池田エライザ主演『リライト』は “時間もの”で高い評価を獲得している上田誠(ヨーロッパ企画)と数々の青春映画で若い世代から支持を集める松居大悟が初めてタッグを組み、法条遥の同名小説を実写映画化した作品である。300年後からタイムリープしてきた未来人と恋に落ちた主人公がタイムリープの謎に挑む姿を描く。上田とともに緻密な時間のパズルを再構築した松居大悟監督に作品について語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

ロジカルな脚本をエモーショナルに撮る


──本作の映画化の経緯からお聞かせください。

上田さんが僕のお芝居を見に来てくれたときや、僕が上田さんのお芝居を見に行ったときなどに飲んだりしているので、割とよく会って話をしていて、以前から「いつか一緒に映画を作りましょう」と話していたんです。そんな中で、あるとき「『リライト』という小説があるから、これを松居くんとやりたい」と言っていただきました。具体的に作品名が出てきたのは「リライト」が初めてだったので、それがうれしくて、すぐに読んでみました。

すると今までに読んだことがないような読書体験が待っていました。主観がどんどん変わっていき、イメージを浮かべるのが難しかったのです。「これをどうやって映画にするんだろう」と思う反面、「上田さんと一緒だったら、何かとんでもなく面白い作品にできるのではないか」とも思いました。そこから僕がさまざまな映画関係者に「『リライト』を上田さんの脚本で、僕が監督でやりたい」と売り込んでいったのです。


──監督ご自身が売り込みをされたのですね。大変でしたか。

小説を読むだけでは完成形がイメージしにくい作品です。しかも僕は青春群像や恋愛をテーマにした作品が多かったので、「ミステリー作品を撮りたい」といってもイメージが湧き辛いところがあったのでしょう。企画成立は難航し、動き出すまでに1~2年掛かりました。

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──おっしゃるように、ロジカルな内容をトリッキーに描くイメージがある上田さんと、監督はタイプが違う気がしますが、その辺り、ご本人としてはどう思われていますか。

僕は元々、上田さんの作品を見て、この業界に入りました。ですから根底の部分は同じつもりです。ただ、上田さんが時間モノ、SF的なモノをどんどん研ぎ澄ましていくのを見て、僕は「上田さんとは違う方向に進もう」と無意識で考えていたような気がします。ですから、現時点では真逆なイメージがあるかもしれませんが、スタート地点は同じだからこそ、上田さんは「僕のロジカルな本を松居くんがエモーショナルに撮る」と仰ってくれたのであり、僕は僕で「これまで培ってきたもので上田さんの脚本に挑む」ための機が熟したと思いました。


──上田さんの良さと監督の良さが真逆だからこその化学反応が起きて、この作品がより面白くなったのかもしれませんね。

そうなっていたらいいなと思っています。


──原作は法条遥さんの同名小説で、“SF史上最悪のパラドックス”として評判を呼んだ衝撃作です。しかも先程、監督がおっしゃっていたように、主観がどんどん変わっていくので、誰がいつ何をしたのかを把握しながら読むのはなかなか大変です。

話し手がどんどん変わっていき、今、誰がどうなっているのかということを理解するのが難しい上に、小説は、リライトされるたびに世界線がどんどん変わっていく。何度も読み返してしまいましたが、読み物としてはとても面白くて。ただ、映画として積み重ねるのは大変です。

そんなことを考えていたときに、上田さんから「映画では世界線が変わらず、1つの世界線の中での話にしたらいいのではないか」と提案がありました。それならば「上田さんの得意な時間的な辻褄は合っていて、それが後からわかっていくという話にリアリティができるし、自分にとっても表現の拠り所がある」と思いました。

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──今回は脚本を書く前、設定の構築からのスタートだったのですね。

構築して初稿を書き上げるまでがいちばん時間が掛かりましたし、大変でもありました。しかし、そこが映画にとっていちばん大事なエッセンスになったと思います。


──設定ができあがってから、脚本開発はどのように進めていかれましたか。

ロジカルに「こうなって、こうなって、こうなって、こうなる」というパズルは作れても、なぜそうなったのか、なかなか、その理由が見つからないのです。あるパズルに対して「ある人物が、ずっと片思いをしていた、というのはどうでしょうか」と僕が提案したら、「それはいいね」と上田さんが賛成してくれました。上田さんがロジカルに作ったものに、僕がエモーショナルな答えをつけていく感じです。


──今、監督がネタバレにならないように言葉を選んで話していらっしゃるのを聞いていて、辻褄が合うように状況設定ができ、それに理由がついたとしても、物語の流れの中で “どの段階でどこまでどう観客に見せるのか”の判断は難しかったのではないかと感じました。

そうなんですよ! それこそすべての辻褄が合っている脚本ができ上がり、読み物としては素晴らしいものでも、映像になるとそこに役者の動きやロケーションが足されるので、脚本の内容を少し減らしていかなくてはいけません。「モノローグが多すぎるから減らす」とか「セリフから説明を減らす」など、辻褄をしっかり合わせたものを作った上でそこから引き算をするのはけっこう大変でした。


──役者の動きやロケーションはそこまで雄弁なのですね。

キャラクターがセリフを言っている間、そのキャラクターが目線を動かすと、観客は「何があったんだろう」と考える余地が生まれます。しかし、そこに何があったのかを語るモノローグを入れてしまうと観客はそれを享受するだけになります。

この作品は余白というか観客に考える隙と時間を与えながら、ギリギリ半歩先を走っていくのがいい。観客と作品が並走してしまうと物足りなくなる。観客が追い抜いてしまうとミステリーとして成立しない。半歩先という絶妙なバランスをキープするよう意識していました。

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──モノローグに対する考え方は演劇でもあてはまるのでしょうか。

演劇で客席に向かってモノローグで話しても、そのニュアンスは映画と違い、情報が100%、観客に入ってくるわけではありません。モノローグは主人公の心情の言語化ですが、映画と違い、演劇ではモノローグでも佇まいに余地があります。また、そこが演劇の良きところでもあるのです。映画は近いサイズゆえ、情報が直接的に伝わってしまうというか。


──俳優が演じるといっても舞台と映画では全然違うのですね。上田さんは第一稿で力尽きたと語っていましたが、お読みになっていかがでしたか。その第一稿に手を入れるのは覚悟が必要だったのではありませんか。

小説とも違う、とんでもないパズルが完成していて、すべてが美しい旋律を奏でていると思いました。

これが演劇だったら、上田さんは直接の先輩にあたるので、遠慮して脚本を直すことにひるんでしまったと思います。しかし、映画という点ではそこは別と思えるというか、この作品では監督をするということもありましたから、「この作品の最終的な責任者は自分である」という大義名分の下、遠慮なく削除したり、直したりしました。上田さんもそれを楽しんでくれていた気がします。


──原作者の法条遥さんから何か要望はありましたか。

法条先生はとても寛容な方でした。だからこそ舞台となった土地を変え、「世界線は1つ」という脚色ができたのです。しかし、法条先生は1つだけこだわられたことがありました。原作には、とある人物が『あっかんべー』をする場面があるのですが、脚本には当初、その場面を入れていなかったので、「そこを残してほしい」と言われたのです。しかし、『あっかんべー』は読むと面白いけれど、本当にやってしまうと劇的過ぎて、役者にとって負担が大きい。その段階でそれをやる俳優部の方に相談したのですが、どうなったかは見てみてください。

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大人としての経験の積み重ねが動作の落ち着きとして出る


──美雪を池田エライザさんが演じています。高校時代の美雪のクラスでの一軍的な女子は大関れいかさんが演じた亜由美、山谷花純さんが演じた敦子、森田想さんが演じた唯で、美雪はむしろ一歩下がっていました。池田さんがそういう役どころを演じるのはちょっと意外でしたが、美雪は目立つことなくクラスに溶け込み、むしろモブキャラになっていました。何か演出のポイントがあるのでしょうか。

池田さんが演じることで一軍感が出てしまうのではないかということは僕も不安でした。ただエライザさんが「人と群れたがらないけれども、人嫌いではない。自分の時間が流れている」という感じの方で、しかも本が好きというご本人のパーソナリティを何となく知っていたので、その感じが美雪に宿ったら素敵な気がしていて。エライザさんからも撮影前に「美雪の感じはわかる」というふうにお話しできたのでよかったです。その上で、映画でご一緒したことのある大関れいか、山谷花純、森田想が一軍女子として出てくれたのは安心でした。

画像1: 大人としての経験の積み重ねが動作の落ち着きとして出る


──池田さんだけでなく、みなさんが高校時代とその10年後の姿を鮮やかに演じ分けています。演出のポイントがあるのでしょうか。

衣装とメイクで変えていた部分はありますが、基本的に大人パートは実年齢に近い人たちだったので、そこはお任せして、高校パートは反射速度を早く、機敏にしてもらいました。放っておくと実年齢になってしまうので、「そこはもっと反応を早く」みたいなことを逐一言っていましたね。大人としての経験の積み重ねが動作の落ち着きとして出てしまうのです。1つ1つの動きを早くするだけでも印象がぐっと変わります。


──「自分を若く見せたい」と思ったら、動作の反応を早くすれば良さそうですね(笑)。300年後からタイムリープしてきた未来人の保彦を阿達慶さんが演じています。阿達さんはクラスメイトとは少し違った空気感をまとうことにいろいろと試行錯誤したとコメントされていますが、映画初出演の阿達さんをどのように導かれていったのでしょうか。

お芝居どうこうというよりも、オーディションのときに感じた、ひとことで言えない、吸い込まれていくようなイノセントさ、純粋さ、ピュアさが唯一無二だと思って、保彦をお願いしました。

周りの人たちとは芝居経験が違うので、本人はかなり不安だったようです。そこで「とにかく、身を委ねて会話をしていれば大丈夫。一人で“こう演じよう”などといろいろ考えて、周りが見えなくなってしまったら、勿体ない。とにかく相手とフラットに会話していれば大丈夫」と伝えていました。それでも、撮影が始まるまではやはり不安はぬぐえなかったようですが、実際に現場に入ったら、自然と保彦になっていました。

画像2: 大人としての経験の積み重ねが動作の落ち着きとして出る


──保彦は未来人で、みんなとは違うという設定も助けになっていたのでしょうか。

そうですね。だからこそ阿達くんにしようと思った部分もありました。


──美雪と本や映画の話をして親しくしていた雨宮友恵を『ワンダフルワールドエンド』(2015年)にも出演された橋本愛さんが演じています。

橋本さんはそもそも脚本を圧倒的に読み込めていましたし、友恵像がはっきりでき上っていました。そこで、まずは橋本さんが考える友恵をひたすらに育ててもらって、現場でそれを見てみようと思い、役については任せていました。するとズレることはなく、むしろ僕たちのイメージを超えていってくれることの方が多かったです。さすがでした。

画像3: 大人としての経験の積み重ねが動作の落ち着きとして出る


──誰にでも優しく世話焼きで、同窓会にクラス全員を集めるべく、幹事として奮闘する酒井茂を倉悠貴さんが演じています。倉さんはいかがでしたか。

倉くんは無茶を頼んでも、それを果敢に乗り越えようとしてくれる人です。むしろ、ハードルを用意しないと器用にこなして終わってしまうことがあるので、負荷を掛け続けていました。

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──次に上田さんと組むときはどのようなジャンルの作品がいいですか。

僕が「これをやりたい」と提案するよりも、上田さんが作ってみたいものに僕が挑戦する構図の方がいいような気がします。もしくは『リライト』をご覧になった映画関係者の方が「この2人でこれを…」と持ってきてくれたものがいいですね。

<PROFILE> 
監督:松居大悟 
1985年、福岡県生まれ。劇団ゴジゲン主宰。2012年『アフロ田中』で、長編映画初監督。『ワンダフルワールドエンド』(15)でベルリン国際映画祭出品、『私たちのハァハァ』(15)でゆうばり国際ファンタスティック映画祭2冠受賞。 
その後『アズミ・ハルコは行方不明』(16)、『アイスと雨音』(18)、『くれなずめ』(21)など。テレビ東京系列「バイプレイヤーズ」シリーズを手掛けるほか、『ちょっと思い出しただけ』(22)で東京国際映画祭にて観客賞・スペシャルメンション受賞、日活ロマンポルノ50周年映画『手』でロッテルダム国際映画祭に正式出品するなど、枠に捉われない作風は国内外から評価が高い。

『リライト』6月13日(金)全国公開!

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<STORY> 
高校3年生の夏、美雪(池田エライザ)のクラスに転校生の保彦(阿達 慶)がやってきた。  
彼はある小説を読み、憧れて、300年後からタイムリープしてきた未来人だった。秘密を共有する二人はやがて恋に落ちた。   
運命が大きく動いたある日、美雪は10年後にタイムリープする。   
未来の美雪は1冊の本を見せ「あなたが書く小説。・・・絶対書ける」と告げる。それは保彦が未来で出会う小説――  
しかし10年後、いくら待ってもあの日の美雪は来なかった。なぜ来ない!?   あの夏のタイムリープの謎と秘められた感情が、10年の時を翔けて明らかになる――

<STAFF&CAST> 
出演:池田エライザ、阿達 慶、久保田紗友、倉 悠貴、山谷花純、大関れいか、森田 想、福永朱梨、若林元太、池田永吉、晃平、八条院蔵人、篠原 篤、前田旺志郎、長田庄平(チョコレートプラネット)、マキタスポーツ、町田マリー、津田寛治、尾美としのり、石田ひかり、橋本 愛 
監督:松居大悟 
脚本:上田 誠 
原作:法条 遥 「リライト」(ハヤカワ文庫) 
主題歌:Rin音「scenario」 
配給:バンダイナムコフィルムワークス 
©2025『リライト』製作委員会

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