第97回アカデミー®賞で、ブラジル映画初の国際⻑編映画賞を獲得したほか、主演⼥優賞、作品賞にもノミネートされた『アイム・スティル・ヒア』が8月8日(金)より公開される。この度、同作の監督を務めた名匠ウォルター・サレス監督(『セントラル・ステーション』『モーターサイクル・ダイアリーズ』)のインタビューが到着。祖国ブラジルとの関係、そして第82回ゴールデン・グローブ賞主演⼥優賞を受賞したフェルナンダ・トーレスへの想いを語っている。

“彼らの家は、私の思春期に深く刻まれた記憶の場所です”

1970年代、軍事独裁政権が⽀配するブラジル。元国会議員ルーベンス・パイヴァとその妻エウニセ
(フェルナンダ・トーレス)は、5⼈の⼦どもたちと共にリオデジャネイロで穏やかな暮らしを送っていた。だが、スイス⼤使誘拐事件を境に政情は⼀変し、抑圧の波が市⺠を覆ってゆく。ある⽇、ルーベンスは軍に連⾏され、そのまま消息を絶つ。突然、夫を奪われたエウニセは、必死にその⾏⽅を追い続けるが、やがて彼⼥⾃⾝も軍に拘束され、過酷な尋問を受けることとなる。数⽇後に釈放されたものの、夫の消息は⼀切知らされなかった。沈黙と闘志のはざまで、それでもなお、彼⼥は夫の名を呼び続けた──。⾃由を奪われ、絶望の淵に⽴たされながらも、エウニセの声はやがて、時代を揺るがす静かな⼒へと変わっていく。

画像: ウォルター・サレス監督

ウォルター・サレス監督

サレス監督が、⾃⾝の祖国ブラジルに16年ぶりにカメラを向けた最新作『アイム・スティル・ヒア』。本作で彼は、軍事独裁政権下のブラジルで、理不尽にすべてを奪われながらも沈黙せずに真実を問い続けた⼥性、<残されたもの>エウニセ・パイヴァの視点から映し出している。

少年時代、実際にパイヴァ家と交流があったというサレス監督。「彼らの家は、私の思春期に深く刻まれた記憶の場所です。⼾も窓も開け放たれ、世代や⽴場を越えた⼈々が⾃由に集うその空間は、独裁下のブラジルでは極めて特異で象徴的なものでした。あの家そのものが<こんな国にしたい>という理想の縮図だったのです」と語る。

1960年代初頭のブラジルは、監督が少年時代を過ごした時代。オスカー・ニーマイヤーやルシオ・コスタの建築、カエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジルの⾳楽、そしてシネマ・ノーヴォの映画運動に象徴されるように、⾃由で包摂的な未来を夢⾒ていた頃だった。「パイヴァ家は、その理想を⽇々の暮らしのなかで実践し、抵抗を続けていたのです」「しかし、1964年のクーデターは、彼らが体現していた理想を押し潰し、ルーベンスの悲劇的な運命へと⾄る過程の決定的な転換点となりました」と振り返る。

その後、運命に翻弄され続けたパイヴァ家の30年にわたる軌跡を、⺟エウニセの視点から描き出したウォルター・サレス監督。本作の原点には、実際のパイヴァ家の息⼦であり作家でもあるマルセロ・パイヴァの著書が「⺟エウニセの視点で書かれていた」ことがあるという。そして「30年に及ぶパイヴァ家の探求は、そのままブラジルの再⺠主化の歩みと重なっています。壊れた家族の記憶をたどる営みと、国家=ブラジルの記憶を再構築する作業が重なり合うこと──まさにそれが、この映画を撮ろうと思った根本的な動機でした」とも加える。さらに、エウニセという⼈物についても「運命に抗い、家⽗⻑制の枠組みを超えて、⾃らを再創造した存在」「静かで⼒強い抵抗の姿に深く惹かれました」と振り返っている。

第82回ゴールデン・グローブ賞主演⼥優賞を、ブラジル⼈として初めて獲得、同年、第92回アカデミー賞でもデミ・ムーアら錚々たるメンバーと並んで主演⼥優賞にノミネートされた、フェルナンダ・トーレス。サレス監督にとって彼⼥は「1995年の『Terra Estrangeira(原題)』以来、私にとって⻑年の協働者です」と思い返す。「彼⼥には、役を深く理解する優れた知性と、あらゆる安全網を排して⾶び込む勇気があります。また作家としても活動し、ブラジルの政治や⽂化をめぐる議論においても重要な発⾔を重ねてきました」「今回の作品では、彼⼥と⺟フェルナンダ・モンテネグロ、プロデューサーのダニエラ・トマス、そして私という“映画の家族”が、実際の家族の物語をともにかたちにしました。そこに、新たな才能も加わり、多世代の視点が交差する作品となっています」と感謝を贈っている。

画像: エウニセ(フェルナンダ・トーレス)

エウニセ(フェルナンダ・トーレス)

フェルナンダ・トーレスの実⺟で、フェルナンダ・モンテネグロ演じる代筆業の⼥性と孤独な少年が⼼を通わしていく姿が染み渡る感動を呼び、ベルリン国際映画祭で⾦熊賞を獲得、サレス監督が世界的に注⽬されるきっかけにもなった『セントラル・ステーション』(1998)。さらに、若き⽇のチェ・ゲバラが親友と共に南⽶各地を旅し、貧困や差別に触れることで⾃⾝のアイデンティティを模索、第57回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004)。これまでサレス監督は、旅や時間の流れを通して<遠くの誰かの物語が、実は⾃分⾃⾝と地続きである>という感覚を観客に呼び起こし、⼀貫して⼈間と社会をつなぐ語り⼿として物語を描き続けてきた。

画像: “彼らの家は、私の思春期に深く刻まれた記憶の場所です”

そんな彼が「パーソナルな映画」だと吐露、新たに現代のブラジルの歴史を⾒つめ直す作品でもある『アイム・スティル・ヒア』。この機会にぜひ劇場でご鑑賞いただきたい。

『アイム・スティル・ヒア』
8月8日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
配給︓クロックワークス
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