カバー画像:『E.T.』より Photo by Sunset Boulevard/Corbis via Getty Images
1970〜1990年代「映像革命とスペクタクルの時代」
『スター・ウォーズ』の登場と映像の進化でSF映画は成熟期へ
70年代初頭は長引くベトナム戦争の影響もあり、ダークな作風のSFの名作が登場。植物学者とロボットが宇宙船で植物を育てるダグラス・トランブル監督『サイレント・ランニング』(72)、脳だけの船長や宇宙でのサーフィンが強烈なジョン・カーペンター監督『ダーク・スター』(74)などが生まれ、映画館ではアメリカン・ニューシネマが流行する。
その流れを一気に変えたのが『スター・ウォーズ』(77)。ジョージ・ルーカスが、宇宙冒険活劇を描いて世界的に大ヒット。この映画を撮るためにILMが誕生。特殊効果映像が進化してSF映画が大流行。スティーヴン・スピルバーグ監督『未知との遭遇』(77)、リドリー・スコット監督『エイリアン』(79)が生まれた。
80年代にはSF映画がさらに成熟。リドリー・スコット監督の名作『ブレードランナー』(82)が誕生し、公開時はヒットしなかったが、映像ソフトなどで次第に人気を獲得。酸性雨が降り続ける無国籍で猥雑な近未来の街のイメージは、今もSF映画の世界観に影響を与え続けている。
この年には、映画史上初めてCGを本格的に導入し、コンピュータゲームの中の世界を描く『トロン』(82)や、少年とエイリアンの友情を描く『E.T.』(82)も登場。タイムトラベルSFが続き、ジェームズ・キャメロン監督のSF『ターミネーター』(84)が登場、ロバート・ゼメキス監督のSFコメディ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)が大ヒットして三部作になる。同年には、独裁主義的な近未来をブラックコメディ仕立てで描くテリー・ギリアム監督『未来世紀ブラジル』(85)もある。
90年代になると、CGの進化を見せつける映画が続々。ジェームズ・キャメロン監督『ターミネーター2』(91)の敵キャラT-1000の液体金属の身体がぐにゃりと変形するモーフィング技術はインパクト大。スピルバーグ監督『ジュラシック・パーク』(93)では(模型も併用されたが)CG製のまるで生きているような恐竜たちが出現した。
この年代末にはウォシャウスキー兄弟(現姉妹)監督『マトリックス』(99)が大ヒット。サイバーパンク小説や、大友克洋や押井守など日本製アニメなどのオマージュもSFファンに熱狂的に支持され、続編3作も製作される。
『時計じかけのオレンジ』(1971)
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スタンリー・キューブリック監督の問題作。近未来を舞台に、暴力と享楽に溺れる若者と、その矯正を試みる社会のシステムを描く。公開当時、過激な表現は賛否の嵐を呼んだ。
当時の関連トピック:イギリスで青少年暴力問題が社会的関心に(1960〜70年代)
『スター・ウォーズ』(1977)
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映画史に革命を起こしたSFの金字塔の記念すべき1作目。銀河を舞台に反乱軍と帝国軍の戦いを、当時最新のVFXで描写。商品展開も大成功し、ポップカルチャーに絶大な影響を与えた。
当時の関連トピック:映画VFX技術の急速な発展(1970年代)
『未知との遭遇』(1977)
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異星人と人類の接触を描いた、スティーヴン・スピルバーグ監督の初期の代表作。「宇宙人は敵ではなく友」という従来とは異なる姿を提示し、以後の宇宙人描写に多大な影響を与えた。
当時の関連トピック:世界的UFOブーム(1970年代)
『エイリアン』(1979)
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宇宙船に侵入した異星生物“エイリアン”が乗組員を襲うSFホラー。巨匠リドリー・スコット監督の出世作で、女性主人公リプリーの活躍や異星人デザインはジャンルを刷新した。
当時の関連トピック:スペースシャトル計画が準備段階(1970年代後半)
『ブレードランナー』(1982)

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人間そっくりな人造人間“レプリカント”を追跡する特殊捜査官の闘いを描くサイバーパンクSFの代表作。人間と機械の境界を問う哲学的作品で、2017年には続編も誕生。
当時の関連トピック:日本のハイテク産業台頭(1980年代)
『E.T.』(1982)
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地球に取り残された宇宙人と少年の交流を描いた心温まるSFファンタジー。ファミリー向けSF映画のスタンダードを築いた。月を背景に自転車で空を飛ぶシーンは伝説的な名場面。
当時の関連トピック:家庭用ビデオとゲーム機の普及(1980年代)
『ターミネーター』(1984)
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未来から来た殺人機と人類の戦いを描くSFアクション。ターミネーターはアーノルド・シュワルツェネッガーの当たり役に。「AIと人類の戦い」というテーマを広く定着させた。
当時の関連トピック:パソコンの一般普及(1980年代)
最新ニュース
『ターミネーター』が日本公開されたのは今から40年前の1985年。その40周年を記念して、本作の新4Kレストア版(一部劇場では2Kコンバートでの上映)が9月26日(金)より劇場公開される。今回のレストア版は、35mmオリジナルネガから4Kフィルムスキャンを行い、ジェームズ・キャメロン監督が最終的な音と映像を自ら監修した渾身のプロジェクト。さらに劇場では監督のコメント映像も特別上映。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)
タイムトラベル映画の決定版として世代を超えて愛されるSFエンタメ。高校生マーティが30年前にタイムスリップし、若かりし両親と出会う。タイムマシンのデロリアンは映画史上最も有名な乗り物のひとつに。
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当時の関連トピック:アメリカン・ノスタルジーブーム(1980年代)
『ジュラシック・パーク』(1993)

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遺伝子工学で恐竜を蘇らせたテーマパークを舞台にしたSFアドベンチャー。リアルな恐竜描写で革新的映像体験を生んだ。シリーズ最新作『ジュラシック・ワールド/復活の大地』が現在公開中。
当時の関連トピック:クローン羊「ドリー」誕生(1996)
『マトリックス』(1999)
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人類が仮想現実に囚われた未来を舞台に、救世主となる青年の戦いを描くSFアクション。革新的な映像表現「バレットタイム」や深遠なテーマが融合し、20世紀末を象徴する一本に。
当時の関連トピック:インターネット普及の加速(1990年代後半)
この時代のキーパーソン:スティーヴン・スピルバーグ Steven Spielberg
ハリウッドを代表する巨匠スティーヴン・スピルバーグは、特にこの時代のSF映画を語る上で欠かせない存在。『未知との遭遇』(1977)や『E.T.』(1982)では友好的な宇宙人との交流という新たな視点を提示し、『ジュラシック・パーク』(1993)では最新のVFX技術で映画表現の新時代を切り拓いた。壮大な世界観と革新的な技術、そして人間的な温かさを融合させる彼の作品群は、SF映画の進化に決定的な影響を与え続けている。
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