『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』など作品を発表するごとに国内映画賞を席巻し、本作で第78回ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門にて最高賞である金豹賞&ヤング審査員賞特別賞をW受賞した三宅唱監督最新作『旅と日々』(原作:つげ義春『海辺の叙景』『ほんやら洞のべんさん』)。
主人公の李を演じるのは日韓で活躍する俳優シム・ウンギョン。三宅監督とともに作り上げた本作は彼女の代表作になるに違いない!
画像: ――前半の李さんはセリフも少なく、表情の動きもあまりないのでサイレント映画というのはなるほどと思いました。後半、旅に出て堤真一さん演じるべん造さんに出会ってからは空気感が変わり、宿でお酒を飲みながらにっこり笑う表情がとても印象的でした。

――李さんと宿の主人のべん造さんとのやりとりがおもしろくて笑ってしまいました。堤真一さんと共演した感想を教えてください。

2019年に舞台で共演しているので、今回が2回目になります。当時、私にとって人生で初めての舞台だったので、何もわからなくて。つまり李さんのような気持ちになり私には才能がないんじゃないかと、毎日稽古のときに思っていました。堤さんはその時のすごく支えになった存在だったんです。堤さんのお芝居と、それに向き合う佇まい、例えば稽古が始まる前の準備運動や発声練習のやり方など、見習うことがたくさんありました。当時の私は、いつも何か足りないんじゃないかと心細く思っていたけれど、堤さんという大きな存在を見て頑張ろうと思ったし、堤さんがこうやっていたから私もやってみようと学んだことが多くありました。だから今回堤さんとご一緒というお話を聞いて、また緊張しちゃうのかなと思いましたが、そうじゃなかった。私は現場にスッと入って緊張もせず、セリフもすらすら出てきて。自然体のまま現場に入り、堤さんとのお芝居でやりとりしながら感じたものを出すことができたと思っています。例えば、李さんがべん造さんに「さようでございますか」というシーンがあるのですが、あれは実はアドリブなんですよ。監督と堤さんと3人で段取りをしていて、監督に寝転んでみてと言われて雰囲気を作ると、自分で感じるものがあるんですね。そういうことから浮かんでくることが多いので、そのときはべん造さんのつまらないお話が聞こえるから、「さようでございますか」と流すように言ってもいいんじゃないかと思って、ふと言ってみたら監督が「それ好き」とおっしゃって(笑)。編集ではカットされるだろうな、アドリブだからと思っていたら、映画の中で生かしてくださいました。

――雪国が登場する日本の映画は多く作られていますが、今回雪国で撮影していかがでしたか?

夢のようでしたね。私は子供の頃『Love Letter』(95/岩井俊二監督)を初めて観て、あんな場所があるんだって思ったんです。中山美穂さんが「お元気ですか?」と語りかけるすごくせつない名場面がありますよね。あのシーンは韓国でもすごく人気があり、今でも皆さんが語り合っています。今回の役の気持ちや感覚は違うけれども、自分がよく知らない場所にやってきて、私が中山美穂さんのように雪の中に立って。なんか……やっとここに来たんだみたいな気持ちになりました。子供の頃に観た『Love Letter』を撮った雪国に似た場所にやってきて、自分が映画に出ているのがすごく不思議で、やっぱり夢のようでした。

――日本の雪国には行かれたことはありましたか?

日本の雪国は初めてでした。雪が降るときは目一杯降るので、びっくりしながらも子供のようにはしゃいですごく楽しかったです。雪がたくさん降ると寒くないんですよね。だからすごく元気になって。みなさんと楽しみながら映画を撮った思い出ができました。

――ロカルノ国際映画祭など、海外でも高評価を受けています。

ロカルノ国際映画祭で上映されたときの雰囲気を少しお話しすると、2800席というすごく大きな映画館での上映だったので、監督とふたりで「満席にできますかね」「いやできないでしょ」とお話していたんですね。そんな雑談をしつつ登壇したら満席で。しかもヨーロッパのお客さんは映画を観てつまらないと思ったら、すぐに出ていっちゃうという噂を聞いていたんです。なので、「いつ出ていくのか」と怖いなと思いながら、一緒に映画を観ていたら、映画が始まって5分後ぐらいにすごい集中力とエネルギーを感じまして、皆さんこの映画が好きなんだって伝わりました。その雰囲気を共有しながら、皆さん我々が作ったお話に共感してくださっている、それは一生の中でもなかなかできない貴重な経験ではないかと思いました。

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