文化も性格も異なる二人が出会うことで物語が生まれる
──本作はティボとジミーという正反対の育ちをしてきた兄弟の話です。物語の着想のきっかけを教えてください。
私は音楽に強い関心を持っています。音楽を通じて人々を結びつけるテーマに惹かれ、今回は兄弟を主人公にしようと考えました。生き別れになった兄弟が再会する物語です。しかも二人はまったく異なる社会階級に属し、文化も違う。こうした相反する世界が出会うテーマは、前作『アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台』でも扱いました。囚人たちが演劇をするという、一見相容れない文化の融合です。今回はその関心を兄弟や家族、そして音楽に置き換えました。

──ティボはパリ近くの高級住宅地で育ち、ジミーはワランクールという北フランスの架空の田舎町で育ちました。ティボとジミーというキャラクターの性格や考え方を作り上げる上で、地理的要因に何か影響を受けていますか。
二人はまったく異なる社会階級の家庭で育ちました。フランス北部には独特の文化があり、コミュニティを大切にし、温かくシンプルで感じの良い人々です。私は北部出身ではありませんが、今回の撮影で実際にその人柄を体験しました。作品に登場する人々はまさに北部の人々の実際の姿です。
一方、パリは多様な人々が混ざり合う場所で、北部のように一律に温かいとは限りません。ティボはエリート階層に属する人物ですが、嫌味なカリカチュアにはせず、北部の人々と出会う中で心を開いていく姿を描きました。ジミーは人生に苦労し、心に傷を抱えた寡黙な人物です。文化も性格も異なる二人が出会うことで物語が生まれます。

――ティボがジミーの楽団に初めて行った場面、誕生日パーティーで皆が歌うシーンは印象的でした。
誕生日にみんなで歌うのは北フランスでは自然な習慣です。人と一緒にいる喜びをシンプルに表現できる場面だと思いました。北部の人々はお祭り好きで、知らない人をも巻き込み、一緒に楽しむ心があります。その空気を描きたくて誕生日のシーンを選びました。
歌われた曲には北フランスの方言が含まれており、ティボが新しい世界に受け入れられたことを象徴しています。
──ティボをフランスの名優バンジャマン・ラヴェルネが演じています。なぜ彼だったのか、そして、彼が演じたティボは監督からご覧になってどうだったのかを教えてください。
彼はフランスを代表する俳優で、舞台でも活躍しています。教育や品格、そしてすでに持っている資質がティボに近いと感じ起用しました。彼には自然にその役を体現できる力があります。さらに彼は音楽的な素養があり、良い耳を持っていました。今回は世界的指揮者という役柄でしたが、数か月間実際の指揮者から指導を受け、本当に信憑性のある演技をしてくれました。作品の中には彼が本当に指揮をしている映像も取り込んでいます。

──ジミーを監督の前作『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』にも出演したピエール・ロタンが演じています。ジミーは彼で当て書きしたとのことですが、なぜピエール・ロタンだったのでしょうか。
彼はフランソワ・オゾン監督の最新作『秋が来るとき』に出演し、次回作にも出演が決まるなど、注目の俳優ですが、監督からご覧になって、どのような魅力を持つ俳優なのでしょうか。**
彼とは前作からの縁があり、今回は彼を念頭にジミーを当て書きしました。自然に持っている雰囲気がジミーにぴったりでした。ピエールはまだ荒削りで不安定な部分がありますが、それがジミーの苦悩を抱えたキャラクターと重なります。彼はピアノの経験はあるものの、トロンボーンは初めてでしたが、数か月の練習でオーケストラと共演できるほどの腕を身につけ、役を見事に体現してくれました。
バンジャマンとピエールは全然違ったタイプの俳優ですが、2人ともすごく意気投合していました。

──ラヴェルの「ボレロ」がとても効果的で印象的な使われ方をしています。監督が「ボレロ」を選んだ意図と込めた思いをお聞かせください。
クラシック音楽で誰もが知っている曲といえば「ボレロ」でしょう。音楽に詳しくない人でも必ず耳にしたことがある曲です。物語後半では吹奏楽団、オーケストラ、観客が一体となります。「ボレロ」には人を結びつける力があり、全員が心を一つにできる象徴として選びました。

──監督の次回作について教えてください。
すでに撮影と編集が終わっています。舞台はグリーンランドで、若いフランス人女性が失踪し、家族が行方を追う物語です。これまでの作品とはトーンが異なり、よりサスペンス性のある作品になっています。ただし今回も家族が中心。作品タイトルは『greenland(英題)』です。

<プロフィール>
監督、脚本:エマニュエル・クールコル
俳優としてのキャリアのほかに、2000年代から徐々に脚本執筆を始め、2012年に初の短編作品「Géraldine jet’aime」を監督。その後、初の長編作品『アルゴンヌ戦の落としもの』(2016)を、ロマン・デュリス、グレゴリー・ガドゥボワ、セリーヌ・サレット出演で、『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』(2020)を、カド・メラッド、マリナ・ハンズ、ロラン・ストケル出演で監督した。『君を想って海をゆく』(2009/フィリップ・リオレ監督)では脚本を担当し、セザール賞にノミネートされたほか、ジャック・プリヴェ―ル脚本賞を受賞している。
『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』は、2020年のカンヌ映画祭に公式出品され、アングレーム・フランス語映画祭で観客賞、第33回ヨーロッパ映画賞最優秀コメディ作品賞を受賞した。本作は第77回カンヌ映画祭公式出品され、サン・セバスチャン国際映画祭で観客賞を受賞。第50回セザール賞では7部門ノミネート(作品賞、主演男優賞(バンジャマン・ラヴェルネ)、助演女優賞(サラ・スコ)、新星男優賞(ピエール・ロタン)、脚本賞、音響賞、編集賞)を果たした。
『ファンファーレ!ふたつの音』9月19日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
<STORY>
世界を飛び回るスター指揮者のティボ(バンジャマン・ラヴェルネ)は、ある日突然、白血病と診断される。ドナーを探す中で、自分が養子であること、そして生き別れた弟ジミー(ピエール・ロタン)の存在を知る。かつては炭鉱で栄えた町は今は寂れ、仲間との吹奏楽団が唯一の楽しみであるジミー。すべてが正反対の二人だが、ティボはジミーに類まれな音楽の才能を見出す。これまでの運命の不公平を正そうと、ティボはジミーを何がなんでも応援することを決意する。やがてその決意は、二人の未来、楽団、そして町の人々の運命をも思いがけない方向へ動かしていく──。
<STAFF&CAST>
監督・脚本:エマニュエル・クールコル
共同脚本:イレーヌ・ミュスカリ
出演:バンジャマン・ラヴェルネ、ピエール・ロタン、サラ・スコ
フランス/2024年/103分/仏語/カラー/5.1ch/原題:En Fanfare /英題:THE MARCHING BAND/日本語字幕:星加久実/字幕監修:前島秀国
配給:松竹
© 2024 – AGAT Films & Cie – France 2 Cinéma ©Thibault Grabherr