ルネ・クレマン(フランス出身)
ドキュメンタリー作家出身の演出タッチを生かした

ルネ・クレマン
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『太陽がいっぱい』(60)などサスペンスの名手として知られるルネ・クレマンだが、映画監督になる前は陸軍でドキュメンタリー製作に携わっていた。長編初監督作『鉄路の闘い』(46)ではその経験を生かし、ドイツ占領下のフランスでレジスタンス活動に加わった鉄道労働者たちの戦いをドキュメンタリータッチで描写。これがカンヌ国際映画祭で国際審査員賞と監督賞を受賞し、一躍注目の存在となった。ドキュメンタリー経験者のクレマンは、『パリは燃えているか』(66)でも当時まだ戦時中の景観を保っていたパリの街並みをカメラに収めた。これは、1944年8月にドイツ軍の占領からパリを解放したレジスタンスの戦いを、米仏独のオールスターキャストで描いた超大作だ。

『パリは燃えているか』
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このほかクレマンは、大戦末期、潜水艦で逃亡を図ったナチス高官たちの運命を描いた『海の牙』(47)、戦災孤児の悲劇を描いた『禁じられた遊び』(52)なども手掛けている。
リチャード・アッテンボロー(イギリス出身)
物量作戦的な戦争大作にも批判精神が宿っている

リチャード・アッテンボロー
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1944年9月、ドイツ進攻への橋頭堡確保を目的に、連合軍が実施した“マーケット・ガーデン作戦”の顛末を描いたオールスター大作が、リチャード・アッテンボローの『遠すぎた橋』(77)だ。巨費を投じ、圧倒的な物量で当時を再現した映像は迫力満点。その反面、作戦が失敗に終わったこともあり、戦争への批判精神が込められている点が、後に『ガンジー』(82)や『遠い夜明け』(87)を手掛ける人道主義者アッテンボローらしい。

『遠すぎた橋』
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アンジェイ・ワイダ(ポーランド出身)
対独レジスタンスに参加し生涯を通して戦争の悲劇を問うた

アンジェイ・ワイダ
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1926年、ポーランドに生まれたアンジェイ・ワイダは10代のとき、第二次世界大戦で祖国がドイツに占領され、レジスタンスに参加した経験を持つ。監督デビュー作も、反ナチ運動に加わった若者たちの苦悩を描いた『世代』(55)だった。同じくポーランドの反ナチ運動を題材にした『地下水道』(57)、『灰とダイヤモンド』(58)がそれぞれカンヌやヴェネチアで受賞したことから、併せて”抵抗三部作“と呼ばれ、ワイダの代表作となる。なお、『世代』にはロマン・ポランスキーも出演。
その後も映画を通してポーランドの歴史を見つめ続けたワイダは、80歳を過ぎた2007年、ナチス占領下で多数の軍人が虐殺された事件を題材にした『カティンの森』を発表。実は、ワイダの父親もこの事件の犠牲者だった。1990年には、孤児院を設立してユダヤ人の孤児たちをナチスから守ろうとした医師の実話に基づく『コルチャック先生』も手掛けている。

『灰とダイヤモンド』
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ニキータ・ミハルコフ(ロシア出身)
ロシア人の視点から戦争の残酷さを大きなスケールで描く

ニキータ・ミハルコフ
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『太陽に灼かれて』(94)がカンヌ国際映画祭審査員グランプリに輝いたロシアの巨匠ニキータ・ミハルコフは、その続編『戦火のナージャ』(10)と『遙かなる勝利へ』(11)で、第二次世界大戦中のドイツとソ連の激戦を背景に重厚な人間ドラマを作り上げた。独裁者スターリン政権下で生き別れた父と娘の物語を通して、兵士も民間人も関係なくいとも簡単に命が奪われていく様は、戦争の残酷さをまざまざと見せつける。特に『戦火のナージャ』はロシア映画史上最大の予算を投じたと言われ、スケールの大きな映像は圧巻の一語。

『戦火のナージャ』
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フレッド・ジンネマン(オーストリア出身)
映画を通じて戦争が人間に与える影響を描いた

フレッド・ジンネマン
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反戦、反権力を貫き、リベラル志向だったフレッド・ジンネマンは、映画を通じて戦争が人間に与える影響を描き続けた。『地上より永遠に』(53)は、真珠湾攻撃前夜のハワイを舞台に、軍隊を取り巻く人間模様とその闇を暴いた問題作で、アカデミー賞作品賞、監督賞など8部門を受賞。このほか、ナチスによって母親と引き裂かれ、心を閉ざした少年がアメリカ兵との交流を通じて人間性を取り戻していく『山河遥かなり』(48)、劇作家リリアン・ヘルマンの回顧録を基にした女性劇作家と反ナチ運動に加わる友人との女性同士の友情物語『ジュリア』(77)がある。

『地上より永遠に』
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8月1日(金)公開 『ジョニーは戦場へ行った』『野火』
終戦80年企画 戦争の意義を苛烈に問いかける2大衝撃作が4K版で蘇る!
終戦80年を迎える今夏、「戦争の悲惨さ」「人間の尊厳」を描き、国内外の各賞を受賞した2作品が4K版で初披露となる。

『ジョニーは戦場へ行った』
©ALEXIA TRUST COMPANY LTD.
まず『ジョニーは戦場へ行った』は第一次世界大戦を舞台に、戦場で触覚以外の全感覚と四肢を失うという大きな悲劇に見舞われた青年兵士の視点から、戦争の不条理を暴く反戦小説の映画化で、作者のダルトン・トランボが自らから脚色、監督した1971年製作のアメリカ映画。第24回カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリなど三冠に輝く問題作。

『野火』
©KADOKAWA 1959
もう一つは第二次世界大戦下のフィリピン、レイテ島で病魔を患った中年日本兵士が飢餓と孤独に苦しんだ末に、目の当たりにした陰惨な戦場の風景を描く『野火』。大岡昇平の自らの体験を基にした原作を、名匠・市川崑が映像化した邦画で、第14回ロカルノ国際映画祭でグランプリなどを受賞した1959年の名編。共に配給はKADOKAWA。
この夏は映画史に残るこの2つの問題作で「戦争の悲惨さ」を再考してみては?