映画製作の裏側も描く『MaXXXine マキシーン』は、物語の端々にハリウッド映画に関するネタが織り込まれています。本編を見る前に知っておきたい事柄をお教えしましょう。
(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)
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ホラー映画はスターへの近道?

画像: ホラー映画出演のチャンスを掴んだマキシーンだが…

ホラー映画出演のチャンスを掴んだマキシーンだが…

『MaXXXine マキシーン』の劇中、ミア・ゴス演じるマキシーンはポルノ映画界で名を上げたものの、本当のスターになりたいという夢を叶えるために、ハリウッド入りの第一歩としてホラー映画『ピューリタン2』のヒロイン・オーディションを受ける。そんなマキシーンは友人であるレンタルビデオ店の店長レオンに「ホラー映画出身の人気俳優を5人言ってみて」と問いかけ、映画通の彼が「ジェイミー・リー・カーティス、ジョン・トラヴォルタ、デミ・ムーア、ブルック・シールズ…」と言いかけたところで「マキシーン・ミンクス!」と自分もその仲間入りすることを高らかに宣言するシーンがある。

彼女の思惑は当たっていて、ホラーからスターに登り詰める若手俳優は少なくない。ちなみにジェイミー・リーは『ハロウィン』の主役だったが、トラヴォルタはデビュー作『魔鬼雨』(次に『キャリー』)、デミは『悪魔の寄生虫・パラサイト』、ブルックは『アリス・スウィート・アリス』と、余りメジャーでない作品に脇役として出演したところからキャリアが始まっている。

画像: 『ハロウィン』のジェイミー・リー・カーティス Photo by GettyImages

『ハロウィン』のジェイミー・リー・カーティス
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画像: 『キャリー』に出演した時のジョン・トラヴォルタ Photo by GettyImages

『キャリー』に出演した時のジョン・トラヴォルタ
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レオンが5番目に上げようとした名前は、もしかすると本作に私立探偵役で登場しているケヴィン・ベーコンだったかもしれない。彼は80年の『13日の金曜日』に殺される若者の一人で出演、84年に主演作『フットルース』で人気スターになった。またレオンの回答ではこの映画の舞台である85年の時点ですでに有名だった俳優名が上げられているが、ジョニー・デップも84年に『エルム街の悪夢』でデビューしているものの、有名になるのはもう少し先だ。

このようにその後もハリウッドではこの「ホラーからスターが生まれる」という公式が成り立つことはまぎれもない事実。名前を挙げるだけでも、レオナルド・ディカプリオ、ジョージ・クルーニー、レネー・ゼルウィガー、マシュー・マコノヒー、ジョシュ・ハートネット、シャーリーズ・セロン、ミシェル・ウィリアムズ、ヘンリー・カヴィルなどなど枚挙にいとまがない。そしてその最新版は『MaXXXine マキシーン』の前作『Pearl パール』に出演したデヴィッド・コレンスウェット(新作『スーパーマン』主演)なのかもしれない。

1985年のハリウッドはどんな時代だった?

画像: 85年当時のハリウッドの雰囲気も描かれる『MaXXXine マキシーン』

85年当時のハリウッドの雰囲気も描かれる『MaXXXine マキシーン』

『MaXXXine マキシーン』の背景になるのは第1作『X エックス』の6年後の1985年。映画スターを目指すマキシーンはハリウッドでポルノ業界入りしている。本作はこの時代の雰囲気をかなりリアルに再現しようとしている点も見逃せない。映画に登場するハリウッド大通りも実際に現在の通りを数日かけて80年代風に飾り付け再現したところで撮影する手法を取っている。

ではその頃のハリウッドはどんな作品やスターが受けていたのか。85年最大のヒット作といえば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、全米では夏シーズンの公開。同時期に『グーニーズ』もヒットして、共にスティーヴン・スピルバーグが製作という、まさにスピルバーグ映画がハリウッドを席巻した頃だった。

この年の夏に全米大ヒットした『バック・トゥ・ザ・フューチャー』

そうした華やかな面と裏腹に前述の「ナイト・ストーカー連続殺人事件」も起きており、夜のLAは謎の殺人鬼に脅える時代でもあった。その雰囲気を味わえるのは83年に製作された『エンジェル』というスリラーで、当時のハリウッド地区でロケされたこの作品は、昼は優等生で夜はコールガールという二面性を持つティーンの少女が連続殺人事件に巻き込まれるストーリーだ。

また『MaXXXine マキシーン』でエージェント役のジャンカルロ・エスポジートは85年に『マドンナのスーザンを探して』に出演。当時を振り返って「マイケル・ジャクソンやプリンスの時代だった。人々はパーティに明け暮れ、過去も未来も考えていなかった。今が楽しければいいという時代だ」と発言している。

『マドンナのスーザンを探して』(85)のマドンナ(右)
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人気沸騰中だったマイケル・ジャクソン
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さらには当時のハリウッドは男性優位社会そのもので、マキシーンのような若い女優にとっては生きやすい時代とは言えない。「この物語は大志を抱き、自分を信じ、世界が気づく前に自分たちの能力に気づいている女性のことを描いている」と主演と製作を兼ねるミア・ゴスは胸を張る。「マキシーンは80年代ホラーに出てくる典型的な女性たちと真逆で、頭が切れて周囲に悩まされないタイプ。自分のやり方を貫いて戦うことができるところに共感できるわ」と語っている。

映画史に残るベイツ・モーテルが登場!

『MaXXXine マキシーン』本編で映画ファンなら誰でも知っているハリウッドの名所が登場する。タイ・ウェスト監督の要望でテーマパーク、ユニバーサル・スタジオの園内でもロケが行われ、1960年のアルフレッド・ヒッチコック監督の名作ホラー『サイコ』で有名なベイツ・モーテルがそれだ。スタジオのトラムツアーで通りかかるこのノーマン・ベイツの屋敷に、追いかけて来た私立探偵のラバットから逃げるためマキシーンが入り込むのだ。

製作者の一人ジェイコブ・ジェフケがダメもとで『サイコ』のセットの中と外側での撮影許可をユニバーサルに求めると、『X エックス』のサウンドミキシングの時に知り合った設備担当者がかけあってくれて許可が出たのだ。「アルフレッド・ヒッチコック財団は脚本を読んで、この映画の中にヒッチコック作品の精神が受け継がれているのであれば問題ないと判断してくれたようだ」とジェフケは語っている。

『サイコ』に登場するあの屋敷も登場
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『MaXXXine マキシーン』のセリフにもあるが、舞台となった1985年の数年前に再度この屋敷のセットが撮影に使われている、それは1982年に作られた『サイコ2』のこと。22年ぶりの続編に気を良くしたのか、ユニバーサルは続いて86年に『サイコ3/怨霊の囁き』でも再度登場させている。さらにガス・ヴァン・サント監督の98年のリメイク版『サイコ』、2013年スタートのTVシリーズ「ベイツ・モーテル」でも登場する(90年のTV映画『サイコ4』だけはロサンゼルスのユニバーサルスタジオでなく、フロリダのスタジオで撮影)。しかし「サイコ」シリーズやヒッチコック関連作以外でこのセットが撮影に使用されるのは珍しいことなので是非チェックを。

『MaXXXine マキシーン』を語るタイ・ウェスト監督

画像: タイ・ウェスト監督 Photo by GettyImages

タイ・ウェスト監督
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『X エックス』から始まる3部作を撮り終えたタイ・ウェスト監督。しかしこれが3部作になるとは最初は思っていなかったそうだ。

「『X エックス』の脚本を書いている時、自分が『Pearl パール』という映画を撮ることになるとは考えていませんでしたが、立て続けに作り、これらを観客が気に入ってくれたので3作目を作ることになったんです。この3作は同じキャラクターが出てきますが、それぞれに独立した映画でもあります。ただ『映画』という共通の要素があります。1作目の登場人物たちは自分たちで映画を撮ろうとしていました。2作目では主人公が映画の世界を夢見て、その中に入ろうとします。3作目では実際にヒロインが映画界で仕事をします」

『MaXXXine マキシーン』の背景を1985年にしたのはどんな理由から?

「正確には1985年の夏のロサンゼルスに設定しました。連続殺人犯がつかまっていなくて、映画やビデオ、音楽に検閲が行われる時代でしたので、ユニークなものが撮れそうだと考えたんです。この3部作では『映画』のほかに『抑圧』『権威対リベラル』というテーマもありますから、これらを語る上でもぴったりだと思いました。脚本を書いている時はストーリーに集中しましたが、後からこの時代どんなものが流行っていたかとかラジオではどんな曲を流すべきかなど、いろいろ考えて形を作っていきました」

キャスト陣も前2作よりさらに豪華な顔ぶれになっているし、撮影の規模も大きくなっている。

「エリザベス・デビッキが演じた女性監督の役は、80年代のこの業界でも成功した人がいるということでマキシーンがお手本と考えるような存在にしたかったんです。彼女を始め著名な俳優たちには僕の方から声をかけさせてもらったんですが、みんな前2作を見てくれていて、小さい役でいいから3作目に出たいと言ってくれました。まさかと思ったし、ありがたかったですね。また撮影のスケールも大きくなったので大変でした。1作目のようにニュージーランドの農場で撮影すれば余裕があったでしょうが、今度はロサンゼルス・ロケです。時間も予算も常に足りません。ハリウッド・ブルバードを80年代の風景にしなくてはならないのですから作るのが格段に難しかったです。でもその価値はありましたよ」

A24の次回作はセバスチャン・スタン主演のあの話題作

このところ『異端者の家』『ベイビーガール』『終わりの鳥』そして『MaXXXine マキシーン』と新作公開が続くA24。好調が続く同スタジオの快進撃はまだ終わらない。

日本公開が7月11日と決まったのが、今年のゴールデングローブ賞でセバスチャン・スタンが主演男優賞(ミュージカル/コメディ部門)を受賞した『顔を捨てた男』(ハピネットファントム・スタジオ配給)だ。

今回A24が初タッグを組むのは気鋭のアーロン・シンバーグ監督。彼が生み出したのは誰も見たことがない“理想と現実が反転する世にも奇妙な不条理劇”。顔に極端な変形を持つ俳優志望のエドワードが、外見を劇的に変える過激な治療を受け、念願だった新しい顔を手にれる。しかし過去を捨て新生活を歩み出した彼の前に現われたのは、かつての自分の顔に似たカリスマ性のある男オズワルド(アダム・ピアソン)だった…。“顔を捨てた”エドワードの人生にどんな運命が待っているのか?こちらも楽しみだ。

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『MaXXXine マキシーン』
2025年6月6日(金)公開
アメリカ/2024年/1時間43分/配給:ハピネットファントム・スタジオ
監督・脚本:タイ・ウェスト
出演:ミア・ゴス、ケヴィン・ベーコン、ジャンカルロ・エスポジート、エリザベス・デビッキ、モーゼス・サムニー、リリー・コリンズ、ミシェル・モナハン

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