


Q:マリア・シュナイダーの役を演じることになった経緯はどのようなものでしたか?
最初に脚本を読んだときから興味を持ち、マリア役のオーディションを受けました。しかし、ジェシカ・パルー監督からは、「マリアにあまり似ていないから」という理由で一度断られてしまいました。マリアはともて複雑で、感情豊かなキャラクターなので、すごく演じてみたかったのですごく残念でした。それから一年くらい経ったころ、「脚本をあなたのために書き直したので、ぜひ読んで欲しい」とパルー監督から連絡が入ったんです。結果、私が選ばれたんです。
Q:『ラストタンゴ・イン・パリ』を初めて見た時の感想を教えて下さい。また作品が抱えている問題を知ったのは、いつ頃ですか?
『ラストタンゴ・イン・パリ』を初めて観たのは奇しくもマリアと同じ19歳でした。問題のシーンのことは、ある映画監督から聞いていました。興味ぶかいエピソードがあるんです。パリのサン=ジェルマン地区にイザベル・ユペールと彼女の息子たちが経営する「Christine 21」という名画座があるのですが、『タンゴの後で』の初日に「Christine 21」では『ラストタンゴ・イン・パリ』を上映していたんです。マリア・シュナイダーについての新しい視点を紹介している最中に、同じ街でこの古い作品をいまだに上映しているんだなと、感慨深い気持ちになりました。
Q:マリア・シュナイダーを演じたことで、この撮影現場で起きた事件に対する考え方は変わりましたか?
そうですね。理解がかなり深まったと思います。問題のレイプシーンを演じたとき、私は本当に涙が流れました。撮影スタッフ達も、モニターでその映像を見る気にもなれないくらいにショックを受けていました。撮影は、『ラストタンゴ・イン・パリ』時代のマリアが出てくるシーンを最初に撮影したのですが、彼女への暴力的な扱い、彼女が感じた裏切りを私も感じることができ、撮影の最後の最後まで彼女を演じきることができました。
Q:マーロン・ブランドを演じたマット・ディロンとは、作品についてどのような意見を交わしましたか?
彼とは撮影の数日前に会って、いくつかのシーンをどのように演じるべきかを話し合いました。彼は非常に親切で寛大な人です。元々マットはマーロン・ブランドを役者として崇拝していましたが、バターのシーンの撮影が終わったときには、「どうしてブランドがこんな事をできたのか、本当にわからない」と言っていたのを覚えています。ある意味、彼はブランドのイメージを脱構築できたのではないでしょうか。
Q:日本でも、『ラストタンゴ・イン・パリ』のような撮影現場でのトラブルが次々に明るみになり、社会問題になっています。このような権力勾配による被害が起きないように改善していこうという動きも起きています。フランスではどのような対策が行われていますか。
フランスの撮影現場で、私たちは以前よりも守られていると思います。これまで被害に遭った人達の証言は度々無視されてきましたが、それが変わってきています。フランスではインティマシー・コーディネーター制度が導入され、実際にどんなことが撮影現場で起こっているのか、性的や暴力的なシーンの調整だけではなく、スタッフから役者に対する言葉の暴力や精神的な暴力についてのケアもその対象になっています。
第49回セザール賞の授賞式(2024年2月)で、ジュディット・ゴドレーシュが14歳の時にブノワ・ジャコー監督とジャック・ドワイヨン監督から性的暴行を受けたと告発したことが大きな転換点となりました。特に今、子役をキャスティングする場合はとても慎重でなければなりません。『ラストタンゴ・イン・パリ』への出演時、マリア・シュナイダーはまだ19歳で人間的に成熟していない状態でした。しっかりと自己を確立できていないので、例え現場で変なことをされても「これは嫌だ」と拒絶できなかったことからも、彼女には保護が必要だったと断言できるのです。
フランスの撮影現場は#metoo運動等の影響で、少しずつですが、悪い習慣が改善されてきています。ただ、昔のメカニズムはまだ完全に壊されてはいません。また、被害者がトラウマを受けた時にどのような事が起こるのかは、今まであまり深く捉えられることはありませんでした。トラウマを受けた人は、恥ずかしい、自分が悪い、後ろめたいと思いがちですが、実はそうではないんです。恥と後ろめたさを感じるのは加害者であるべきなのだということを、私達はこの映画で伝えたいのです。
『タンゴの後で』
9月5日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
配給:トランスフォーマー
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