アカデミー賞で作品賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ監督が、最新作『フランケンシュタイン』のPRのために来日。ジャパンプレミアに参加し、試写会後の舞台挨拶に、盟友であるゲームクリエイター・小島秀夫監督と共に登壇。作品について語った。(取材/SCREEN編集部、写真/久保田司)

先行公開や配信に先駆けて映画を大スクリーンの前で観た観客たちを前に実施されたQ&Aセッション。デル・トロと小島が登場すると、会場は歓声と拍手に包まれた。

「とてもパーソナルな映画になった」と語ったデル・トロ監督

――まずは一言ずつ挨拶をお願いいたします。

ギレルモ・デル・トロ(以降、デル・トロ)「幼いころから“フランケンシュタイン”の映画を作りたいと思っていました。カトリック教徒の少年として、この世界でどういう立ち位置にいたのか、そして”息子として””父として”の自分の想いをこの作品に描いています。とてもパーソナルな映画になっているので、皆さんと分かちあえることをとても嬉しく思っています。本日はお越しいただきまして、ありがとうございます」

画像: ギレルモ・デル・トロ監督

ギレルモ・デル・トロ監督

小島秀夫(以降、小島)「こんばんは。デル・トロ監督大好き、小島でございます。“フランケンシュタイン”は『鉄腕アトム』や『人造人間キカイダー』など、アニメや特撮などでよくテーマになっています。私はデル・トロ監督とは死生観も一緒ですし、ヒーロー観も一緒です。デル・トロ監督のファンとしても、究極の“フランケンシュタイン”を彼が作るのも嬉しいですし、この場に一緒に来られたことも嬉しいです。楽しんでください」

画像: 小島秀夫監督

小島秀夫監督

博士とモンスター、二者の視点から描くことになった理由

――この度は作品の完成おめでとうございます。完成して、どのようなお気持ちでしょうか?

デル・トロ「子どもを産み、その子どもが学校に通い始めて、家に帰ってくるのを待っている。今はそんな気持ちです」

――小島監督、一足先に本作を鑑賞されたそうですが、いかがでしたか?

小島「“フランケンシュタイン”の作品はいっぱい観ていますけど、こんなに美しくて、ちょっと変なんですけど、すごい優しい映画です。前作の『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』もうそうでしたが、ちょっとビックリしました。創った者=フランケンシュタイン博士、創られた者=モンスター、この二者の関係を父と子の関係性に昇華したものは、なかなか今までなかったので、そこにも驚きました。

また、章別に視点が変わりますよね。フランケンシュタイン版『羅生門』と呼びますけど(笑)、そこは非常にうまくて。神に逆らって生物を作って、作られる側にも悩みがある。原作も読んでいますが、この二者の視点を通すと今まで見えなかったところが出てきたので、さすがはデル・トロ、ギレルモ、マイフレンド!って感じで。すごい良かったです」

画像: 博士とモンスター、二者の視点から描くことになった理由

デル・トロ「小島さんには『デス・ストランディング』で“デッドマン”にしていただきました。当時私がフランケンシュタインに夢中で、フランケンシュタインのようなキャラクターにしていただいたんです(*デッドマンは死者の臓器が体に使われているキャラクター)。

『~ピノッキオ』と今回の映画ですが、同じ物語の二つの側面であるという風に捉えています。私達は成長の中で、誰かの息子となり、気が付かないうちに誰かの父親になります。息子であることをやめ父になり、許しを請い、受け入れる。それらをこの映画では描いていて、そうした側面が重要でした。

同時に、親密な物語と壮大な物語が並立していることも大切なことでした。とても大きな世界の中で、親密な関係を描きたいと思っていたんです。時としてヴィクター自身がヒーローでもあり、敵にもなる、そういった映画になっています」**

自分をモンスターと重ねた、当時7歳のデル・トロ少年

――「フランケンシュタイン」という作品との出会いはいつ頃だったのでしょうか。このタイミングで映画館に至ったのはどのような経緯があったのでしょうか。

デル・トロ「7歳のころにボリス・カーロフ版の『フランケンシュタイン』(1931)を観ました。毎週日曜日は教会に通っていたのですが、当時私の故郷では一日中ホラー映画が放送されていて、教会に行った後はホラー映画漬けになるというような日々を送っていました。そして自分が教会に行った後にホラー映画を見ている自分に、7歳の私は混乱したんです。怪物たちを観て学ぶことがあったからです。

画像: 自分をモンスターと重ねた、当時7歳のデル・トロ少年

ドアから入ってきた(『フランケンシュタイン』の)モンスターを観て、“私のイエス・キリストは彼だ!”と思いました。そして、私自身がモンスターでもあると瞬時に感じました。宗教的な体験に近いものだったんです。私自身が奇妙な少年で理解されませんでしたし、彼もモンスターだから人から理解されなず好かれない。私のようだと思えたのです。大人の世界では完璧を求めるところがありますが、私は彼のような“不完全”な姿に美しさを感じたのです。

14歳になり、私は『フランケンシュタイン』の原作を読みました。誰もこの物語を映画にしていない、原作の精神が映画として語られていないと感じ、当時の自分は“映画にしたい”と思いました。そして40代になり、子どもを持ち、自分と子どもについても描きたいと思うようになりました。その後、人間は、“父親のようになりたくない”と思いながらも気がつくと父親のようになってしまっているということに、私は44、45歳ころに気がつきました。このような経緯があり、(この映画を作ることは)私にとって、とても長い旅となりました」

素晴らしいパフォーマンスを見せたキャスト陣

――素晴らしい俳優陣とタッグを組まれましたが、彼らとの共作はいかがでしたか?

デル・トロ「よい役者を集めることができれば、観客に伝えたいことは伝わると考えています。作品を“国”に例えるならば、役者たちは“大使”と言えるでしょう。俳優の方たちはみ皆さん素晴らしい仕事をしてくれました。

ジェイコブ・エロルディは、タイミングとしては遅い時期の参加になりました。もともと別の方が配役されていたのですが、ストの影響でスケジュールの不都合が生じてしまったところ、彼がこの役を引き受けてくれたのです。ジェイコブの目を見た時に、彼はモンスターを完璧に演じてくれると思いましたし、ジェイコブ自身が“自分はまさにこのモンスターだ”そして“自分よりも本当に自分らしい”とも言ってくれたんです。

彼は怒りをちゃんと表現できる役者です。『プリシラ』のエルヴィス役での怒りの演技を見ていましたし、その他の作品で彼の優しさの部分も見ています。素晴らしい役者だと分かっていましたし、オスカー・アイザックとの相性が完璧だったんです。オスカー自身、良い人であり悪い人であるということを同時に演じてくれた素晴らしい役者です。

ジェイコブは“無”の状態、そして生まれたばかりの赤ん坊のような状態を演じるという大変な役割を担っていました。生まれたばかりのとても美しいものであるということ、まだお腹の中にいる胎児のようなものであると。

我々ふたり(自身と小島監督)は、生まれる前の赤ちゃんに凄くこだわりがあると思いますが(笑)、そういったものを表現しようと思ったんです。そして死体が身体を動かしているというような表現するために、ジェイコブには日本の舞踏を参考にしてもらいました。リアルな意味で彼には“怒り”や“静寂”を瞬時に演じてもらう必要があったので、舞踏の達人の方から学んでいただきました。

ミア・ゴスも素晴らしい俳優です。優しさ、母の部分をとても素晴らしく演じてくれました。『Pearl パール』や『MaXXXine マキシーン』などの演技も素晴らしかったですし、ぜひまた仕事がしたいと思っています。クリストフ・ヴァルツは本当に大好きな俳優です。彼なら本当に怖い人を演じてもらえるだろうと思っていました」

小島「ちょっと質問してもいいですか。フランケンシュタインのデザインは、縫い目が特徴じゃないですか。今回のものは縫い目がなく、キュビズムというか現代アートのようなめっちゃ美しいフランケンシュタインでびっくりしたのですが、なぜあのようになったんですか?」

デル・トロ「通常の場合、フランケンシュタインは、交通事故に遭ったのかのような、傷だらけの姿や、まるで救急外来にいって縫合してもらったような様相を想像されると思います。

ヴィクターという人は、芸術家なんです。彼は、腕ごとに別々の身体、他の部位も他の身体から、といったようにモンスターを創っています。そしてワックスなどを使って、傷が無いようにしている。解剖学などを研究して、20年以上計画を練っていて、“芸術”として彼はこの作業に従事していたんです。そして、骨相学のマニュアルや解剖図を見て、アールデコやフューチャリズムのような、まるで新しい自動車のような、優美で美しい物を作っている。

彼は“死”に対して怒りを感じています。解剖学的なものであり、死んだ者の部位を用いてはいますが、狂気じみた科学者ではなく、優れた科学者であり、新しいものを創造することができた人なんです」

キャラクター達の相互理解が、「“解放”をもたらした」と語るデル・トロ監督

――最後に一言ずついただけますか。

小島「彼の『フランケンシュタイン』は普通のモンスター映画ではなく、作品を観て帰り道に『俺もモンスターちゃうかな』『俺も父親やな』『俺も息子やな』とか、そいういうことを多分考えながら帰っていけるので、10年、20年経っても何回も反芻するような映画になると思います。美術とかも素晴らしかったですね。フィギュアが欲しいですね、ジェイコブの」

デル・トロ「近々ジェイコブのフィギュアは世に出る予定です(笑)。今晩、観客の中に、最も恐ろしいフランケンシュタインを作ってくださった伊藤潤二さんが来てくださっています。原作の本当に恐ろしい部分を忠実に描いてくださっています。

今作を通して“受け入れる”ことが、とても稀なことであることが言えると思いますが、その違う者同士が相容れない、和解することができないような立場である両者が、最後にお互いを理解することができたことは、私に“解放”をもたらすものでもありました。

そして小島さん。とても長い付き合いですが、良い時も悪い時も、お互い支援し合ってきた本当に良い友情がありますが、今晩もまたご一緒してださって、本当に意義のある場となりました。心から感謝します」

画像: 『フランケンシュタイン』ギレルモ・デル・トロ新作 ティーザー予告編 - Netflix www.youtube.com

『フランケンシュタイン』ギレルモ・デル・トロ新作 ティーザー予告編 - Netflix

www.youtube.com

Netflix映画『フランケンシュタイン』
一部劇場にて10月24日(金)より公開/11月7日(金)より世界独占配信

This article is a sponsored article by
''.