カンヌ、ベルリンと並ぶ世界3大国際映画祭の一つ「第82回ベネチア国際映画祭」が開催され、今回も多くのセレブたちが注目の新作を携えレッドカーペットに降臨しました。コンペ部門作品の監督たちの顔ぶれも豪華でしたが、現代の世界情勢を反映するような社会派映画がいくつも上映され、観客の称賛を浴びたようです。そんな中、アレクサンダー・ペイン率いる審査員たちが最高賞に選んだのは、名匠ジム・ジャームッシュ作品でした。(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)
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栄誉金獅子賞を受けた2人のベテランに注目が集まる

水の都ベネチアで8月27日から9月6日まで開催された恒例の「第82回ベネチア国際映画祭」。今年のコンペティション部門は例年になく出品監督の顔ぶれが華やかと評判だったが、前評判の高い作品も多く、各賞の行方がどうなるか取り沙汰されていた。

画像: 『Bugonia』で来場のエマ・ストーンはルイ・ヴィトンのホワイトドレスで Photo by Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

『Bugonia』で来場のエマ・ストーンはルイ・ヴィトンのホワイトドレスで
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画像: 『Father Mother Sister Brother』のケイト・ブランシェットはメゾン・マルジェラの奇抜なドレスで来場 Photo by Elisabetta A. Villa/Getty Images

『Father Mother Sister Brother』のケイト・ブランシェットはメゾン・マルジェラの奇抜なドレスで来場
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画像: 『After the Hunt』のジュリア・ロバーツはヴェルサーチのダークブルーのドレスで Photo by Franco Origlia/Getty Images

『After the Hunt』のジュリア・ロバーツはヴェルサーチのダークブルーのドレスで
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画像: 『Jay Kelly』のジョージ・クルーニーと現われたアマル・クルーニーは大胆なジャン=ルイ・シャレルのパープル・ドレスで颯爽と Photo by Stephane Cardinale - Corbis/Corbis via Getty Images

『Jay Kelly』のジョージ・クルーニーと現われたアマル・クルーニーは大胆なジャン=ルイ・シャレルのパープル・ドレスで颯爽と
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画像: 『The Last Viking』のマッツ・ミケルセンはレカペでファンにサインの途中、一時トイレ退席したというお茶目な?振る舞いも Photo by Dominique Charriau/WireImage

『The Last Viking』のマッツ・ミケルセンはレカペでファンにサインの途中、一時トイレ退席したというお茶目な?振る舞いも
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一方のレッドカーペットにやってくるスターたちもやはり豪華で、エマ・ストーン、ケイト・ブランシェット、ジュリア・ロバーツ、エミリー・ブラント、シェイリーン・ウッドリー、レベッカ・ファーガソン、ルーニー・マーラら華麗なドレスをまとった女性陣に、ジョージ・クルーニー、ドウェイン・ジョンソン、アーロン・テイラー=ジョンソン、ジェイソン・モモア、ホアキン・フェニックス、そしてマッツ・ミケルセンまでクールなタキシードで決めた男性陣もゴージャス。こうした面々が昼のフォトセッションではもっとカジュアルなスタイルも見せてくれるので、カメラマンたちも連日過熱気味だ。

画像: 友人フランシス・フォード・コッポラの手から栄誉金獅子賞を受けたヴェルナー・ヘルツォーク監督 Photo by Alessandra Benedetti - Corbis/Corbis via Getty Images

友人フランシス・フォード・コッポラの手から栄誉金獅子賞を受けたヴェルナー・ヘルツォーク監督
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パオロ・ソレンティーノ監督の『La Grazia』で開幕した映画祭で、最初の盛り上がりを見せたのは、『フィツカラルド』などのドイツの名匠ヴェルナー・ヘルツォークに贈られた生涯功労賞にあたる栄誉金獅子賞授賞式。このプレゼンターを務めたのが彼の50年に渡る友人フランシス・フォード・コッポラだった。ヘルツォークは「『フィツカラルド』の脚本はコッポラ監督の家に泊めてもらっている間に書きました。今の妻も彼に紹介してもらい、以来30年、不幸な日は一度もありません」とエピソードを披露して感謝の言葉を述べた。

画像: 往年の大女優キム・ノヴァクに栄誉金獅子賞が渡された Photo by Alessandra Benedetti - Corbis/Corbis via Getty Images

往年の大女優キム・ノヴァクに栄誉金獅子賞が渡された
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この栄誉金獅子賞はもう一人受賞者がおり、こちらも感動を呼んだ。その受賞者は往年の名作『ピクニック』『めまい』などで知られる大女優キム・ノヴァク。今回彼女の人生をテーマにしたドキュメンタリー『Kim Novak’s Vertigo』が上映されるタイミングでの受賞だが、キャリアの絶頂期にハリウッドの映画会社重役や彼女の家族との衝突があり、当時珍しく自身を貫いた彼女が、結局女優をあきらめ画家として生きていく決断をした顛末などが描かれるという。92歳になるキムは『人生におけるこの段階で私の作品群が認められるのは夢のようです』と挨拶し、満場の喝采を浴びた。

現代世界を映し出すような社会派作品が目立った

画像: 製作を担当したホアキン・フェニックスとルーニー・マーラ(左の2人)も出席した『The Voice of Hind Rajab』のプレミア上映。カウテル監督(中央)の隣にヒンドちゃんの遺影も見える Photo by Ernesto Ruscio/Getty Images

製作を担当したホアキン・フェニックスとルーニー・マーラ(左の2人)も出席した『The Voice of Hind Rajab』のプレミア上映。カウテル監督(中央)の隣にヒンドちゃんの遺影も見える
Photo by Ernesto Ruscio/Getty Images

といった映画界の大ベテランを称える面を見せながらも、今年のベネチアは現在の世界を映し出す社会的な作品が多かったとも言われる。特にホアキン・フェニックスとルーニー・マーラ夫妻が製作に参加したことでも話題のカウテル・ベン・ハニア監督の『The Voice of Hind Rajab』が注目されたのは、ガザ地区で起きた実話を基にしていたため。ガザで家族と車中にいるところをイスラエル軍に襲われ、6歳の女の子が赤十字軍に救援を求める電話をかけ続けた音声を使用しつつ当時の出来事をドキュメンタリータッチで描いたこの作品は、上映後22分のスタンディング・オベーションを受けた。さらにキャスリン・ビグロー監督のペンタゴンを舞台にした『ハウス・オブ・ダイナマイト』や、ジュード・ロウがロシアのプーチン大統領を演じたオリヴィエ・アサイヤス監督の『The Wizard of the Kremlin』など社会派作品に話題が集まった。

画像: 『The Smashing Macine』のフォトコールに現われたドウェイン・ジョンソン、ベニー・サフディ、エミリー・ブラントのトリオ Photo by Victor Boyko/Getty Images

『The Smashing Macine』のフォトコールに現われたドウェイン・ジョンソン、ベニー・サフディ、エミリー・ブラントのトリオ
Photo by Victor Boyko/Getty Images

画像: 金獅子賞を受賞した『Father Mother Sister Brother』のジム・ジャームッシュ監督 hoto by Elisabetta A. Villa/Getty Images

金獅子賞を受賞した『Father Mother Sister Brother』のジム・ジャームッシュ監督
hoto by Elisabetta A. Villa/Getty Images

他にも上映後の喝采に主演のドウェイン・ジョンソンが感涙したと報じられた『The Smashing Machine』や、パク・チャヌク監督の突然解雇された会社員の奮闘を描く『No Other Choice』、ギレルモ・デル・トロ監督の2時間半の大作『フランケンシュタイン』などが高評価を受けたが、審査員長アレクサンダー・ペインらが選出した今年の最高賞はジム・ジャームッシュ監督の三つの異なる家族とその力関係を描いた3部作『Father Mother Sister Brother』だった。ジャームッシュは「この静かな物語を評価していただき感謝したい」と述べた。『The Voice of Hind Rajab』は銀獅子賞(審査員大賞)を受賞。監督は「映画はヒンドちゃんを生き返らせることも彼女に行われた残酷な行為を消すこともできません。でも映画は彼女の声を守ることはできます」とスピーチ。「洞察力に富んだ人間味あふれるスポーツ伝記映画」と評された『The Smashig Machine』はベニー・サフディが監督賞を受けた。

ちなみに日本からオリゾンテ部門に出品されていた『LOST LAND/ロスト・ランド』(藤元明緒監督)は審査員特別賞を受賞した。

主な受賞結果

金獅子賞/『Father Mother Sister Brother』(ジム・ジャームッシュ監督)
銀獅子賞(審査員大賞)/『The Voice of Hind Rajab』(カウテル・ベン・ハニア監督)
銀獅子賞(監督賞)/ベニー・サフディ(『The Smashing Machine』)
ヴォルピ杯最優秀女優賞/シン・ジーレイ(『The Sun Rises on Us All』)
ヴォルピ杯最優秀男優賞/トニ・セルヴィッロ(『La Grazia』)
審査員特別賞/『Below the Clouds』(ジャンフランコ・ロージ監督)
脚本賞/ヴァレリー・ドンゼッリ、ジル・マルシャン(『At Work』)
最優秀若手俳優賞/ルナ・ウェルダー(『Silent Friend』)
デビュー作賞/『Short Summer』(ナスティア・カルキア監督)

画像: 女優賞は『The Sun Rises on Us All』のシン・ジーレイが受賞 Photo by JB Lacroix/FilmMagic

女優賞は『The Sun Rises on Us All』のシン・ジーレイが受賞
Photo by JB Lacroix/FilmMagic

画像: 伊の名優トニ・セルヴィッロが『La Grazia』で男優賞受賞 Photo by Theo Wargo/Getty Images

伊の名優トニ・セルヴィッロが『La Grazia』で男優賞受賞
Photo by Theo Wargo/Getty Images

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