさらさなくとも歌唱力、振りで本人を感じさせ映像に焼き付ける。大したスターである。
公開中、東和ピクチャーズ配給
©2024 PARAMOUNT PICTURES. All rights reserved.
まつかわゆま オススメ作品
『エミリア・ペレス』
オスカー作品賞は惜しくも逃したがジャック・オーディアール監督らしさが光る異色作

評価点:演出5/演技5/脚本5/映像5/音楽5
あらすじ・概要
有能だが女性ゆえ冷遇されている弁護士リタは麻薬王から「女性になりたい」と依頼を受ける。4年後リタはエミリアになった麻薬王と再会。彼女と共に虐げられた女性たちを救う組織を作り上げていく。
『ディーパンの闘い』がパルムを獲った時、これはちと違うと思った。だから今度こそオーディアールらしい作品でパルムを! と期待したのだが『ANORA アノーラ』にさらわれ、リベンジと思ったオスカーもまた、とは至極残念。ではオーディアールらしさとは? と考えると“暴力的な状況下に咲く純情”かな。そしてそのバリエーションの豊かさが魅力なのだが、今回はミュージカルときた。しかも麻薬王が女性になって虐げられた女性たちを救う?! この発想がすごい。

キレのいい歌とダンスのZ・サルダナ、女と母の性に揺れる大人なS・ゴメス、陰影に富むカメラもいいが、何よりリアルにトランスジェンダー女性であるC・S・ガスコンが得難い。監督はガスコンに会うことで、エミリア像をシリアスにリアルに変えていったという。語り手はサルダナなので主演は誰?とも言えるが、貢献度はガスコンが上だろう。それだけにSNSでのヘイト発言スキャンダルは痛く、カンヌからセザールまでの受賞街道に画龍点晴を欠いてしまった。が、疑いなく本作は傑作なのだと私は言いたい。
公開中、ギャガ配給
© 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA
COPYRIGHT PHOTO:©Shanna Besson
米崎明宏 オススメ作品
『ナタ 魔童の大暴れ』
世界的大ヒットを記録中の話題作。中国の古典を基にした壮大で楽しいCGアニメーション

評価点:演出4/演技4/脚本4/映像4/音楽3
あらすじ・概要
魔王となる宿命を背負ってしまった少年ナタは、英雄となる運命の親友ゴウヘイと共に失った肉体を師匠の仙人・太乙真人の奮闘で一時的に取り戻すが、甦った2人にはさらなる困難が待っていた…。
2025年(4月上旬現在)ワールドワイドでぶっちぎりNo.1の大ヒットを記録中の中国製アニメーションで、『インサイド・ヘッド2』を抜き世界アニメーション史上最大のヒットになった注目作。一方でそれは一体どんな映画?とこれから興味を持つ方もいるかもしれない。ここで主人公となるナタは、中国の古典「封神演義」や「西遊記」などに登場するキャラクターで、道教で崇められる護法神でもある。これまでに『ナーザの大暴れ』(79)『ナタ転生』(21)など何度かアニメ化され日本でも紹介されている。

本作は実は『ナタ〜魔童降臨〜』(19)の続編。天界の秘宝「混元珠」が二つに分かれ、英雄となる運命を持つ「霊珠」をもたらされたゴウヘイと、魔王となる宿命を持つ「魔丸」を背負ったナタが奇妙な縁で親友になるが、結局戦いになり、2人が肉体を失い魂だけになる所で終わった前作のその後の物語で、肉体を取り戻す2人に訪れる試練と成長を描く。最新CG技術によって視覚的にも楽しめ、脇を固めるキャラたちも魅力的で、前作を見ていなくても十分堪能できる内容になっている。
公開中、面白映画配給
プロデュース&製作:可可⾖動画、彩条屋影業