香港で広東語映画歴代No.1の動員数を記録し、日本でもロングランを続ける『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』によって再注目の香港アクション映画界から、新たな傑作『スタントマン 武替道』が誕生! 過去の香港アクション映画へのリスペクトとオマージュが詰まった本作の魅力をお届けします。(文・SYO/デジタル編集・スクリーン編集部)
カバー画像:『スタントマン 武替道』より ©2024 Stuntman Film Production Co. Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

アクション映画に情熱を注ぐ、熱き師弟の物語

冒頭から気持ちがいいほどの『ポリス・ストーリー』オマージュ(足払い、エスカレーターの滑り落ち、攻撃を受けてショーケースが割れる等々)で幕を開ける本作。その後も香港のブルース・リー像が登場するなど、名だたるアクション映画へのリスペクトが満ちている。ただ、『スタントマン 武替道』の真髄はそこだけにあらず! 『ツインズ・ミッション』(07)等で知られるスタントマンであり、本作で長編監督デビューを果たしたアルバート・レオン&ハーバート・レオンが注力したのは、世代の異なるスタントマン同士による師弟の絆。『ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌』(92)等で知られ、アクション監督としても輝かしいキャリアを誇るトン・ワイ(サム役)、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(24)で大ブレイクしたテレンス・ラウ(ロン役)の2人が織りなすドラマがとにかく熱い! 

過去のアクシデントを引きずり、効率主義な現代の撮影方式に四苦八苦する昔気質の師匠サムと、「I♡STUNTS」のTシャツを嬉々として着用し、アクションにひたむきで純粋無垢な弟子ロン。師匠は技術と経験を与え、弟子は情熱と勇気で返す──。伝説への敬意や後進への期待といった師弟の関係性をやがて超越し、表現者同士として共鳴し合う2人。互いに進路や家族関係の相談に乗り合ったり、お互いのミスを補い合ったりなど、両者が理解者として距離を縮めていくさまが映画づくりのプロセスと並行して描かれていき、「師弟」と「映画」の両輪が完成に向かっていく展開が実にエモーショナルだ。

さらに特筆したいのは、サムとロンのパワーバランス。サムがロンを導き、ロンが追随するだけでなく、コンプライアンスを無視するなど、人命を軽視しがちなサムをロンがいさめ、“命がけだから面白くなる”一辺倒だった価値観を更新させていく関係性にも重点が置かれている(サムの後輩であり、安全第一な撮影を心がける“狭間の世代”であるワイの存在が潤滑油として見事に機能している)。そしてまた、サムも自身の傷だらけの生きざまを次代に押し付けるのではなく、改善点も込みで継承しようと決意するのだった。経験値やリスペクトといった互いに欠けているものはありつつ、「面白いものを作りたい」という熱を同じくする両者のハートが融合し、チーム全体に伝播していくクライマックスは必見!

こうした師弟の描き方にも顕著だが、本作は「昔はよかった」と盲目的に懐古する映画ではない。安全と引き換えに傑作を生みだした《過去》、健全だがクリエイティビティの劣化が憂慮された《現在》──その長所と短所をフラットに見つめつつ、それでも香港アクション映画の火を絶やしたくないという切実な想いが隅々に行き渡っている。

ABOUT MOVIE

ヒット作『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』のプロデューサーを務めたアンガス・チャンが、今度は香港アクション映画を支えるスタントマンたちに敬意を表し、その熱き魂をスクリーンに宿らせた! 80年代に活躍したアクション監督サム(トン・ワイ)は、旧友である監督の頼みで20年ぶりにアクション映画の撮影に参加することに。若手スタントマンのロン(テレンス・ラウ)とともに現場入りするが、サムの昔ながらのやり方は主演俳優ワイ(フィリップ・ン)や制作陣に反発され……。価値観は違えどアクションに人生を懸ける者たちが、ぶつかり合いながら作品づくりに励む姿をエネルギッシュに描写。アクション映画愛をこれでもかと詰め込みつつ、作り手の功罪や時代の流れも真摯に見つめた噛み応えある力作に仕上がっている。

登場人物

サム・リー(トン・ワイ)

サム・リー(トン・ワイ)
伝説のアクション監督。ある事故により業界を追われていたが、旧知の老監督の依頼で渋々アクション監督を引き受けることに。

レイ・サイロン(テレンス・ラウ)

レイ・サイロン(テレンス・ラウ)
熱意のある若きスタントマン。ひょんなことから、サムの助手に起用される。

リョン・チーワイ(フィリップ・ン)

リョン・チーワイ(フィリップ・ン)
サムの元弟子で世界的アクションスター。サムがアクション監督を務める作品に主演する。

トン・ワイが語るテレンス・ラウ

彼はこの業界にとても敬意を持っていて、また、自分に対して非常に厳しいです。

監督が語るテレンス・ラウ

リスクを恐れない俳優。常に新しいアイデアを歓迎し、その時のベストなパフォーマンスを行えるよう自分を追い込んでいました。彼の持つエネルギーは新鮮さとバイタリティを本作にもたらしました。

アツい…アツすぎる! サムとロンの“師弟道”

画像: アツい…アツすぎる! サムとロンの“師弟道”

1 )本物を求めるあまりスパルタになりがちなサムは撮影初日から不評を買い、現場で四面楚歌に……。師匠の孤立状態をなんとかすべくロンは「俺なりにやらせて」と直訴し、機転を利かせてサポート。現場を円滑に回していく。師匠は教え、弟子は助ける―。アイコンタクトでお互いをたたえ合う“わかってる感”は、まさに唯一無二の師弟!

2 )アクション監督としての激務が原因で家庭が壊れた過去を持つサム。結婚を間近に控えた娘との関係を修復したいが、うまくできないでいた。それを知ったロンは、陶芸教室で働く娘に歩み寄るべく、陶器づくりを提案。一見頑固者に思われがちなサムがロンのアドバイスを素直に聞き、陶器づくりに励む姿が微笑ましい。師匠もまた弟子に学び、成長するのだ。

3 )周囲を犠牲にし、己のアクション道を貫いた結果、ある事件を起こしてしまうサム。他を省みない姿勢に、遂にロンが激高! 師匠だからといって委縮することなく「全ての人を脇役と軽視してる」「アンタの映画は面白い。クソ最高だ。でも現場は地獄だ」と厳しい言葉をぶつけるのだった。慕うからこそ、届くと信じて正そうとする。両者が築いた信頼の証ともいえる。

『スタントマン 武替道』
7月25日(金)公開
香港/2024年/1時間54分/ツイン配給
監督:アルバート・レオン&ハーバート・レオン
出演:トン・ワイ、テレンス・ラウ、フィリップ・ン、セシリア・チョイ
©2024 Stuntman Film Production Co. Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

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