世紀を超えて愛され続けるSF映画。世界初の長編映画としてCGを本格導入した『トロン』最新作『トロン:アレス』の公開や、『ターミネーター』の40周年リバイバル公開など今も話題は尽きません。SF映画の起源とされる『月世界旅行』の誕生から120年以上。その長い歴史の中でSF映画はどのような発展を遂げてきたでしょうか。名作年表でその軌跡を一望します。(文・平沢薫/デジタル編集・スクリーン編集部)
カバー画像:『2001年宇宙の旅』より Photo by Metro-Goldwyn-Mayer/Getty Images

1900〜1960年代「SF映画の誕生と黄金期」

60年代には若者文化を背景にSF映画が大飛躍

史上初のSF映画が生まれたのは、ハリウッドではなくフランス。マジシャンでもあったジョルジュ・メリエスが監督・脚本・主演を務めたモノクロのサイレント映画『月世界旅行』(1902)は、天文学者たちが宇宙船で月に行き、月の住民たちに遭遇するというSFファンタジー。すでに特殊メイクや多重露光などの特殊効果が使われている。ドイツでは、フリッツ・ラング監督の近未来ディストピアSF映画『メトロポリス』(1927)が誕生。近未来都市のデザイン、女性型ロボット、マリアの造形は今も大きな影響力を与え続けている。

ハリウッドでは、ウィリス・オブライエンが特殊効果を手がけたモンスター映画の名作『キング・コング』(33)が誕生。そのオブライエンの弟子、レイ・ハリーハウゼンが、ストップモーション・アニメによるSF映画、UFOが街を破壊する『世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す』(56)、金星から来た生物がローマの円形闘技場で暴れる『地球へ2千万マイル』(57)などを生み出していく。

並行して、米ソの冷戦や宇宙開発競争の萌芽を背景に、宇宙SFも登場。宇宙人が地球に襲来する『地球の静止する日』(51)や『宇宙戦争』(53)が登場。未知の惑星に到着する『禁断の惑星』(56)では、博士の助手のロボット、ロビーも人気を集めた。

60年代には、ベトナム戦争への反対運動や、従来の文化とは違う新たな若者文化を背景に、SF映画が大飛躍。中でもスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(68)は、ビジュアルと物語の双方が革新的。最先端の特殊効果技術によるスターゲートの描写は観客に衝撃を与え、物語は人間存在をめぐる深い洞察に満ちている。また、進化した特殊メイクと風刺的な物語を併せ持つ『猿の惑星』(68)が大ヒット。人間の体内を冒険する『ミクロの決死圏』(66)、レイ・ブラッドベリ原作のディストピアSF『華氏451』(66)、コミック原作のセクシーなヒロインSF『バーバレラ』(68)などユニークなSF映画が多数製作されていく。

『月世界旅行』(1902)

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世界初の本格的SF映画とされる短編作品。天文学者たちが大砲で月へ向かい、奇想天外な冒険を繰り広げる。月面にロケットが突き刺さるシーンは映画史に残る象徴的イメージ。

当時の関連トピック:ライト兄弟が有人飛行成功(1903)

『メトロポリス』(1927)

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SF映画の原点にして頂点といわれるドイツの無声映画。未来都市を舞台に支配階級と労働者階級の対立を描く。巨大な摩天楼群や機械文明の映像美は、後世の作品に受け継がれた。

当時の関連トピック:電気・機械文明の急速な普及(1920年代)

『フランケンシュタイン』(1931)

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SFホラー史における初期の最重要作のひとつ。科学者フランケンシュタインが禁断の人造人間を生み出す。怪物の特殊メイクは「フランケンシュタイン」のイメージを決定づけた。

当時の関連トピック:大恐慌による社会不安(1930年代初頭)

『キング・コング』(1933)

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探検隊が未開の孤島に渡り、巨大な怪獣キング・コングと遭遇する特撮SF映画の名作。モンスター映画の先駆けで、ストップモーションやミニチュア撮影などで斬新な映像表現を実現。

当時の関連トピック:トーキー映画の普及(1930年代)

『地球の静止する日』(1951)

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宇宙船が地球に到来し、異星人が人類に警告をもたらす物語。冷戦期を背景に人類の倫理を問い、本格的な社会風刺SFの初期の代表作に。キアヌ・リーヴス主演でリメイクも。

当時の関連トピック:冷戦時代の核開発競争(1950年代初頭)

『遊星よりの物体X』(1951)

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1950年代の「空飛ぶ円盤」「宇宙人侵略」ブームの先駆けとなった作品のひとつ。北極で発見された異星からの脅威に人間たちが立ち向かう。SFホラーの源流としてリメイクもされた。

当時の関連トピック:UFO目撃事件の増加(1947年以降)

『宇宙戦争』(1953)

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H・G・ウェルズ原作の地球侵略映画の古典。地球に襲来した火星人と人類の攻防を革新的映像で描き、アカデミー賞特殊効果賞を受賞。トム・クルーズ主演のリメイク版も有名。

当時の関連トピック:特撮技術の革新期(1950年代)

『ゴジラ』(1954)

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日本映画史上に輝く怪獣映画の金字塔。核実験によって目覚めた巨大怪獣ゴジラが東京を破壊する。多くの続編や国際的リメイクも生まれ、世界的にポップカルチャーの象徴に。

当時の関連トピック:ビキニ環礁核実験が世界的注目(1954)

最新ニュース

現在も『ゴジラ』の新作は続々と製作が進んでいる。『ゴジラxコング 新たなる帝国』に続く「モンスター・ヴァース」の最新作となる『ゴジラxコング:スーパーノヴァ(原題)』は2027年春の全米公開に向けて製作が進行中。また日本では『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督が新作ゴジラ映画の製作に着手することも発表されている。誕生から70年を超える今なおゴジラは進化を続け、世代や国境を超えて愛される存在であり続けている。

『2001年宇宙の旅』(1968)

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スタンリー・キューブリック監督が人類と宇宙をめぐる壮大な物語を描いた不朽の名作。徹底したリアリティ追求と哲学的なテーマで、SFを娯楽ジャンルから芸術表現の領域へ押し上げた。

当時の関連トピック:アポロ8号が有人月周回成功(1968)

『猿の惑星』(1968)

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宇宙飛行士が不時着した惑星は、言葉を話す猿が人間を支配する世界だった。衝撃的なラストは映画史に残る名場面。シリーズ化・リブート化が続く長寿フランチャイズに。

当時の関連トピック:公民権運動の高まりとベトナム戦争(1960年代)

この時代のキーパーソン:スタンリー・キューブリック Stanley Kubrick

20世紀の鬼才スタンリー・キューブリック監督は、SF映画の領域においても“巨匠”として特別な地位を占める存在。続けて発表した『博士の異常な愛情』(1964)『2001年宇宙の旅』(1968)『時計じかけのオレンジ』(1971)はSF3部作とも呼ばれるが、いずれもSFというジャンルを拡張し、観客に哲学的な問いを投げかけた。キューブリックは、SF映画を“スペクタクル”だけでなく“思想と芸術の探究”へと引き上げた真の巨匠といえる。

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