来る10月7日は、世界初のミステリー小説とも言われる「モルグ街の殺人」の著者エドガー・アラン・ポーが亡くなったことから「ミステリー記念日」とされています。夜も長くなり“ミステリーの季節”ともいえる今、謎解きの世界に浸りたいという方も多いのでは。そこで今回は、映画・ドラマからミステリーの世界へ誘ってくれる数々のキャラクターたちをご紹介。あなたは誰と一緒に事件に挑みますか?(文・田中雄二/デジタル編集・スクリーン編集部)

1970’s 探偵小説の古典だけでなく現代社会の不安も題材に

1970年代以降、ミステリー映画は多様性の時代を迎えた。そのさきがけとして見ると、レイモンド・チャンドラー原作の探偵フィリップ・マーロウを主人公にしながらも対照的な描き方をした2つの映画は象徴的だ。

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“マーロウ”のイメージを覆す“マーロウ”

⬛︎ フィリップ・マーロウ from『ロング・グッドバイ』(Cast:エリオット・グールド)

『ロング・グッドバイ』(73)でエリオット・グールドが演じた皮肉屋の私立探偵。レイモンド・チャンドラー原作のハードボイルドなイメージを覆し、70年代的な孤独感やけだるさを体現する現代的なマーロウ像として物議を醸した。

まずロバート・アルトマン監督、エリオット・グールド主演の『ロング・グッドバイ』(73)は、マーロウを現代に登場させ、都市の退廃や人々の孤独を背景に展開する革新的なハードボイルド劇とした。一方、ディック・リチャーズ監督、ロバート・ミッチャム主演の『さらば愛しき女よ』(75)は、1940年代を舞台に伝統的な探偵物として描いている。この2作の作風の違いはミステリーファンの間でも好みが分かれた。

また、この時期に流行したノスタルジーブームはミステリー映画にも波及した。1930年代後半のロサンゼルスを舞台に、水の利権をめぐる政治的な陰謀に巻き込まれた私立探偵をジャック・ニコルソンが演じた、ロマン・ポランスキー監督の『チャイナタウン』(74)は、フィルムノワールをほうふつとさせる本格探偵物として観客の懐古趣味を満足させた。

画像: Photo by Herbert Dorfman/Corbis via Getty Images

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それでも真相を追い求める男

⬛︎ ジェイク・ギテスfrom『チャイナタウン』(Cast:ジャック・ニコルソン)

『チャイナタウン』(74)でジャック・ニコルソンが演じた元警官の私立探偵。軽妙で皮肉屋。権力と陰謀に翻弄され、無力さと虚無を味わいながらも真相追及に執念を燃やす。脚本家ロバート・タウンが創造した映画オリジナルのキャラクター。

アルバート・フィニーが名探偵エルキュール・ポワロに扮した、シドニー・ルメット監督の『オリエント急行殺人事件』(74)は、豪華列車を舞台にしたアガサ・クリスティー原作の密室推理劇を、オールスターキャスト出演による現代的な映像で華麗に再現し、観客はクラシックな推理ドラマの魅力を再確認した。

画像: Photo by EMI Film Distributors/Paramount/Sunset Boulevard/Corbis via Getty Images

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口ひげがトレードマーク“灰色の頭脳”

⬛︎ エルキュール・ポアロ from『オリエント急行殺人事件』(Cast:アルバート・フィニー)

アガサ・クリスティー原作の『オリエント急行殺人事件』(74)でアルバート・フィニーが演じた自信家の名探偵。小柄で独特の口髭を誇り、気品とユーモアを兼ね備え、鋭い観察眼と心理洞察で複雑な事件の真相を解き明かした。

同時期には、主人公の心理的な重圧を表現する作品も増えた。フランシス・フォード・コッポラ監督、ジーン・ハックマン主演の『カンバセーション…盗聴…』(74)は、盗聴によって生じた殺人事件と盗聴者の罪の意識を描き、現代社会が抱える不安もミステリーに取り込んだ映画として評価された。

1980’s ミステリーに新たな要素を掛け算

1980年代にはミステリー映画はさらに複雑化し、SFと心理サスペンス、犯罪心理と推理手法などを複合させる傾向が強まった。フィリップ・K・ディック原作、リドリー・スコット監督、ハリソン・フォード主演の『ブレードランナー』(82)は近未来都市を舞台に、人造人間が犯した犯罪捜査と人間の本性を問う二重構造を持ち、従来の探偵劇を踏襲しながら哲学的な視点を導入した。

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未来都市を駆けるアンチヒーロー

⬛︎ リック・デッカード from『ブレードランナー』(Cast:ハリソン・フォード)

SFに探偵物の要素を加えたフィリップ・K・ディック原作の『ブレードランナー』(82)でハリソン・フォードが演じた元刑事の探偵。退廃的な未来都市でレプリカント(人造人間)追跡を担う。孤独と疲労感を抱えたアンチヒーロー。

ヒッチコックの後継者と言われたブライアン・デ・パルマ監督は、母を殺された息子と人気モデルが事件の謎を追う『殺しのドレス』(80)と、殺人事件を目撃した音響効果マンが事件の背後にある陰謀を突きとめる『ミッドナイトクロス』(81)で、視覚的な伏線やミスリードを駆使しながら、観客に主人公と一体となって真相に迫る快感を味わわせた。

画像: Photo by 20th Century-Fox/Getty Images

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闇が蔓延る教会内で光を灯す

⬛︎ バスカヴィルのウィリアム from『薔薇の名前』(Cast:ショーン・コネリー)

ウンベルト・エーコ原作の『薔薇の名前』(86)でショーン・コネリーが演じた博識で理知的な修道士探偵。論理と観察を重んじ、迷信や権威に屈せず真実を追究する。温かみとユーモアで弟子を導きながら中世の闇に光を当てた。

ジャン・ジャック・アノー監督、ショーン・コネリー主演の『薔薇の名前』(86)の舞台は14世紀イタリアの修道院。修道士とその弟子が連続殺人事件の真相を追う姿を通して教会の闇に迫った異色ミステリーとして高く評価され、迷宮のような中世の図書館などの再現も話題となった。

1990’s 犯罪心理分析ものが隆盛ミステリーの新たな潮流へ

ジョナサン・デミ監督、ジョディ・フォスター主演の『羊たちの沈黙』(91)は、FBIの若き女性訓練生が、連続殺人犯の捜査のため、天才精神科医で殺人鬼のハンニバル・レクター(アンソニー・ホプキンス)に協力を求め、レクターや犯人との心理戦を繰り広げる様子を描く。犯罪心理の分析を前面に押し出した映画としてミステリー映画の新たな潮流を生み出した。

画像1: 【ミステリーの季節に誘う、映画・ドラマの謎解きの名手たち】謎解きの名手と辿るミステリー映画の歴史

環境に屈さないFBI捜査官

⬛︎ クラリス・スターリング from『羊たちの沈黙』(Cast:ジョディ・フォスター)

トマス・ハリス原作の『羊たちの沈黙』(91)でジョディ・フォスターが演じたFBI訓練生の女性捜査官。過去の傷を抱えながら強い意志と洞察力で連続殺人事件に挑み、恐怖に直面しながらも成長し、知性と勇気で事件を解決に導いた。

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この時代のミステリー映画の特徴は、クラシックな探偵小説の映像化、SFとの融合、ヒッチコック譲りの映像表現、政界の腐敗、精神の歪みなど多彩なテーマを扱った作品が登場したことにある。こうした潮流は、21世紀のより複雑なミステリー映画へとつながっていく。

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