『メガロポリス』解説
巨匠フランシス・フォード・コッポラが40年も前にローマ共和国の貴族ルキウス・セルギウス・カティリナが国家転覆を目論んだ「カティリナの陰謀」に関する本を読んだことをきっかけに着想した大作。21世紀、アメリカ共和国の大都市ニューローマを舞台に、すべての人々が幸福に暮らせる理想社会“メガロポリス”開発に挑む天才建築家の姿を描く。主演はアダム・ドライヴァー、ナタリー・エマニュエルら。

貧富格差が社会問題化している21世紀の大都市ニューローマ。天才建築家で都市計画局局長のカエサル・カティリナは、名門クラッスス一族の一員でもあり、伯父クラッスス3世の後ろ盾を受け、新都市メガロポリス開発を推進。しかし問題をカジノ建設で解決しようとする現実的な新市長キケロはカエサルと真っ向対立していた。そんなキケロの娘ジュリアはカエサルと対話し、メガロポリスの着想に共感し、彼と父との仲を取り持とうと考えるが…。
撮影中、父とは毎日メモのやり取りをして「その日のテーマ」を決めていたんです
──長年温めてきた超大作『メガロポリス』がいよいよ現実のものとなって、父上のフランシス監督はこの作品に並々ならぬ誇りを感じているそうですね。撮影中はどんなご様子でしたか。
「どの作品の現場でもそうなんですが、どうしてもフラストレーションを抱えてしまうことが多いですよね。うまく準備ができていないとか、大勢のスタッフやキャストをコントロールしなくてはならないとか、待ち時間が長いとか、いろいろな不都合が起きます。解決しなくてはならない問題が山積みなのはいつもどおりでした。なので正直終わった時はほっとしたという感じでした、父にとって野心的な企画だったので、クランクアップした時は安心感と充足感があったんですが、それもつかの間、すぐに編集作業に入って、とその後もずっと流れていくような感じでしたけど」
と、現実的な撮影現場の厳しい雰囲気を隠さず披露してくれたロマン。だがこんな裏話も教えてくれた。

「撮影中、父とは手紙というかメモのやり取りみたいなことをしていたんです。前もっていくつか用意した用紙から一つ“今日の言葉”を選んで、それを共有しました。例えば“正直”とかいうワードが選ばれたとしたら、今やっている仕事にその言葉に合わせた行動をするんです。“正直”を本日のテーマとして『誠実に仕事と向き合う』ようにするとかね。こうして毎日のルーティンに刺激を与えるようにしたんです」
こうした親子ならではの逸話を教えてくれたロマンも、かなり以前から父フランシスの本作にかける製作意欲を感じ取っていた。
──この映画の企画はかなり以前から存在し、集められた資料等もかなり多かったということですが、そうした資料に携わった思い出がありますか。
「父はかなり膨大な資料を集めていました。おっしゃるようにかなり前からです。私が高校を卒業した年ですから、1983年の夏休みに、父からバイトで雇われたんです。それは大きな台の上にカメラで投射したものをレーザーディスクにどんどん焼き込むという作業でした。今ならスマホで簡単にスキャンなどしてしまえばいいのですが、当時はそんなものはなかったので、連日その作業を続けました、その時にこの映画でアイコニックな存在として登場するクライスラービルなどが写ったものを焼き込んだ覚えがあります。元々父はこの建物が大好きだったんですが、本作でも特別で象徴的なものとして反映されていますよね。ニューヨークの街並みを撮影したものもたくさんありました。2001年に一度この企画が動き出したんですが、ご存じのように9・11の同時多発テロが起きて頓挫しました。実はそのころ撮影した魚市場の映像があり、今回の撮影で僕が撮った釣り人のシーンとその映像を重ねたところが本作に出てきます」
彼のこのエピソードからも、いかにフランシスが『メガロポリス』への情熱を長く秘めてきたかがうかがい知れる。
──今の言葉にも少し出てきましたが、セカンドユニットの監督を担ったあなたが担当したシーンはどのあたりでしょうか。またそうしたシーンでも父上の細かい要求などがあったのでしょうか。
「主要な俳優たちが絡むところは担当しませんでしたが、自分が担当したシーンで一番大きなものは夜間の荒れたエリアのシーンで、彫刻が崩れていくところです。ドライブのシーンですね。父には彫刻が崩れるところの絵コンテなどを描いて見せたんですが、きちんと見る時間があったかどうか。父はどちらかというとお任せしてくれるタイプで、これをやってくれと命令するという感じでなく、何かサプライズを期待している感じです。私を信頼して頼ってくれるやり方なんです」
大変ゴージャスな作品なので、もっと聞いてみたいことがいろいろあったが、惜しくもタイムアップ。ロマンはウェス・アンダーソン監督の新作『The Phenicinan Scheme』で共同脚本も務めており、この後(インタビュー時)本作がコンペ部門で参加するカンヌ国際映画祭が控えていて大忙しの様子だった。
ロマン・コッポラ
1965年4月22日、父フランシス・フォード・コッポラ、母エレノア・コッポラの元に誕生。妹はソフィア・コッポラ。監督作『CQ』(01)や共同脚本を担当した『ダージリン急行』(07)『ムーンライズ・キングダム』(12)、製作を担当した『ブリングリング』(13)などで知られる。『レインメーカー』(97)など父フランシスの監督作で第二班監督を担当することも。
『メガロポリス』Megalopolis
6月20日(金)IMAX®
他全国劇場にて公開!
2024年度作品/2時間18分/ハーク、松竹配給
監督・脚本:フランシス・フォード・コッポラ
出演:アダム・ドライバー、ジャンカルロ・エスポジート、ナタリー・エマニュエル
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