来る10月7日は、世界初のミステリー小説とも言われる「モルグ街の殺人」の著者エドガー・アラン・ポーが亡くなったことから「ミステリー記念日」とされています。夜も長くなり“ミステリーの季節”ともいえる今、謎解きの世界に浸りたいという方も多いのでは。そこで今回は、映画・ドラマからミステリーの世界へ誘ってくれる数々のキャラクターたちをご紹介。あなたは誰と一緒に事件に挑みますか?(文・田中雄二/デジタル編集・スクリーン編集部)

1960’s ミステリー映画が多彩に発展した1960年代

ミステリー映画は、殺人、犯罪、不可解な出来事など、「謎」が物語の中心となるだけに論理的な展開や事件の解説が不可欠となる。そのためセリフのないサイレント映画には不向きとされたが、トーキーの普及とともに本格的に発展した。

1930年代にはシャーロック・ホームズ物や、夫婦探偵が活躍する「影なき男」シリーズが登場。こうしたシリーズ探偵物は観客に謎解きの楽しみを提供した。

第二次大戦前後の1940年代から50年代のハリウッドでは、戦争の影響や社会の荒廃を反映し、後にフィルムノワールと総称される犯罪映画が量産された。その代表作は、妻殺しの嫌疑をかけられた男を救うため、友人が“謎の女”の後を追うロバート・シオドマーク監督の『幻の女』(44)、妖婦が計画した保険金殺人に手を染めた保険営業員の顛末を描いたビリー・ワイルダー監督の『深夜の告白』(44)などがある。

また、ハンフリー・ボガートがジョン・ヒューストン監督の『マルタの鷹』(41)でサム・スペードを、ハワード・ホークス監督の『三つ数えろ』(46)でフィリップ・マーロウを演じてハードボイルドな探偵像を確立した。

画像: Photo by Michael Ochs Archives/Getty Images

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元祖ハードボイルド探偵

⬛︎ サム・スペード from『マルタの鷹』(Cast:ハンフリー・ボガート)

ダシール・ハメット原作の『マルタの鷹』(41)でハンフリー・ボガートが演じた冷静沈着で皮肉屋の私立探偵。正義よりも己の流儀を重んじ、狡猾さと機転で依頼人や犯罪者を翻弄する。ハードボイルド探偵像の原型となった。

加えて、戦後のウィーンで友人の死の真相を追う男の姿を描いたキャロル・リード監督の『第三の男』(49)もイギリス製のフィルムノワールだと言えよう。

一方、犯人の異常な心理状態が事件の鍵を握るニューロティック映画も盛んに作られた。殺人事件を捜査する刑事が、被害者の肖像画の美しさに心を奪われてしまうオットー・プレミンジャー監督の『ローラ殺人事件』(44)、連続殺人鬼の影におびえる耳の不自由な女性が命の危険にさらされるシオドマーク監督の『らせん階段』(46)などがある。

画像: Photo by Roba Archive/United Archives via Getty Images

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語らい、見抜き、真実に迫る

⬛︎ ジュール・メグレfrom「メグレ警視」シリーズ(Cast:ジャン・ギャバン)

ジョルジュ・シムノン原作のシリーズでジャン・ギャバンが演じた、人情に厚く落ち着いた風貌のパリ警視庁警部。権威を振りかざさず庶民と語らい、観察眼と直感で真実に迫る。頑固だが温かみがあり、静かな威厳を漂わせる。

またアルフレッド・ヒッチコック監督の諸作は、サスペンスとしての評価が高いが、ミステリーとしても一級品ぞろいだ。敬愛する伯父が実は連続殺人犯だと気付いてしまった少女の不安と緊張を描いた『疑惑の影』(43)、足をけがして動けない写真家が窓越しに隣人の殺人を疑う『裏窓』(54)は、観客が主人公と同じ目線で恐怖と興奮を共有した。高所恐怖症の元刑事が“2人の謎の女”に翻弄される『めまい』(58)も視覚効果を利用した心理ミステリーだ。

1950年代には、法廷劇もミステリー映画の一翼を担った。ワイルダー監督の『情婦』(57)はアガサ・クリスティー原作のどんでん返しを生かし、観客を見事にあざむく展開で知られる。シドニー・ルメット監督の『十二人の怒れる男』(57)は陪審員の議論を通して「真実とは何か」を探るミステリーとしても名高い。

画像: Photo by United Artists/Sunset Boulevard/Corbis via Getty Images

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差別に負けず、不正とも戦う知性派

⬛︎ バージル・ティッブスfrom「夜の大捜査線」シリーズ(Cast:シドニー・ポワチエ)

「夜の大捜査線」シリーズでシドニー・ポワチエが演じたフィラデルフィア警察の黒人敏腕刑事。知的で冷静、差別に屈せず鋭い洞察力と専門知識で事件解決に挑む。誇り高く礼儀正しいが芯は強く、不正に敢然と立ち向かう。

1960年代には社会問題への関心が見られる。ノーマン・ジュイソン監督の『夜の大捜査線』(67)は、米南部の町を舞台に黒人刑事と白人警察署長との対立を背景にした殺人事件捜査を描き、謎解きの枠組みに人種問題を加えてみせた。

このように、映画黎明期から60年代のミステリー映画は、シリーズ探偵物から、ハードボイルド、ノワール、心理・法廷劇、社会派作品へと多彩に発展していった。

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