(撮影/久保田司 ヘアメイク/内藤歩 取材・文/柳真樹子)

――今回映画化された「オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ」。最初にドラマシリーズの時にお話を聞いて、どんな心境でしたか?
いちばん最初にお話を聞いたのが、映画『アジアの天使』でオダギリさんと一緒に韓国で撮影をしていた時です。日本人数人と韓国クルーとの撮影で、兄弟役ということもあり、毎晩のように一緒にご飯を食べて、お酒を飲んでいました。2020年の大きな時代の変わり目を感じている最中、オダギリさんに「この後、何か考えているんですか?」とふと伺った時に、「僕が犬の着ぐるみを着て、他の人からはシェパードに見えるのに、ハンドラーからはおじさんに見えてしまうお話を構想している」と。あまりに予想外の答えに笑い転げました(笑)。世界がこんなにも混乱に満ちている中、オダギリさんはそんなことをしようと考えているのか!と。その夜はコロナを忘れるほど笑いました。そしたら次の日に脚本を渡されて。どこまで本気なのか分かっていなかったんですが、「もし良かったら脚本を読んでみて欲しい」と言われました。
――前から考えてらしたんですね?
もう脚本を書かれていました。オダギリさんのことだから急に思いたって、僕に決めてくれたのかもしれません(笑)。
――脚本を読まれて、池松さんもすぐにやろうと思ったんですね?
自由で滑稽で。人生の困難を打破するような力があって。愛嬌があってユニークで。こんな作品にはそうそう出会えないし、オダギリ監督作品に参加できる機会はこちらが望んで得られるようなものではないと思いました。オダギリさんは笑いとユーモアでこの困難な時代を突破しようとしているんだなと感じました。また、そのことを面白がれる人たちがシーズン1からこの映画まで集まってきたのだと思っています。独創性や芸術性、自由さ……、自由を求める遊び心と言うのでしょうか。一流の俳優や、表現者たちが集まって真剣に笑いながら作っています。パンデミックで仕事がストップし、誰もが表現や創作を渇望する日々の中、「オリバーな犬」はその年の秋から撮影が始まりました。出演者もスタッフも、みんなが心から喜んでこの作品に参加しているのを間近で見てきました。
――ドラマシリーズも含めて、一平の役を演じるのは3回目です。同じ役を長く演じてみて、池松さん自体が一平に寄ってきた部分はありますか?
きっとあります(笑)。一平を演じ続けることは、それだけの時間と経験、記憶がそこに乗っていきます。この作品で過ごした時間や、物語の中で経験したこと、共演者やチームとの親密さも変化していきます。シリーズの物語をひとつひとつ体感する中で、フィクションの次元の物語がどんどん自分の中にも蓄積されていくんです。答えになるかわからないですが、今回の撮影で、急遽台本に書かれていない、一平とオリバーがテレビのインタビューを受けるというシーンを追加で撮ることがありました。映画の冒頭に出てくるあのインタビューのシーンは、ほとんどフリーでドキュメントで撮影しているんです。1時間近く撮って、そこから編集されています。
――え!? 1時間も一平みが出ちゃうものなんですね。
もちろん僕の中の一平の回路で話しているんですが、それは『池松の回答』か『一平の回答』かについてはもう既にどちらでもよいというか、どちらかではなく、どちらでもあって、池松が演じる一平から出てくるものが全てだと思っていました。オダギリさんに相談を受け、僕自身も決め込まずにそのシーンで起こることを映した方が、絶対に面白いと思っていました。オダギリさんとアナウンサー役の方がイヤホンをつけて、一平が質問に答えていくというやり方で撮影しました。そうしたことも、シーズンを経てきた延長にある遊びだと思います。僕だけでなく、2シーズンのドラマを経て映画を撮ることで、映し出されていることがたくさんあると思います。
