写真:Everett Collection/アフロ
ホラー映画をメジャーな存在にした『13日の金曜日』
なんと『13日の金曜日』初公開から45年も経つとは。当時新卒の編集者だった私が、ワーナーブラザースの試写室でこれを見た衝撃をありありと思い出す。
キリスト教徒ならぬ大半の日本人が、キリスト処刑前日の聖金曜日、最後の晩餐13人目のユダに纏わる西洋の迷信「13金」を、誰もが認知するきっかけとなったのがこの映画。また映画ファンならずとも、ホラーと言えばこの映画、例え見たことが無くても。事ほど左様に、ホラー映画を一気にメジャーな存在にしたのが「13金」シリーズなのだ。
いや、メジャーな名作ホラーはその前からあった。『サイコ』から『ローズマリーの赤ちゃん』『エクソシスト』等々数限りない。より厳密に言うなら、血飛沫、血塗れのスラッシャー、スプラッタホラー映画を、アメリカン·メジャー·スタジオが一気にポピュラー化させたのである。
批評家に嫌われ、観客に愛された低予算ホラーが開いた新時代
それまで、独立系低予算のスプラッタはニューヨークなど大都市の深夜、小便臭い劇場でミッドナイト·カルトとして、熱狂的マニアに支えられひっそり公開されてきた。MoMAに永久保存される『悪魔のいけにえ』だって初公開はテキサスのドライブインシアターである。
「13金」も一作目はB級ホラーとして製作されたが、これに目をつけたパラマウントとワーナーのメジャーが権利の奪い合いとなり、米国内配給はパラマウント、海外配給はワーナー(故に日本では一作目のみワーナー)に落ち着く。この手の映画では初のメジャー·スタジオ配給、狙い以上の大ヒット。二作目以降はパラマウントが製作に大きく関わる事に。
大メジャーが本格的にスプラッタに血と手を染め始めるのである。あの名門がこんな映画を! 当初から国内外、評論家のウケは悪く、惨憺たる批評だったが、一流劇場での公開に観客は詰めかけた。
低予算で作れるホラー、スプラッタは、それ故若手、新しい才能が芽を出しやすいジャンルで、私は好きだし注目していた。鬼才監督アベル・フェラーラだって『ドリラー・キラー』という極悪スプラッタで耳目を集めたではないか。まぁ確かに、『死霊のはらわた』でサム・ライミが世に出たのとは違い、全くの新人監督に撮らせている訳ではない「13金」から、たいした才能が排出されたとは言い難いが。
「13金」シリーズが定着させるリア充狩りのカタルシス
惨劇のあった湖クリスタルレイク。人里離れたとこに、行っちゃあいけねぇよ、と諌める老人をシカトし、バカ騒ぎ繰り広げるパリピな若者たち、が次々と惨殺されて…。これは「13金」以前、『悪魔のいけにえ』から現在の『X エックス』までカバーする、B級ホラーのテンプレートではあるのだが、「13金」シリーズがこれを完全に定着させる。
この無軌道なバカ者、いや若者たちがホッケーマスクのジェイソンに殺される。が、意外にもジェイソンが暴れ回るのは『PART2』から。原点は、水頭症で苛められて水死したジェイソン、彼の母親による復讐だった。ジェイソンは鬼畜な加害者ならぬ、寧ろ可哀想な被害者なのだ。母の狂った愛情が生んだ惨劇である。『PART2』からはジェイソンが謎に復活(笑)、不死の怪物として大暴れする事とあいなるが。
まぁ犠牲となる若者も、イチャイチャチョメチョメする奴らから殺されてゆき、いわばリア充に対するイジメられっ子の逆襲として、世のオタク連中から連帯の同情と喝采を浴びたのであろう。合体したカップルが、ベッドの真下から串刺しになる場面など拍手拍手なのだ(笑)。B級ホラーにエロはつきもの。只ここでまだマスクは被っておらずズタ袋。ホッケーマスクで完全武装するのは『PART3』から。しかも3Dで製作とは、さすがメジャーと言うべきか。ここに、大衆文化で最も認知されたホラーのイメージが確率するのであった。
B級ホラーの真髄を築いた「13金」後期作品が放った異端の輝き
以降、4作目『完結編』や5作目『新・13日の金曜日』『PART6╱ジェイソンは生きていた!』にはジェイソンと対抗するキャラ、トミー・ジャービスが登場。『PART7╱新しい恐怖』ではサイキック少女など次々と対決者が現れる。『PART8╱ジェイソンN.Y.へ』で遂にクリスタルレイクを離れたのが災いしたか、シリーズ人気に翳りが見え始め、パラマウントは映画権を『エルム街の悪夢』のニューラインシネマに譲渡。これが後の番外編『フレディVSジェイソン』(2003年)へと至るのだが、その間に作られた9作目『ジェイソンの命日』は最早ゾンビ? パンデミック風味、10作目『ジェイソンX』はSF的に変貌するのだ。
オリジナルパターンからは離れているが、9作目の全くの新人監督のグロを極めんとする挑戦性、宇宙に跳んでまさかのデヴィッド・クローネンバーグが出演する10作目の遊び心を、私は嫌いではない。広く浅く間口をメジャーに広げたものより、こうした狭く深くニッチな狙い目こそ、B級ホラー本来の持ち味ではなかろうか。その辺りのニュアンスを、2009年にリメイクされた大作『13日の金曜日-FRIDAY THE 13TH-』の薄口加減が物語ってはいまいか。